第51話 貴族の派閥
扉が開くと、そこにはゼムとクロエの姿があった
灰色の髪
黒い瞳
今では見慣れた専属商人の姿
クロエは軽く手を振る
「やあ」
「おう」
レオンも手を振り返した
ゼムは二人を見て小さく頭を下げる
「それでは私は失礼します」
「待て」
レオンが即座に止めた
「何でしょう」
「ゼムも残ってくれ」
ゼムは素直に頷く
「承知しました」
クロエは向かいの椅子へ腰を下ろした
そして執務机の上を見る
帳簿
報告書
地図
商会との取引記録
書類の山だった
「相変わらず凄いね」
「何がだ?」
「書類だよ」
クロエは苦笑する
「辺境伯の執務室っていうより商会だよね」
「俺も最近そう思う」
レオンは肩を竦めクロエは笑った
だがすぐに真面目な顔になる
「それで?」
「何がだ」
「何か考え込んでたでしょ」
レオンは少し驚く
意外と鋭い
レオンは机の上の紙を見る
そこには四つの名前が書かれていた
アレク
ルーカス
セリオス
カイン
クロエは首を傾げる
「誰?」
「未来の厄介事だ」
「何それ」
「説明すると長い」
クロエは納得していない顔だった
だが追及はしなかった
代わりに帳簿へ視線を移す
金貨二〇二三枚
その数字を見て口を開く
「増えたね」
「増えたな」
「でも足りない?」
「全然足りない」
レオンは即答した
「あと一万七千枚以上だ」
クロエは肩を竦める
「相変わらず無茶だね」
しばらく沈黙が流れる
そしてクロエが言った
「次の事業を考えるのも大事だけど、その前に王国を知った方が良いと思うよ」
「王国?」
「うん、派閥とか」
レオンは首を傾げた
「派閥?」
クロエは目を丸くする
「知らないの?」
「知らん」
「辺境伯なのに?」
「知らん」
クロエは頭を抱えた
「よくそれで今までやってこれたね」
「何とかなった」
「なってないよ」
即答だった
その時、ゼムが静かに口を開く
「そういえば説明しておりませんでした」
「何でだ」
「必要ありませんでしたので」
レオンは納得出来なかった
クロエはため息を吐く
「それでノルディア家はどこの派閥なの?」
ゼムは少し考え、そして答える
「現在は無派閥です」
「現在は?」
クロエが反応する
ゼムは頷いた
「元々は中立派でした」
レオンも少し驚く
「そうなのか?」
「はい」
ゼムは静かに続けた
「ですが先々代ヴァルグ様の代で脱退しております」
「何でだ?」
ゼムは少しだけ遠い目をした
そして答える
「中立派の会合に参加した際の事です」
ゼムはゆっくりと目を閉じた
「派閥同士の牽制、王都貴族同士の駆け引き、利権の話など、誰がどの役職に就くかそういった話が延々と続いたそうです」
クロエは何となく察した顔をした
レオンも嫌な予感がした
ゼムは続ける
「そして途中でヴァルグ様が立ち上がり……
『つまらん!』
執務室に大声が響いたような気がした
『こんな話をするくらいなら魔物を狩っている方が有意義だ』
と言って帰られたそうです」
執務室には沈黙が流れた
クロエが吹き出した
「ぶふっ!」
肩を震わせて笑っている
レオンも思わず額を押さえた
「マジか……」
「マジです」
ゼムは真顔だった
「その後、中立派から説得の使者が何度も来ましたが全員追い返されたそうです……
『帰れ』
『帰れ』
『帰れ』
そんな感じだったとか」
クロエは完全に笑いを堪えられなくなっていた
レオンも苦笑する
会った事はない
だが何となく分かった
豪快な人だったという話は本当だったらしい




