第408話 武芸大会の知らせ
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冒険者ランクがFに上がってから、エリシアたちは討伐依頼を中心に受けるようになった。
最初の頃は、薬草の採取や荷物運びといった依頼が多かった。だが、アレクとエドガーとの連携が形になり、魔物の動きにも少しずつ慣れてくると、討伐依頼を任される機会が増えていった。
危険な依頼を無理に引き受けることはない。依頼書に記された魔物の種類や出没場所を調べ、必要な道具を揃え、三人で役割を確認してから出発する。経験を積むたびに、準備の大切さも身に染みて分かってきた。
何度か依頼をこなすうち、三人の冒険者ランクは、同じ頃にFからEへ上がった。冒険者になってからそれほど経っていないことを考えれば、かなり早い昇格だった。
パーティー名は「竜の牙」。
討伐依頼を安定してこなしていることに加え、エリシアがギルド協会で怪我をした冒険者を治療することもあったため、協会の中では少しずつ名前が知られるようになっていた。
エリシアの戦い方も、活動を続けるうちに変わっていった。
カインから魔法具を譲られるまでは、仲間が戦う姿を見守るしかなかった。怪我をした人を癒すことはできても、魔物を前にして攻撃を仕掛ける手段がなかったのだ。
けれど、今は違う。
魔法具を構え、狙いを定め、魔力を流す。最初は照準を合わせるだけでも難しく、魔法が発動しても狙った場所から外れることがあった。魔力を流しすぎて装置に負担をかけたり、反対に足りず、術式がうまく起動しなかったりもした。
カインの説明を思い返しながら、授業の合間や放課後に練習を続けた。魔法具の扱いを誤らないよう、何度も手順を確かめた。その積み重ねによって、エリシアの攻撃はかなり安定してきていた。
魔力を魔石へ流し、蓄えられた魔力が術式へ一定量ずつ送られる。エリシアは、その流れを意識しながら魔法具を扱う。自分の魔力を魔石に蓄えた後は、魔石から術式へ流れる魔力によって魔法が発動する。その仕組みが分かってからは、狙いと起動のタイミングに集中できるようになった。
魔物が動く方向を見極め、照準を合わせる。狙った時に魔法具を起動する。討伐の場でも、焦って引き金を引くことは少なくなった。
エリシアは後方から周囲を見て、必要な時に仲間を援護する。アレクは中央で左右を確認しながら指示を出し、エドガーは前衛で魔物の攻撃を引き受ける。三人の役割も、少しずつ馴染んでいた。
その日の依頼は、王都の南西に広がる雑木林に現れたブランボアの討伐だった。
農地を荒らしている魔物は三頭。依頼書には、茶色い毛並みに覆われた猪に似た姿と、頭部に伸びた短い牙について記されていた。大きさは人の腰ほど。レッドボアほど力は強くないが、突進を受ければ怪我をする危険がある。
雑木林の入り口で、三人は一度足を止めた。
エドガーは背負っていた荷物を地面に下ろし、剣の柄を確かめる。腰には、両手で扱う幅広の剣が収まっていた。
「水と回復薬は確認した。縄と解体用の小刀もある」
「魔法具に使う魔石も問題ない」
アレクはエリシアの腰に留められた黒い革のケースへ目を向けた。
「焦って撃たなくていい。まずは位置を知らせてくれ。俺が左右を見ながら指示を出す。エドガーは前を頼む」
「分かった」
「私は後ろと周りを見て、魔物を見つけたら伝えるね」
「ああ。危険が迫った時は、攻撃より報告を優先してくれ」
「うん」
役割を確認してから、三人は林の中へ入った。
木々の間から差し込む午後の日差しは、地面まで届く前に枝葉に遮られ、薄い光の筋になっていた。踏み固められた道を外れると、膝ほどの草が生い茂っている。湿った土と落ち葉の匂いが漂い、足元では小枝が時折かすかな音を立てた。
エドガーが先頭を歩き、アレクはそのすぐ後ろにつく。エリシアは少し距離を取って、後方と左右の植え込みを見回した。
魔物がいる場所は、依頼書に記された農地からそれほど離れていないはずだった。
しばらく進んだところで、エリシアは枝の折れる音を聞いた。
「右前方。何かいる」
声を落として伝えると、アレクはすぐに足を止めた。
エドガーが剣を抜き、身体を少し横向きにして構える。アレクは視線を左右へ走らせ、地面や草の揺れを確かめた。
「数は?」
「……二頭。もう一頭は、少し離れた場所にいると思う」
