第45話 約束の食事
朝日がグランツの宿場町を照らしていた
大通りには商人達が行き交い
走竜の鳴き声も聞こえてくる
昨夜の騒動が嘘のような
いつも通りの朝だった
レオンは宿の食堂にいた
「おぼっちゃま」
ゼムが紅茶を置く
「何だ」
「本日は領地へ戻ります」
「分かってる」
レオンは頷いた
クロエの件も終わった
ブロドは宿場町の自警団へ引き渡される
辺境伯として介入する事も出来る
だが今回はしない
ブロドは商人だ
商人として裁かれるべきだ
そう判断した
食堂の扉が開く
灰色の髪の見慣れた迷彩柄のフード付きマント
クロエだった
「おはよう」
「おう」
クロエはレオンの向かいへ座る
少しだけ気まずい
昨夜に色々知られてしまった
公爵家
生き残り
秘密
それを全部
だがレオンはいつも通りだった
「朝飯食ったか?」
「まだ」
「じゃあ頼めばいい」
「うん」
たったそれだけ、何も変わらない
クロエは少し安心した
ふと思い出す
「あ」
レオンが顔を上げる
「どうした?」
クロエは少しだけ笑った
「約束」
「約束?」
「ご飯」
レオンが固まり数秒止まった
「あ」
思い出したようだ食事の約束を
一回目は竜車購入で遅くなる
二回目はクロエが断る
三回目はレオンが断る
四回目はクロエが誘拐される
見事全部失敗
レオンは苦笑した
「そうだったな」
クロエも笑う
「そうだったなじゃないよ」
「四回連続だよ?」
「過去最高記録じゃないか?」
「更新しなくていいから」
珍しくクロエが突っ込んだ
ゼムが小さく笑う
「では本日が五回目ですな」
二人が同時にゼムを見る
「縁起でもない事を言うな」
「言わないで」
見事に揃った
ゼムは肩を竦める
「失礼しました」
多分全く反省していない
しばらくして
料理が運ばれてくる
パン
スープ
卵料理
宿場町の朝食
けっして豪華ではない
だが温かい
レオンはパンを手に取る
「そういえば」
クロエを見る
「何?」
「昨日結局食ってなかったな」
クロエは頷く
確かにそうだ
誘拐されたからそれどころではなかった
するとレオンは笑った
「じゃあこれで達成だな」
クロエは一瞬きょとんとする
そして吹き出した
「朝ご飯だよ?」
「飯は飯だろ」
「そうだけど!」
また笑ってしまう
本当に変な奴だ
辺境伯の大貴族
そんな肩書きを知った今でも
やっぱりレンだった……
いやレオンだった
クロエはパンを口に運ぶ
少しだけ美味しく感じた
窓の外では走竜の鳴き声が聞こえる
もうすぐ別れの時間だ、レオンは領地へ帰る
クロエもまた旅へ出る
いつものように
それでも以前とは少しだけ違う
二人の間には、確かな信頼が生まれていた
食事が終わった頃クロエが口を開く
「レオン」
初めてだった、レンではなくレオンと呼んだのは
レオンも少し驚く
「何だ?」
クロエは少し迷い小さく笑った
「助けてくれてありがとう」
今度はちゃんと伝えたかった
レオンは少し照れ臭そうに頭を掻く
「気にするな」
「友達だろ」
クロエは目を見開いた
友達……その言葉が妙に嬉しかった
だから自然と頷いていた
「うん」
春の朝、宿場町の食堂
ようやく叶った約束の食事は
二人にとって思った以上に大切な時間になっていた




