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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第3章 宿場町と怪しい商人
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間章 新しい家族

雪が降って冷たい風が吹く

帝国南西部の小さな町

十歳のゼムは家の前で座り込んでいた

ゼムはもう何日も待っている

父を

母を

父は帝国軍騎士に所属していた厳しい人だった

父は剣を教えてくれた

母は帝国魔術軍に所属していた優しい人だった

母は本を読むのが好きだった

二人とも戦争へ行った

王国との戦争だった

最初は皆言っていた

すぐに帝国が勝って終わるから心配はいらないと

だが現実は違った

撤退

敗走

補給路の崩壊

そして最後は父も母も帰ってこなかった

戦死の通達だけが届いた

理解したくなかった

だが

家は空になった

食料も無くなった

助けてくれる人もいない

ゼムは十歳で戦争孤児孤児になっていた

そして知る事になる、両親が戦った相手を

ノルディア辺境伯【ヴァルグ・ノルディア】

王国北方最強の男にして帝国軍を壊滅へ追い込んだ英雄

ゼムは拳を握った

許せない

父を

母を

奪った男

絶対に殺してやる……そう誓った

父の形見を手に取る

それは細く長い帝国式長剣

帝国騎士だった父が使っていた剣だ

これだけが残された唯一の家族の繋がりだった


数日後、ゼムは荷馬車の下へ張り付いていた

王国へ向かう商隊、冷たい風が吹く

腕は痛い

腹も減った

それでも離さない復讐のためだった

そして辿り着くノルディア領に

その夜、ゼムは屋敷へ侵入した

塀を越え父の剣を握る

目指すは辺境伯の首

だがあまりにも甘かった


「そこまでだ!」


背後から声で振り返る

兵士達だった

既に囲まれている

ゼムは叫んだ


「どけ!」


剣を抜き突撃する

当然だった

十歳の子供が歴戦の兵士に敵うはずもない

一瞬で地面へ押さえ付けられた

父の剣も奪われた


「離せ!……離せぇ!!」


暴れるのだが動けない

そのまま執務室へ連行された

部屋の奥に一人の男が座っていた

大柄な体

熊のような体格

白髪混じりの髪

豪快な顔

酒瓶を片手に笑う男 ヴァルグ・ノルディアだった


「それで?」


ヴァルグが言う


「何で俺を殺そうとした?」


ゼムは叫んだ


「お前に!……父さんと母さんを殺されたからだ!」


執務室が静まり返る

だが、ヴァルグは大笑いした


「がははははは!!」


腹を抱える


「仇討ちか!?面白いガキだな!!」


ゼムは怒鳴る


「笑うな!……殺してやる!」


するとヴァルグは立ち上がった

兵士から木剣を奪う

そして言う


「よし!やってみろ」


兵士達が固まる


「辺境伯様!?」


「構わん」


ヴァルグは笑う


「俺を殺しに来たんだろ?なら受けてやる」


ゼムの剣が返され勝負が始まった

全力だった

怒り

憎しみ

悲しみ

全部込めた

だが届かない

一歩も

一太刀も

かすりもしない

気付けば床に倒れていた

父の剣は遠くへ飛ばされている

首元には木剣が当てられていた

完敗だった

五秒も掛かっていない

悔しくて涙が出る

その時だった、兵士が剣を抜いた


「辺境伯様、コイツは帝国人です」


別の兵士も続けた


「しかも暗殺未遂犯です、処刑を「待て」」

ヴァルグの低い声だった

兵士が固まる

ヴァルグはゼムの前まで歩いた

そしてしゃがみ込みゼムの目を見た


「おい!ガキ」


ゼムは睨む


「お前は家族を失った」


静かな声だった


「それは戻らん」


ゼムの拳が震える

そして、ヴァルグは続けた


「だがな……死んだ者を馬鹿にするな!」


ゼムが目を見開く


「お前の父親は王国の奴を殺したくて戦場へ向かったのか?お前の母親は王国を滅ぼしたいと戦場にい向かったのか?」


答えられない


「違うだろうが!」


怒号が響く


「友人を、家族を、守るために自国の事を思って戦場にでるのだ!」


ヴァルグの目が鋭くなる


「俺も息子と妻を失った」


執務室が静まり返る


「跡取りだった……強かった……俺より強くなると思っていた……妻は俺にしちゃーいい女だった」


少しだけ寂しそうに笑う


「だが帰ってこなかった……帝国とのアホな戦争でな」


ゼムは何も言えない


「だから分かる、お前の気持ちは良く分かる」


そしてヴァルグは突然怒鳴った


「だが仇討ちなどけしからん!!」


部屋が震える


「死んだ奴らの覚悟を踏みにじる気か!?命を懸けて守ったものを無駄にする気か!」


誰も声を出せないさらに家臣が口を開く


「ですが辺境伯様!親は帝国兵ですぞ!」


ヴァルグの目が細くなる


「馬鹿者」


静かな声だった


「親の罪を子供に押し付けるな」


家臣が黙る


「戦ったのは親だ……このガキじゃない」


兵士の方を向くヴァルグの目には深い闇を写していた


「コイツはただ家族を失っただけだ」


そしてヴァルグは豪快に笑った

まるでいつものように


「おいガキ」


ゼムが顔を上げる


「お前は家族を失った!それは戻らん」


ゆっくり近づきゼムの目の前まで顔を近づけた


「だがな……新しい家族は作れる」


理解出来なかった

何を言っているのか

そして、ヴァルグは親指で自分を指した


「俺の家族になれ!」


全員が固まった


「へ、辺境伯様!?」


「何を仰っているのですか!?」


家臣達が騒ぐ、それは当然だった

敵国の孤児、しかも暗殺未遂犯を犯した相手だ

ヴァルグは不思議そうな顔をした


「何だ?何がおかしい?」


「おかしいに決まっております!」


ヴァルグは鼻を鳴らす


「こいつは俺が家族を奪ったと言っている」


そして豪快に笑った


「じゃあ俺がなるしかないだろう!!」


執務室が静まり返った兵士は唖然としていたが

豪快に笑うヴァルグの声だけが執務室に響いた

ゼムはこうしてノルディア家の側仕えになったのだった




十数年後、初めて執事服に袖を通した日

ヴァルグは一本の剣をゼムへ差し出した

父の形見……あの日奪われた剣だった

ゼムは受け取りそして気付く

柄頭にはには新しい紋章

翼を広げ【雄叫びを上げるグリフォン】

ノルディア家の紋章だった

ヴァルグは笑う


「返すぞゼム、今度は守るために振るえ」


ヴァルグは邸中に聞こえるかの如く笑ったそして最後に一言


「お前は既にノルディアの家族だからな」


ゼムは剣を握り締めた

帝国で生まれた剣

ノルディアで与えられた居場所

その日ゼムは心に誓った

この命が尽きるまでノルディア家を守り抜くと

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