「よく気づいたな」
エドガーが小さく感心したように言った。
「葉が揺れたの。風の向きとは違う揺れ方をしていたから」
アレクは音のした場所を見た。茂みの奥で、茶色い背中が一瞬だけ見える。
「二頭を先にこちらへ誘導する。エドガーは位置を保て。エリシアは合図があるまで待ってくれ」
「分かった」
アレクは地面から小石を拾った。林の奥へ向けて投げると、乾いた音が枝葉の間に響いた。
ブランボアの耳が動いた。
二頭が同時に顔を上げ、音のした方へ鼻先を向ける。次の瞬間、草が大きく揺れ、地面を蹴る音が近づいてきた。
「来るぞ」
エドガーが剣を両手で握り直す。
「エリシア、左の個体の足元を狙ってくれ。動きを乱すだけでいい。エドガーは正面から受け止めるな。突進を横へ流せ」
「分かった」
エリシアは魔法具を両手で支えた。
照準用の枠を覗き込み、茂みの間を駆けてくるブランボアを捉える。地面を蹴るたびに、茶色い毛並みが上下に揺れていた。二頭とも、目の前にいるエドガーへまっすぐ向かってくる。
以前のエリシアなら、魔物が迫ってくる勢いに気圧されて、魔法具を構えたまま動けなくなっていたかもしれない。
今は、狙いを定める。
呼吸を整え、魔力を流した。
魔法具の内部に刻まれた術式が反応し、細い光が走る。魔力の流れが乱れないよう、力を込めすぎず、一定の量を保った。
照準の中央に、ブランボアの前脚が入る。
「撃つね!」
エリシアは引き金を押した。
淡い光が飛び、魔物の足元で弾ける。土が跳ね上がり、ブランボアの進路がわずかに乱れた。前脚に直撃したわけではない。それでも、突然の衝撃に驚いた魔物は勢いを弱め、頭を振って方向を変える。
その隙を逃さず、エドガーが一歩横へ踏み出した。
両手剣を大きく振り下ろすのではなく、刃の側面を使って突進の向きをずらす。ブランボアは足を滑らせ、地面へ転がった。
もう一頭は、アレクの方へ進路を変えていた。
アレクは魔物の進路を見極めると、光属性の魔法を放った。ブランボアの鼻先で小さな光が弾け、乾いた音が響く。
突然の光と音に驚いた魔物が足を止めた。その隙にエドガーが距離を詰め、剣の柄で鼻先を打つ。
ブランボアが地面へ倒れた。
「残り一頭だ。奥から来るぞ」
アレクの声を聞き、エリシアはすぐに後方を振り返った。
草むらが大きく揺れ、三頭目が姿を現した。倒れた二頭の横を抜けて、エドガーへ突進してくる。
「エドガー、右へ!」
エリシアが叫ぶ。
エドガーは声に合わせて右へ踏み出した。ブランボアが通り過ぎる寸前、剣を斜めに構えて肩を受け流す。勢いをすべて止めようとせず、進路をずらしたことで、魔物は木の幹へぶつかった。
体勢を崩したブランボアが、再び立ち上がろうとする。
「今だ、エリシア!」
アレクの声に、エリシアは魔法具を構えた。照準を足元へ合わせ、魔力を流す。放たれた魔法が地面で弾け、乾いた音が木々の間に響いた。ブランボアは驚いて動きを止める。
「エドガー!」
エドガーが踏み込み、剣を振り下ろす。ブランボアは地面へ倒れ、やがて動かなくなった。
戦闘が終わると、林の中に再び静けさが戻った。
エドガーは呼吸を整えながら、剣についた土を布で拭う。
「三頭とも討伐できたな」
「ああ。依頼の数とも合っている」
アレクは周囲を確認してから、倒れた魔物の様子を確かめた。
「エリシアの一発目で、最初の個体の動きが乱れた。あれがなければ、二頭同時に突っ込まれていたかもしれない」
「狙った場所に当てられたわけじゃないけど……」
「十分だ。動きを止めるのが目的だった」
エドガーも頷いた。
「前なら、魔法具を構えたまま固まっていたと思う。今は使うタイミングが分かってきたな」
エリシアは魔法具を確かめた。先ほどの攻撃で狙いが大きく逸れることはなく、術式も問題なく起動した。魔力を魔石へ流し、そこから一定量の魔力が術式へ送られる。その仕組みを、今では落ち着いて扱えるようになっていた。
「カインが作ってくれたものだから。ちゃんと使いこなせるようになりたかったの」
「もうかなり安定している。狙いをつけて、必要な時に撃てている」
アレクは、討伐したブランボアへ視線を移した。
「それに、敵を見つけるのも早くなった。周囲をよく見ているから、俺たちも動きやすい」
「ありがとう」
褒められると、少し照れくさかった。
