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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第3章 宿場町と怪しい商人
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間章 グリフォンの紋章

戦争が終わって十数年が経った

ノルディア領の訓練場に木剣のぶつかる音が響く


「はああああっ!!」


少年となったグラニウスが踏み込む力強い一撃

だがゼムは半歩だけ身体をずらした

木剣が空を切った

そのままゼムの木剣の先がグラニウスの首元で止まった


「そこまででございます」


勝負は決した

グラニウスは肩で息をしていた

額には汗

対してゼムは涼しい顔をしている

汗一つかいていない


「参りました」


グラニウスが木剣を下ろす

ゼムは一礼した


「グラニウス様はまた強くなっておられます」


穏やかな笑顔

完璧な礼儀

だがグラニウスは顔をしかめた


「嘘だな」


「何がでしょうか」


「絶対そう思ってないだろ」


ゼムは首を傾げる


「思っておりますが」


「その顔で言われても嬉しくない」


本気で分かっていないらしい

訓練を見ていたヴァルグが吹き出した


「がははははは!!」


グラニウスはため息を吐く


「ますます母上に似てきたな」


ゼムは即座に頭を下げた


「お褒め頂きありがとうございます」


「褒めてない」


即答だった


「そうなのですか?」


「その態度だ」


グラニウスは木剣を肩に担ぐ


「母上も父上に同じ顔をする」


ヴァルグの笑い声が止まった


「おい」


だがグラニウスは続ける


「父上が何かすると……

『流石でございます』

『素晴らしい判断でございます』

『感服致しました』

そう言うんだ」


ゼムは頷いた


「素晴らしい事ではありませんか」


「顔が全然そう言ってない」


訓練場に笑い声が響いた

ヴァルグは腹を抱えて笑う


「がははははは!!確かにそっくりだ!!」


グラニウスは呆れたように肩を竦めた

ゼムは首を傾げる


「つまり私は奥様に似ていると」


「そこだ」


グラニウスは深いため息を吐いた


「そこが似てるんだ」


ヴァルグは笑いながら立ち上がった


「今日は終わりだ」


「はい」


「ありがとうございました」


二人は訓練場を後にする

ヴァルグはその背中を見送った

真っ直ぐ前を歩くグラニウス

迷いなく進むその姿は獅子のようだった

その半歩後ろを歩くゼムは周囲をよく見ている

冷静で賢い、まるで鷹だった

ヴァルグは小さく笑う


「獅子か」


そして呟く


「鷹だな」


そのまま執務室へ戻った

机の書類の山はいつもの光景だった

酒を一口飲むとふと壁を見る

そこにはノルディア家の紋章

ただの盾だった

しばらく眺めそして一言


「つまらんな」


近くにいた家臣が固まる

嫌な予感しかしなかった


「辺境伯様?」


ヴァルグは壁の紋章を見ながら言う


「変えるか……」


「何をですか?」


「紋章だ」


執務室が静まり返った

家臣達が固まる


「辺境伯様!?」


「何を仰っているのですか!?」


ヴァルグは首を傾げた


「駄目なのか?」


「駄目です!!」


全員即答だった


「紋章は家の歴史そのものです!簡単に変えるものではありません!」


ヴァルグは鼻を鳴らした


「だが今のノルディアは俺だけじゃない」


家臣達が黙るがヴァルグは続けた


「これからはグラニウスの時代だ」


そして少し笑う


「ゼムもいる」


再び沈黙が執務室に流れた

家臣達は何となく察した

辺境伯が何を考えているのかを

ヴァルグは近くに立っていた兵士を指差した


「お前」


「は、はい!」


兵士の背筋が伸びる


「前に報告書へ落書きしていただろ」


兵士の顔から血の気が引いた


「え……?」


「絵が上手かったな」


「辺境伯様……」


「何だ」


「十年以上前の話です」


ヴァルグは豪快に笑った


「がはははは!覚えておるぞ!」


兵士は全く嬉しくなかった

