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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第4章 新事業と枢機卿

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第61話 数字の理由

0時の投稿間違えて予約してませんでした

次の投稿は朝7時になります

急激にブッグマークが増えて驚いてます

リアクションや評価本当にありがとうございます

「レオン様、少しお話ししてもよろしいでしょうか?」


「ええ、構いません」


レオンは静かに頷いた。


どうやら、本題はここかららしい。


その時、庭の様子を見守っていたシスターが一歩前へ出た。


「立ち話も何ですので、中へどうぞ」


レオンとセリオスは顔を見合わせ、揃って頷く。


だが、二人の周囲に集まっていた子供達は不満そうだった。


「えー」


「まだお話ししたい!」


「レオン様、帰っちゃうの?」


子供達から次々に声をかけられ、レオンは困ったように苦笑する。


「帰らない。話が終わったら、また来る」


その言葉を聞いた途端、子供達の顔が明るくなった。


「本当?」


「ああ」


「約束だぞ!」


「分かった、分かった」


レオンが何度も頷くと、子供達はようやく満足したらしい。


再び庭へ散らばり、それぞれの遊びを始めた。


その様子を見つめるセリオスの紅い瞳が、僅かに細められる。


二人はシスターに案内され、孤児院の中へ入った。


通されたのは、来客を迎えるための小さな部屋だった。


豪華な調度品などはない。


置かれているのは、年季の入った机と椅子だけ。


それでも室内は隅々まで綺麗に掃除され、窓際には小さな花瓶が置かれていた。


摘んだばかりらしい色鮮やかな花が、朝の光を受けて静かに揺れている。


全員が席へ着くと、シスターが人数分の茶を並べた。


「ごゆっくりどうぞ」


静かに頭を下げ、部屋を出ていく。


室内に残ったのは、レオン、セリオス、ゼム、クロエ。


そして、セリオスの護衛騎士だった。


暫しの間、誰も口を開かなかった。


庭から聞こえてくる子供達の笑い声だけが、静かな部屋へ届いている。


最初に沈黙を破ったのは、セリオスだった。


「まずは、お礼を申し上げます」


「お礼ですか?」


「はい」


セリオスは窓の外へ目を向けた。


庭では、子供達が先ほどと変わらず元気に遊んでいる。


「孤児院を見せていただき、ありがとうございました」


レオンは静かに頷いた。


「ご存じかと思いますが、多くの孤児院はセレスティア教国の教会が運営しております。もちろん、この孤児院も例外ではありません」


孤児や捨て子を引き取り、成人するまで育てる。


それは教会が担う、大切な役割の一つだった。


セリオスは湯気の立つ茶へ手を伸ばし、一口だけ口に含む。


「王都も、地方も、他国も。私はこれまで、様々な場所にある孤児院を見てまいりました」


そこで、僅かに表情を和らげた。


「ですが、ここまで子供達が元気な孤児院は、そう多くありません。正直、驚いております」


レオンは僅かに目を細める。


多くの孤児院を実際に見てきた枢機卿だからこそ、口にできる評価だった。


「そうですか」


「はい」


セリオスは迷いなく頷いた。


「子供達の表情を見れば分かります。この孤児院は、大切にされています」


短い言葉だった。


だが、そこには確かな重みがあった。


孤児院の帳簿だけではなく、ここで暮らす子供達を実際に見た者の言葉だ。


レオンは小さく息を吐いた。


「ありがとうございます」


セリオスも静かに頷く。


しかし、その表情にはまだ何かを尋ねたそうな色が残っていた。


「ですが、一つだけ気になることがあります」


レオンは内心で、その言葉を予想していた。


「何でしょうか?」


「帳簿です」


やはり、そこだった。


セリオスは穏やかな表情のまま、レオンを真っ直ぐに見つめる。


「食費が減っています。衣服や生活用品の購入費も減っています。それにもかかわらず、子供達の生活水準は明らかに向上している」


僅かに間を置く。


「その理由を、お聞かせいただけますか?」


