第60話 孤児院の日常
まだ日が昇り切る前だった
レオンはノルディア邸の正門へ向かっていた
後ろにはゼムそしてクロエもいる
「眠い……」
クロエが欠伸をする
「なら寝てろ」
「気になるから無理」
即答だった
レオンは苦笑する
どうやらクロエもセリオスが気になっているらしい
「おぼっちゃま」
ゼムが声を掛ける
「竜車の準備は完了しております」
「分かった」
三人は竜車へ乗り込んだ
孤児院まではそれほど遠くない
だがレオンは窓の外を見ながら考える
セリオス・セラフィス
教国最年少枢機卿
攻略対象の一人
そして、ゲームでは慈愛の聖人
だが現実はゲームではない
本当に聖人なのか
まだ判断できない
ふと未来予知の魔眼を持つ右目を押さえた
セリオスルート
貴族粛清
クラリス死亡する
貴族である自分ですら危ない未来
王都の貴族達が処刑台へ送られる
ゲームではそうだった
だがあの人の良さそうな男が本当にそんな事を望むのか?
レオンには想像できなかった
「着きました」
ゼムの声で思考が止まる
竜車が止まったのだ
既に孤児院に到着していた
朝の空気は冷たい
子供達の笑い声が聞こえる
レオンは孤児院へ足を向けた
すると庭の中央で見覚えのある人物がしゃがんでいた
金色の髪
白い法衣
セリオスだった
そして周囲には子供達が十人近くいる
「枢機卿様!」
「見て見て!」
「こっち!」
子供達が次々と話しかける
セリオスは困ったように笑った
「一人ずつ、順番にお願いします」
全然追いついていない
だが、嫌そうな顔はしていなかった
むしろ楽しそうだった
「お兄ちゃん!」
小さな少女が走る
足がもつれ、転ぶ
レオンは反射的に動こうとした
しかし、それより早く
セリオスが立ち上がり少女を受け止める
「危ないですよ」
優しく頭を撫で少女は笑う
その様子を見ていたクロエが小声で呟く
「演技には見えないね」
「ああ」
レオンも同意した
少なくとも子供相手に演技をしているようには見えない
その時だった
「あっ!」
一人の少年が声を上げた
「レオン様だ!」
子供達が一斉に振り返る
「本当だ!」
「レオン様!」
「おはよう!」
「見て見て!」
今度は子供達が一斉にレオンへ駆け寄った
セリオスは少し目を丸くする
昨日聞いた話以上だった
子供達はまるで兄を見つけたような顔をしている
レオンは苦笑した
「朝から皆んな元気だな」
「レオン様も!」
「おはよう!」
「今日は何しに来たの?」
次々と質問が飛んでくる
レオンも慣れた様子だった
「ちゃんと朝飯食ったか?」
「食べた!」
「薬草の勉強は?」
「した!」
即答だった
だが
別の子供が叫ぶ
「嘘だ!コイツ昨日寝てたよ!」
一瞬で暴露された
レオンは呆れた顔になる
「後で全員確認だな」
「「えぇぇぇー!?」」
子供達の悲鳴が上がる
セリオスは思わず笑った
クロエも少し呆れたように肩を竦める
「何それ!?先生みたい」
「いや、実際教えてるからな」
レオンは肩を竦めた
その時小さな少女がレオンの服を引っ張った
昨日レオンが好きと言った少女だった
「レオン様!」
「ん?」
少女は満面の笑みで宣言する
「わたし大きくなったらレオン様の愛人になる!」
この場に沈黙が流れた
レオンが固まる
セリオスが固まる
護衛騎士が固まる
ゼムは静かに目を閉じた
クロエの眉がぴくりと動く
「愛人……」
クロエは小さな声だった
だが少し不機嫌そうだった
少女は気付かず胸を張る
「レオン様優しいもん!かっこいいもん!」
周囲の子供達は大爆笑だった
「また愛人だって!」
「意味分かってないだろ!」
「うん!分かんない!」
少女は堂々と言い切る
全く分かっていなかった
レオンは額を押さえる
「…………誰に教わったんだ?」
少女は元気よく答えた
「おばちゃん達!」
レオンは天を仰いだ
後で本当に注意しなければならない
その横でクロエは小さく頬を膨らませていた
「愛人はダメでしょ……」
誰にも聞こえないくらいの声だった
だが、ゼムだけは聞こえていた
そして何も言わなかった
笑い声が庭へ響く
セリオスはその光景を静かに見つめた
昨日聞いた話は本当だった
レオン・ノルディアは子供達に慕われている
それも心から
少なくとも、演技や見せかけでは生まれない関係だった
そんなレオンへセリオスは静かに声を掛ける
「レオン様、少しお話よろしいでしょうか」
レオンも表情を戻す
「えぇ構いません」
どうやら
本題はここかららしかった




