第49話 感謝の花と懺悔の花
花屋はリックの教えてくれた道の途中にあった
小さな店だっただが店先には色とりどりの花が並んでいる
クロエは足を止めた
「いらっしゃい」
年配の女性店主が声を掛ける
そしてクロエの視線の先を見た
それだけで察したらしい
「お参りかい?」
クロエは小さく頷いた
「うん」
店主は優しく笑う
「旦那様かい」
クロエは驚いた
店主は慣れた様子だった
「最近は毎日だからねぇ」
「毎日?」
「そうさ」
店主は花束を作りながら話し始めた
「今でも誰かがお参りに来るんだ」
「騎士も領民も冒険者もね」
クロエは黙って聞いていた
店主は少し懐かしそうに笑う
「良い領主様だったよ」
その言葉が重かった
花束を受け取り代金を支払う
そして墓へ向かった
丘を登る
風が吹き花が揺れる
近付けば近付くほど花の多さが分かった
一本道の両側には見渡す限り花が広がっている
新しい花
少し枯れ始めた花
数え切れないほど並んでいた
どれだけの人がここへ来たのだろう
やがて石碑の前へ辿り着く
グラニウス・ノルディア
そう刻まれていた墓石があった
クロエは静かに花を供える
そして墓石の前に立った
初めてだった、レオンの父と向き合うのは
しばらく沈黙が続く、風だけが静かに吹いていた
その時、後ろから声が聞こえた
「おや」
振り返ると、そこにいたのは二組の老夫婦だった
二人とも花を持っている
「お参りですか?」
クロエが尋ねる
老爺は頷いた
「毎月来ておる」
「毎月?」
「恩人だからな」
クロエは目を瞬かせて老爺は墓を見つめた
「昔な息子が魔物に襲われたんだ。助からんと思ったんだが旦那様が来てくださった」
その声には深い感謝が滲んでいた
老婦人も頷く
「うちの孫もそうです、騎士団が間に合わなくて旦那様が一人で来てくださったんです」
クロエは黙る
話は終わらなかった
次々と人がやって来る
花を持って墓へ向かって
「旦那様には世話になった」
「命を救われた」
「飢饉の時に助けて頂いた」
「家を建て直して頂いた」
「息子を騎士にしてもらった」
皆が感謝を語る
まるでそれが当然のように
クロエは俯いた
胸が苦しい
花の数
人の数
語られる思い出
それら全てがグラニウスという人間の大きさを教えてくる
そして同時に自分の罪を突き付けてくる
違う本当は違う
そんな事は分かっている
自分が悪い訳じゃない
捕まれば殺されていた
隠れるしかなかった
頭では分かっている
それでも心は納得してくれない
もしあの時見つかっていたら
もしもっと早く会えていたら
もし秘薬を渡せていたら
グラニウスは助かったかもしれない
レオンは父を失わなかったかもしれない
そんな考えが止まらない
クロエは墓石を見る
そして小さな声で呟いた
「ごめんなさい」
風が吹き花が揺れる
その返事は無い
当然だった
それでも謝らずにはいられなかった
自分が許せなかったから
夕日が花畑を赤く染める
クロエは一人で墓の前に立ち続けていた
誰も知らない罪悪感を抱えたままだった