レオンは少しだけ考えた。


だが、隠すような話ではない。


領内を調べれば、いずれ分かることでもある。


「まず、食費についてですが……討伐したレッドボアの肉を孤児院へ回しています」


セリオスが僅かに目を見開いた。


「討伐した魔獣の肉を、ですか?」


「はい」


レオンは頷く。


「全てを売却する必要はありません。領内で消費する分を残し、その一部を孤児院へ回した方が有益だと判断しました」


孤児院へボア肉を提供すれば、食費を減らしながら子供達の食事を豊かにできる。


結果として帳簿上の支出は減っているが、以前より食事の量も質も向上していた。


セリオスは納得したように頷く。


「では、衣服や生活用品は?」


「専属商人です」


セリオスの視線が、レオンの隣に座るクロエへ移った。


「クロエさんですね」


「うん」


クロエは素直に頷いた。


「ノルディア領のボア肉を王都周辺まで運んで、その帰りに衣服や生活用品を仕入れてるんだ。その一部を孤児院へ回してる」


クロエは窓の外で遊ぶ子供達へ目を向け、僅かに微笑んだ。


「孤児院の子達は成長が早いからね。服なんて、すぐに小さくなっちゃうし」


成長するたびに新品を買い直していては、費用がかかりすぎる。


そこでクロエは、王都周辺で安価な衣服や布を纏めて仕入れ、ノルディア領へ運び込んでいた。


セリオスは理解したように頷く。


そして、残された最後の疑問を口にした。


「薬草の採取による収入については?」


その問いに、レオンの表情が僅かに変わった。


「それは、父上の時代から続いているものです」


セリオスは何も言わず、続きを待つ。


「孤児院の子供達へ、薬草採取の仕事を依頼しています」


「仕事、ですか?」


「ええ」


レオンは静かに頷いた。


「ただし、森には魔獣が出ます。ですので、必ず護衛を付け、採取は討伐隊が森へ入っている日に限定しています。さらに、危険地帯へ近づくことも禁止しています」


子供達だけで森へ入ることは許さない。


採取できる場所も、比較的安全な区域に限られている。


その決まりを破れば、先ほど子供達が話していた通り、厳しく叱られることになる。


「父上は、子供達に金の大切さと、働くことの大切さを知ってほしいと考えていたそうです」


室内へ、静かな空気が流れた。


「だから、孤児院への施しとして金を渡すのではなく、仕事として薬草の採取を依頼した」


レオンは父から受け継いだ仕組みを、確かめるように言葉へしていく。


「ただ与えられた金ではなく、自分達が働いて得た対価として受け取ってほしかったんだと思います」


セリオスは黙ってその話を聞いていた。


一方的な施しではない。


子供達が成長し、やがて孤児院を出た後のことまで考えた支援だ。


働き、その対価を受け取る。


自分で得た金をどう使うか考える。


グラニウスは、子供達が将来自立して生きていけるよう、その機会を与えていたのだ。


暫くの間、室内には沈黙が流れた。


やがてセリオスは、静かに頭を下げる。


「失礼いたしました」


レオンは不思議そうに首を傾げた。


「何がでしょうか?」


セリオスは少し言いづらそうに視線を伏せる。


そして、ゆっくりと口を開いた。


「実は……人身売買などが行われている可能性を疑っておりました」


部屋が静まり返った。


クロエが驚いたように目を瞬かせる。


ゼムは表情を変えなかったが、黙ったままセリオスの言葉へ耳を傾けていた。


セリオスは申し訳なさそうに続ける。


「孤児院で暮らす子供の数は減っている。そのため支出も減少している。ですが、それに反して寄付金は増えている」


レオンも何も言わず、続きを待った。


「数字だけを見れば、不自然な変化でした」


孤児院から不当に子供達を連れ出し、その対価を寄付金として帳簿へ記録している。


セリオスは、そのような可能性まで考えていたのだろう。


「もちろん、何の証拠もありませんでした。ですから、事実を確認するために自分の目で確かめたいと思い、ここへ参りました」


セリオスは一度言葉を切る。


そして、膝の上で両手を握った。


「私は……子供が関わる問題を、見過ごすことができません」


短い言葉だった。


だが、そこには決して譲ることのできない、強い意志が込められていた。


レオンは静かに、その姿を見つめる。