ヴァルグは机から紙を引っ張り出した

そして兵士へ押し付ける


「描け!」


「は?」


「獅子と鷹だ」


兵士は固まった


「意味が分かりません」


「俺は分かる」


兵士はもっと分からなくなった

ヴァルグは笑う


「獅子みたいな息子がいる、鷹みたいなガキがいる、だから合わせろ」


「無茶です!」


ヴァルグは豪快に笑った


「がはははは!」


そして冗談のように言う


「描かなかったら打首な」


兵士の顔から血の気が引いた


「辺境伯様ぁぁぁぁぁ!!」


執務室に悲鳴が響く

家臣達は呆れたように頭を抱えた

それはいつもの事だった

兵士は半泣きになる


「どんな生き物ですか!?」


ヴァルグは腕を組み少し考えた

そして堂々と言った


「知らん!」


「辺境伯様ああああああ!!」


兵士は泣きながら紙へ向かった


―数十分後―


震える手で紙を差し出す

そこには一匹の幻獣が描かれていた

鷹の頭

獅子の身体

大きく広げられた翼

鋭い爪

力強い四肢

その生き物が咆哮している姿

ヴァルグはそれを見た瞬間立ち上がった


「これだ!!」


家臣達が悲鳴を上げる


「辺境伯様ああああああ!!」


だがヴァルグは満足そうだった


「鷹みたいに賢いゼム、獅子みたいに強いグラニウス」


そして笑う


「これからのノルディア家だ」


だが家臣の一人が青ざめながら叫んだ


「お待ちください!!」


「今度は何だ?」


「生き物の紋章は王家のみです!!」


執務室が静まり返る


「王家の紋章は竜!それ以外の貴族家は武具や植物のみ!生き物など前例がありません!!」


ヴァルグは紙を見て言った


「だが竜じゃない」


家臣達が固まる


「……は?」


ヴァルグは紙を指差した


「これは鷹と獅子だ」


「そうですが!」


「竜じゃない」


そして続ける


「それに架空だ」


沈黙


「存在しない生き物だろう?」


誰も反論出来なかった

理屈としては間違っていない……理屈としては

家臣達は頭を抱える

ヴァルグは満足そうに頷いた


「よし……決まりだ!」


こうしてノルディア家の新しい紋章が決まった

翼を広げるグリフォンは鷹のように賢い少年と獅子のように強い息子

二人の未来を象徴する紋章だった

その時年配の家臣が小さく呟く


「竜は実在するというのに……」


ヴァルグは鼻を鳴らした


「だから王家の紋章なんだろう」


そう言い放つとヴァルグは邸中に響く程の笑い声で笑っていた


―後日―


王都から一通の手紙が届いた

裏には竜の紋章が刻まれた封蝋

王家からの正式な書状だった

家臣達が固唾を飲んで見守る中ヴァルグは封を切る

しばらく読み進めそして鼻を鳴らした

そこにはこう書かれていた


ノルディア家紋章変更の件について説明を求める

速やかに王都へ参上されたし エルグランド王国



執務室が静まり返る

家臣達の顔が青くなる

当然だったそれは王命である

だがヴァルグは豪快に笑った


「がはははは!!」


そして近くにあったペンを掴み手紙を裏返す

さらさらと何かを書いた

書き終えると満足そうに頷く

家臣が恐る恐る覗き込んだ

そこには大きな文字で一言


【お前が来い!】


執務室が凍り付いた


「へ、辺境伯様……」


「何だ」


「相手は国王陛下です」


「知ってる」


全く気にしていなかった

ヴァルグは手紙を畳む

そして近くにいた兵士へ放り投げた


「お前」


「は、はい!」


「これを商人ギルドから出してこい」


兵士が固まる


嫌な予感しかしない


「辺境伯様……」


「何だ」


「嫌な予感しかしません」


ヴァルグは豪快に笑った


「がはははは!!」


そして笑顔のまま言った


「出さなかったら打首な?」


兵士の顔から血の気が引いた


「辺境伯さまぁぁぁぁぁぁぁ!!」


執務室に悲鳴が響く

だがヴァルグの笑い声は止まらなかった


「がははははは!!」


こうして後に王国中を騒がせる事になる

ノルディア家の紋章変更騒動は新たな騒動を呼び込むのだった

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