第47話 辺境伯の帰還
「見えてきたぞ」
レオンの声でクロエは窓の外へ視線を向けた
そして思わず息を呑む
巨大な城壁
高くそびえる見張り塔
その向こうには辺境伯城が見える
北の大地を守る要塞都市
ノルディア領都だった
「大きい……」
思わず漏れた言葉
レオンは窓の外を見ながら頷く
「そうだな」
「王都とは全然違うね」
クロエは城壁を見上げた
華やかさは無い
だが強い
街そのものが要塞だ
そんな印象だった
やがて走竜車は城門へ近付く
門番達が車体を確認した
そして顔を輝かせる
「レオン様だ!」
その声が響いた
次の瞬間城門が大きく開かれる
「レオン様がお帰りになられたぞ!」
その声を聞いた領民達が振り返る
一人また一人
そして歓声が上がった
「レオン様!」
「お帰りなさいませ!」
「レオン様だ!」
「頑張ってください!」
クロエは目を見開く
領民達の顔には恐れが無かった
尊敬
信頼
そして親しみ
それだけだった
レオンは窓を開ける
そして軽く手を上げた
「ただいま」
短い言葉だがそれだけで歓声が大きくなる
「お帰りなさい!」
「応援しております!」
「レオン様なら大丈夫です!」
クロエは呆然としていた
本当に慕われている
辺境伯だからではないレオンだから
そんな風に見えた
やがて走竜車は街の中心を進む
途中お菓子屋の店主が頭を下げる
鍛冶屋の職人が手を振る
子供達が駆け回る
「レオン様ー!」
「お帰りなさい!」
レオンは少しだけ笑った
「ただいま」
その笑顔を見た子供達が歓声を上げる
クロエは静かにその様子を見ていた
貴族、しかも辺境伯
なのに領民との距離が近い
不思議な光景だった
やがて邸が見えてくる
そして正門前
そこには五人の男達が待っていた
騎士団長ガレス
副団長エルン
斥候長リック
弓兵長ハンス
重装兵長ドーグ
走竜車が止まる
真っ先に前へ出たのはガレスだった
大盾を背負った巨体の騎士は片膝をつく
「お帰りなさいませ、若様!」
レオンは苦笑した
「ただいま、ガレス」
続いてエルンが一礼する
「お帰りなさいませ、レオン様!不在中の報告書をまとめておりますので城で確認をお願いします」
「帰って早々仕事か」
「帰って来られましたので」
即答だった
レオンは小さくため息を吐く
その横でリックが笑う
「お帰りなさい、旦那……今回は随分派手な事をやったらしいじゃないですか」
「誰から聞いた」
「ゼ……風の噂ですよ噂」
絶対に噂ではない
隣のゼムが咳払いをしている
レオンは確信した
ハンスも静かに頭を下げる
「レオン様、お帰りなさいませ」
短い言葉だった
だが歓迎の気持ちは十分伝わった
最後にドーグが豪快に笑う
「レオン様!お帰りなさい!飯は食いましたか?!」
「食った」
「それなら安心ですな!」
意味が分からなかった
クロエは思わず吹き出しそうになる
騎士団なのに妙に仲が良い
そんな空気だった
その時ガレスの視線がクロエへ向く
クロエは思わず背筋を伸ばした
歴戦の騎士達に見られるのは少し緊張する
だがガレスは穏やかに笑った
「こちらがクロエ殿ですな」
「え?」
「若様から話は伺っております」
クロエはレオンを見る
レオンは視線を逸らした
怪しい……非常に怪しい
エルンも一歩前へ出る
「専属商人になられたとか」
「あ、はい」
クロエは思わず頷く
するとドーグが豪快に笑った
「それはめでたい!歓迎しますぞ!」
リックも肩を竦める
「旦那が自分から専属商人を勧誘するなんて珍しいですね」
「そうか?」
「そうですよ」
即答だった
レオンは少し首を傾げる
ガレスはそんなやり取りを見て微笑んだ
そして改めてクロエへ向き直る
「歓迎致します」
ハンスも静かに頷く
エルンも一礼する
リックは軽く手を振った
ドーグは豪快に笑う
「ノルディア領へようこそ!」
その言葉にクロエは少しだけ言葉を失う
『ようこそ』ただそれだけの言葉
だが思っていた以上に温かかった
行く場所も帰る場所も無かった自分に向けられた言葉
クロエは小さく笑う
「よろしくお願いします」
春の風が吹くノルディアの砦の旗がはためいた