ゲームの中でも、セリオスは同じだった。


孤児院へ寄付を行い、貧民街へ食料を届け、困っている子供がいれば身分に関係なく手を差し伸べる。


セリオス・セラフィスとは、そういう人物だった。


だから、子供達を心配する言葉そのものに違和感はない。


ただ、なぜ彼がそこまで必死になるのか。


その理由までは、レオンも知らなかった。


セリオスは再び顔を上げる。


「結果として、私の勘違いだったようです。申し訳ありませんでした」


そして、もう一度深く頭を下げた。


室内は静かだった。


レオンは数秒間考えた後、小さく息を吐く。


「いえ……それで子供達が助かるのであれば、疑うことも必要でしょう」


セリオスが少し驚いたように顔を上げた。


怒りや非難を向けられると思っていたのかもしれない。


だが、レオンの表情は穏やかなままだった。


「それに……こちらも謝らなくてはいけません」


今度は、レオンが頭を下げる。


クロエが目を瞬かせた。


セリオスの護衛騎士も、不思議そうにレオンを見つめる。


「申し訳ありません。俺も枢機卿様を試しました」


そう告げると、レオンは懐へ手を入れた。


取り出したのは、一つの革袋。


金貨と銀貨が詰まった、ずしりと重い袋だった。


それを見た瞬間、護衛騎士が両手で頭を抱える。


嫌な予感が的中した。


その表情は、何より雄弁にそう語っていた。


「これは……」


セリオスが、革袋を見つめたまま呟く。


「昨日のものです」


レオンは袋を机の上へ置いた。


「枢機卿様については、以前から様々な噂を聞いておりました。ですが、噂だけでは本当の人物までは分かりません」


レオンはセリオスを真っ直ぐに見つめる。


「ですので、実際に困っている人間を前にした時、どのような行動を取るのか確認させていただきました」


セリオスは机の上に置かれた袋を見つめたまま、何も言わない。


室内へ重い沈黙が落ちる。


怒るだろうか。


無礼だと責められても仕方がない。


相手は教国の枢機卿であり、レオンはその善意を利用して試したのだ。


やがてセリオスは、小さく息を吐いた。


「良かったです……」


予想していなかった言葉に、部屋が静まり返る。


セリオスは安堵したように微笑んだ。


「本当に……良かった」


レオンは理解できず、僅かに首を傾げた。


怒られると思っていた。


だが、セリオスの顔に浮かんでいるのは、偽りのない安堵だった。


「どういうことでしょうか?」


尋ねられたセリオスは、革袋へ視線を落としたまま困ったように笑う。


「あはは……病気のお母様がいなかったことに、安堵したのです」


その声は静かだった。


レオンは言葉を失う。


クロエも驚いたように目を瞬かせた。


ただ一人、護衛騎士だけは頭を抱えたままだった。


セリオスが何と答えるのか、最初から分かっていたらしい。


「試されたことについては、少々複雑な気持ちですが……」


セリオスは苦笑しながら続ける。


「それでも、病に苦しんでいる方がいなかったのであれば、それが一番です」


それが、セリオスの本心だった。


自分の善意を試されたことへの怒りよりも先に、病人が存在しなかったことへの安堵が訪れる。


それが、セリオス・セラフィスという人間だった。


レオンは暫く何も言えなかった。


やがて、呆れとも感心ともつかない息を吐く。


「変わった方ですね」


セリオスは不思議そうに首を傾げた。


「そうでしょうか?」


「そうだと思います」


クロエも隣で小さく頷く。


「ボクもそう思う」


護衛騎士も、心の中では誰より強く同意していた。


暫くして、セリオスが小さく笑う。


「お互い様ですね」


レオンも、その言葉に僅かに笑みを返した。


「そうなりますね」


昨日よりは、互いのことを少しだけ理解できたような気がした。


それでも、レオンはまだセリオスの全てを知ったわけではない。


セリオスもまた、レオンが何を考え、何を目指しているのかまでは知らない。


だが、少なくとも一つだけは確かだった。


目の前にいる男が、子供達のことを本気で心配している。


それだけは、もう疑いようがなかった。

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