第58話 疑いの目
兵士が退室する
執務室には再び静寂が戻った
レオンは机の上の金貨袋を見る
普通の平民なら数年は暮らせる金額だ
それを見知らぬ相手へ渡した
しかも躊躇なく
クロエが呆れたように呟く
「本当に変な人だね」
「ああ」
レオンも同意する
ゼムが口を開く
「ですが少し気になります」
「何がだ?」
「孤児院です」
レオンは顔を上げ、ゼムは続ける
「枢機卿ほどの立場の人物がわざわざ辺境まで来る理由です」
確かにそうだった
孤児院の視察は理由としては分かる
だが枢機卿本人が来る必要があるのか?
普通なら部下を送る
わざわざ自分で来る意味は無い
クロエも腕を組む
「それは僕もそれは思った」
クロエは指を一本立て続けた
「だって孤児院を見るだけなら教会の人を派遣すれば良いよね」
レオンは窓の外を見る
夕日はほとんど沈みかけていた
セリオス
教国最年少枢機卿
攻略対象の一人
ゲームでは慈愛の聖人
だが現実ではまだ分からない
レオンは小さく息を吐く
「明日だな」
クロエが首を傾げる
「何が?」
「孤児院だ」
レオンは立ち上がる
「俺も行って直接見た方が早い」
クロエは少し笑った
「結局気になるんじゃん」
「気になるな」
レオンは否定しなかった
善人なのか
聖人なのか
それとも別の何かなのか
まだ分からない
だが、少なくとも放っておけない人物なのは確かだった
その頃
孤児院の一室
セリオスは一冊の帳簿を読んでいた
孤児院の支出記録
食料
衣服
生活用品
そして寄付金
静かにページをめくる
しばらくしてセリオスは静かに帳簿を閉じた
「おかしいですね」
護衛騎士が首を傾げる
「何がですか?」
「計算が合いません」
セリオスは孤児院の庭を見る
子供達が笑っていた
走り回っていた
以前訪れた別の孤児院よりも明らかに表情が明るい
「孤児も減って運営費は少なくなっているのに、生活環境は改善されている……しかも寄付金は増えている」
護衛騎士は頷く
良い事ではある
だが、セリオスは不思議そうに首を傾げた
「普通なら有り得ないんです……孤児が減れば寄付も減る、それが辺境なら尚更です」
セリオスは帳簿を指で叩く
「ですがここは逆です、子供は減っているのに寄付は増えて生活水準が上がっている」
セリオスが護衛騎士に問いかけた
「何故でしょう?」
護衛騎士は答えられない
セリオスも答えを知らない
だから知りたい
ただそれだけだった
セリオスは窓の外を見た
夕日に照らされた孤児院
笑う子供達
そして遠くに見えるノルディア邸
どれも偽物には見えない
だからこそ不思議だった
「何かがありますね……」
セリオスは静かに呟く
それは疑念ではない
純粋な好奇心だった
ノルディア領が良くなっている理由
その答えを彼はまだ知らない




