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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第4章 新事業と枢機卿
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第64話 鍛える理由

翌朝、まだ日が昇る前

ノルディア邸の訓練場には一人の少年が立っていた

レオンだった

もう少年と呼ぶには少し違うかもしれない

二年半前父グラニウスが亡くなった頃のレオンはまだ身体は細かった

成長途中で剣を振る姿にもどこか幼さが残っていた

だが今は違う、背は大きく伸び肩幅も広がった

毎朝欠かさず剣を振り続けた結果

腕にはしっかりと筋肉が付いている

細身ではある、だが無駄な肉は無い

鍛え抜かれた剣士の身体だった

レオンは木剣を握る

静かに構える

次の瞬間。踏み込み鋭い斬撃を放つ

続けて二撃、三撃と木剣が朝の空気を裂く

王国式剣術と帝国式剣術

その両方が混ざった動き

重く

速く

そして無駄が無い

以前なら身体に振り回されていた剣も

今では完全に自分のものになっていた

しばらくして、レオンは気配を感じた

木剣を下ろして振り返ると

訓練場の入口に白い法衣の青年が立っていた


「セリオスさん?」


セリオスは少し困ったように笑った


「お邪魔でしたか?」


「いえ」


レオンは首を振る


「どうされたんですか?」


「昨日のお話が気になりまして」


レオンは何となく察した

ガレス達の話だろう

セリオスは訓練場へ視線を向ける


「本当に毎日されているのですね」


「まぁ……習慣みたいなものです」


レオンは苦笑した

最初から続けられた訳ではない

前世では運動などほとんどしていなかった

当然、毎朝剣を振る生活など続くはずがない

だが、今では身体が勝手に動く

それは一人の少年のおかげでもあった

帝国第二皇子ルーカス・ヴァルハイト

ノルディアへ滞在していた頃

毎朝のように訓練場へ現れた

容赦は無かった

手加減も無かった

負ければ叩きのめされる

だから必死に食らい付いた

気付けば、剣を振る事そのものが日課になっていた


「良い習慣だと思いますよ」


セリオスが微笑むとレオンは苦笑した


「迷惑だったんですけどね……」


ルーカスが聞けば怒りそうだ

セリオスは少し不思議そうな顔をしすぐに真面目な表情になる


「一つ聞いてもよろしいでしょうか」


「えぇ……構いませんよ」


修練場に沈黙が流れた

そして、セリオスは静かに問う


「何故そこまで努力されるのですか」


真っ直ぐな問いだった

レオンは少しだけ黙る

脳裏に浮かんだのは一人の少女

金色の髪の縦巻きロール

赤い瞳

中庭でのダンス

そして夕焼けに照らされた笑顔


クラリス・ローゼンベルク


将来悪役令嬢と呼ばれる少女

だがそれを口には出来ない

未来の話など誰も信じない


次に浮かんだのは別の人物だった

病床に伏していた男

助けれなった家族


グラニウス・ノルディア


レオンは小さく空を見上げた


「……大切なものを守るためです」


セリオスは黙って聞いている

しばらく沈黙が続いた

そして、レオンは静かに口を開く


「私は父上を助ける事ができませんでした」


朝の訓練場に静かな声が響く


「治療法を探していました必死に…………ですが間に合わなかった」


レオンは苦笑する

自嘲にも似た笑みだった


「半日でした」


セリオスが目を瞬く


「半日?」


「ええ」


レオンは頷く


「たった半日です」


レオンは拳を握る

今でも忘れられないあの日の事を


「あと半日早ければ結果は違ったかもしれない」


本当は分からない

助かった保証など無い

だが考えてしまう

もっと早く動いていれば

もっと知識があれば

もっと力があれば

違う未来があったのではないかと

レオンは小さく息を吐きそして空を見上げた


「もう二度と後悔はしたくないんです」


静かな声だった

だが強い意志があった


「だから」


少しだけ笑う


「やれる事を全てやっているだけです」


朝日が昇る

訓練場を淡く照らした

セリオスは何も言わなかった

その必要が無かったからだ

朝は剣術

昼は政務

夜は魔術

そして魔法陣の研究

昨日聞いた話が脳裏を過る

目の前の少年は才能があるから努力しているのではない

後悔したから努力しているのだ

セリオスは静かに目を細めた


「レオン様」


「はい」


「貴方は優しい方ですね」


レオンは少し困ったように笑う


「違いますよ……ただの自己満足です」


「そうでしょうか」


セリオスは微笑む


「私はそうは思いません」


風が吹く

訓練場の端に積もった雪が僅かに舞った

しばらく二人は黙っていた

やがてセリオスは小さく息を吐く


「少し安心しました」


「安心?」


「ええ」


セリオスはレオンを見る

孤児院を大切にしている事

子供達に知識を与えている事

騎士達から信頼されている事

そして今の言葉で全てが繋がった


「貴方がどういう方なのか、少し分かった気がします」


レオンは首を傾げる


「そんな大層な人間ではありませんよ」


「それでもです」


セリオスは穏やかに笑った


「私は貴方を信用出来ると思いました」


レオンは少し驚いた

セリオスはそれ以上語らない

だがその瞳は真っ直ぐだった

少なくとも昨日までの探るような視線ではない

一人の人間としてレオンを見ていた

そしてセリオスは訓練場の外へ視線を向ける


「近いうちに少しお話したい事があります」


「話したい事ですか?」


「はい」


セリオスは頷く


「先日の薬草採取で見つけた薬草についてです」


レオンは僅かに眉を動かす

青色の葉に淡く光る茎

子供が見つけた不思議な薬草


「魔力草ですか」


「ええ」


セリオスの表情が真剣になる


「詳しくお話するには少し準備が必要です」


そう言った後

セリオスは一瞬だけ言葉を迷った

まるで話すべきかどうかを測るように


「本来なら私の立場で軽々しく口に出来る話ではありません」


その声音には僅かな緊張が混じっていた

レオンは思わず目を細める

ただの薬草の話にしては重すぎる


「何かあるんですか?」


問い掛けるとセリオスは少しだけ苦笑した


「まだ確証がありません……ですので後日お話します」


「分かりました」


レオンは頷く


「では後日」


「お願いします」


セリオスは丁寧に頭を下げた

だが去り際、彼は小さく呟いた


「まさかこんな場所で見つかるとは……」


その声はあまりにも小さく

レオンには最後まで聞き取れなかった

そして訓練場を後にする

その背中を見送りながらレオンは木剣を握り直した


【魔力草】


セリオスがあれほど反応した薬草

だがレオンにとっては聞き覚えのある名前だった

ゲームでも登場していたからだ

ただし詳しい説明は無かった

薬屋へ売ると高額で買い取ってもらえる

それだけだった

レオンはただの金策用のレア薬草

その程度の認識しかない

だからこそ不思議だった

何故、セリオスはあそこまで驚いたのか

何故、あれほど慎重な態度を取ったのか

レオンには分からない

だが、セリオスほどの人物が気にする以上

何か意味があるのだろう


「まあ」


レオンは小さく息を吐く


「聞けば分かるか」


今考えても答えは出ない

レオンは再び構える

そして朝日の中、木剣を振った

もう二度と後悔しないために

やれる事を全てやる

ただそれだけだった

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