第57話 試した結果
夕方には兵士はノルディア邸へ戻った
そして執務室へ入る
レオン
クロエ
ゼム
三人が待っていた
兵士は敬礼をした
「任務完了しました」
「ありがとう、お疲れ様」
レオンが頷く
兵士は腰の袋を取り出した
そして机の上へ置く
ずしりと重い音が響いた
レオンが眉をひそめる
「それは?」
「枢機卿より渡された金銭です」
執務室に沈黙が流れた
クロエが固まり
ゼムも無言になる
レオンは無言のまま袋を開いた
中には金貨と銀貨
決して少なくない金額だった
「……全部か?」
「はい」
兵士は即答した
「枢機卿の所持金全てと思われます」
クロエが額を押さえた
「馬鹿だ……」
ゼムも頷く
「馬鹿ですね」
レオンも同意した
「馬鹿だな」
満場一致だった
兵士は真面目な顔のまま報告を続ける
「私は母が病気であり、薬代も医者を呼ぶ金も無いと説明しました」
レオンは黙って聞く
「その際、枢機卿は私の腕に残っていた痣を発見されました」
兵士は腕を見せた
何も無い
綺麗な状態だった
「訓練中に出来た痣があったのですが、聖属性魔法によって治療されました」
クロエが目を丸くする
「痕も残ってない……」
「はい」
兵士は頷いた
「痛みも消失しております」
レオンは腕を見る
完全に治っていた
兵士は続ける
「なお、怪我の理由については一切確認されておりません」
腕を戻しながら兵士は続けた
「最初に掛けられた言葉は……『痛かったでしょう』でした」
執務室が静かになる
レオンは腕を組んだ
兵士はさらに続ける
「その後、病気は治せないが薬や医者は呼べるかもしれないとの説明を受け、そして所持金全額を渡されています」
クロエが呟く
「本当に全部?」
「はい」
「護衛騎士が止めていましたが渡しました、必要なら本人も診察へ向かうとの発言も確認しております」
クロエは頭を抱えた
「馬鹿だ……」
二回目だった
ゼムも珍しく同意する
「馬鹿ですね」
レオンも頷いた
「馬鹿だな」
三回目だった
だが執務室はすぐに静かになる
兵士は真顔で立っている
任務は終わった
判断するのは主君の役目だ
レオンは窓の外を見る
夕日が沈み始めていた
しばらくして口を開く
「演技だと思うか?」
クロエは即答した
「思わないよ……僕ならもっと上手くやる」
レオンは苦笑した
確かにそうだった
クロエは商人だ
人を騙す方法も知っている
だからこそ分かるのだろう
「ゼムは?」
「少なくとも今回の件は本心でしょう」
レオンは小さく息を吐いた
【本心】
だから困る
もし演技なら簡単だった
警戒すればいい
だが本心なら話は別だ
本気で見ず知らずの他人を助けようとしている事になる
そんな人間が本当に存在するのか
レオンにはまだ分からなかった
だが、一つだけ確かな事がある
セリオス・セラフィスは噂通り困っている人を見捨てない
少なくともそれだけは本当だった
レオンは机の上の金貨袋を見る
そして呟いた
「面倒な人だな……」
その言葉にクロエもゼムも静かに頷いた




