第44話 帰り道
夜風が吹く
レオン達は屋敷を後にしていた
月明かりだけが道を照らしている
誰も喋らない静かな帰り道だった
クロエはレオンの少し後ろを歩いていた
頭の中が整理出来ていない
レン
そう思っていた
ただの商人
少し変わった奴
ボア肉を売って
無茶な事を言って
何回も食事の約束が流れる奴
そのはずだった
それが
辺境伯
しかもノルディア辺境伯
王国でも有数の大貴族
クロエは思わずレオンを見る
前を歩く背中
今までと何も変わらない
だが知ってしまった
自分とは住む世界が違う人間だと
「レン」
思わず呼ぶ
レオンが振り返った。
「何だ?」
いつもの返事
クロエは少し迷う
そして
「いや……」
言葉が続かない
レオンは首を傾げた
「変な奴だな」
その言葉にクロエは少しだけ笑った
変わらない
本当に何も変わらない。
そこが少し嬉しかった
そして、宿場町の灯りが見えてくる
レオンが足を止めた
「そういえば」
「何?」
「公爵家の生き残りって本当か?」
クロエの身体が固まる
ゼムも少しだけ目を閉じた
聞くと思ったレオンだから
遠回しな聞き方はしない
クロエは俯く
しばらく夜風だけが流れていた
やがて、小さく頷いた
「……本当」
声は小さい
「そうか」
レオンは短く答えた
ただそれだけだった
クロエが顔を上げ驚いた
もっと何か聞かれると思った
なぜ隠していたのか
何があったのか
どうして生きているのか
だがレオンは聞かない
クロエが思わず尋ねる
「聞かないの?」
レオンは少し考えた、そして
「聞いて欲しいのか?」
クロエは首を振る
「……ううん」
聞いて欲しくない
思い出したくもない
レオンは頷く
「じゃあ聞かない」
あっさりだった
クロエは呆れる
「普通気になるでしょ」
「気になる」
即答だった
「気になるんだ!?」
「そりゃな」
レオンは苦笑した
「でも……」
少しだけ真面目な顔になる。
「話したくない事まで無理に聞く気はない」
クロエは言葉を返せなかった
胸の奥が少しだけ温かくなる
そしてレオンは続けた
「お前が話したくなったら聞く……話したくないなら聞かない、それだけだ」
クロエは俯いた
どうしてだろう……泣きそうになる
今まで誰にも言われた事がなかった、そんな言葉
「ありがとう」
自然と口から出た
レオンは笑う
「どういたしまして」
その時、後ろからゼムが咳払いをした
「おぼっちゃま」
「何だ?」
「そろそろ宿に戻りませんと」
「そうだった」
レオンは頷く
明日には領地へ帰る
まだやる事は山ほどある
金貨二万枚
領地経営
そして……
救わなければならない人達
レオンは歩き出す
クロエもその隣へ並んだ
以前なら少し後ろを歩いていた
だが今は違う
二人は並んで歩く
春の夜風の中を静かに……ゆっくりと……
クロエは気付いていなかった
自分が初めて、誰かを信用し始めている事に
そして、いつの間にか心の中でレンではなく
レオンと呼び始めていた事にも