それでも、以前のように何もできないまま仲間の後ろにいるだけではない。自分にも役割があり、仲間の力になれている。その実感が、胸の内にゆっくりと広がっていた。
三人は討伐証明に必要な部位を確認した。牙と耳を回収し、アイテムバッグを使ってブランボア三頭をそのまま収納する。
以前なら、素材を持ち帰るために現地で解体する必要があった。だが、アイテムバッグがある今は、無理に時間をかけて作業をする必要はない。血抜きなど、帰るまでに必要な処置だけを済ませれば、解体はギルド協会なに任せられる。
「解体は協会に頼もう。ここでやるより、道具も揃っているし、肉もきれいに処理してもらえる」
エドガーが言うと、アレクは頷いた。
「肉は一頭分、俺たちで引き取ろう。ブランボアはレッドボアほど上等じゃないが、十分美味しい部類だ」
「そうなの?」
「ああ。肉質はレッドボアに少し劣るが、臭みも少ない。ちゃんと処理すれば、煮込みにも焼き物にも使える」
アレクは、少し期待するようにアイテムバッグへ目を向けた。
「レッドボアの串焼きには及ばないがな」
「アレクは本当にレッドボアの串焼きが好きだね」
「好きなものは好きだ」
アレクは平然と答えたが、ブランボアの肉も悪くないと聞いて、少し機嫌がよくなったようだった。
「一頭分の肉を持ち帰ろう。残りの素材と肉は協会に買い取ってもらえばいい」
「分かった。報酬と売却額を受け取った後で、解体費用を差し引いてもらおう」
「それでいい」
素材の扱いを決め、三人は林を後にした。
こうして三人は、ギルド協会へ戻る帰路に着いた。
林を出て街道へ戻る頃には、夕方の光が道を赤く染めていた。王都の外壁が遠くに見え、その向こうには建物の屋根が幾重にも重なっている。馬車や荷車が街道を行き交い、門へ向かう人々の列が伸びていた。
帰り道でも、三人は周囲への警戒を怠らなかった。エリシアが後方を確認し、アレクが左右に目を配り、エドガーが前を歩く。討伐を終えて気が緩みそうになっても、街道へ出るまでは決めた隊列を崩さない。
ギルド協会へ到着した頃には、建物の窓から灯りが漏れていた。
扉を開けると、依頼から戻った冒険者たちの声が一斉に耳へ飛び込んでくる。受付には素材を確認してもらう者たちが並び、壁際のテーブルでは仲間同士で報酬の分配を相談していた。近くでは、鎧の留め金が壊れたと受付に相談する者もいる。
依頼を終えた冒険者たちが報告や相談をする一方、酒場の方では、次の日の依頼やそれぞれの予定を話し合う声が聞こえた。
「採取依頼なら、昼までには戻れるだろう」
酒場の方から、誰かの声が聞こえてくる。
武器の手入れをしている者もいれば、疲れた顔をしながら仲間と笑い合う者もいた。ギルド協会は、依頼から戻った者たちと、これから出発する者たちが行き交い、夕方の忙しさに包まれている。
三人は受付へ向かい、討伐したブランボアの素材を提出した。職員は依頼書を確認し、三頭分の牙と耳を照合する。それから、アイテムバッグに収納していた魔物を解体場へ運ぶ手配をしてくれた。
「一頭分の肉は、こちらで引き取ります。残りの肉と素材は買い取りでお願いします」
エドガーが伝えると、受付係は帳簿に内容を書き込んだ。
「承知しました。解体費用はこちらで差し引きます。素材の買い取り額とクエスト報酬を合わせて、銀貨九十枚ほどになる見込みです」
「それで構わない」
アレクが答えた。
報酬と素材の売却額から解体費用が差し引かれ、残った額は三人で分けることになる。一頭分の肉は売却せず、竜の牙で持ち帰る。
受付を離れると、酒場の方から声が聞こえた。
「あれが竜の牙か。三人とも、FランクからEランクに上がるのが早かったな」
「討伐依頼を安定してこなしているらしい。あの魔法具を使ってる子も、攻撃に参加するそうだ」
「怪我人の治療もしていると聞いたぞ。前に重傷者を治したのを見たって奴がいた」
エリシアは、聞こえてきた言葉に足を止めかけた。
「名前が知られてきたな」
アレクが小声で言う。
「治療したことまで、そんなに広まっているんだね」
「協会で何度か手伝っているからな。知られるのも無理はない」
エドガーの言葉に、エリシアは少し困ったように笑った。
三人は、周囲の視線を受けながらギルド協会を後にした。
外はすっかり夕方になっていた。通りには夕食の買い物を終えた人々が行き交い、店先には灯りがともり始めている。遠くから鐘の音が聞こえ、王都の一日が夜へ向かって移り変わっていた。
学園へ戻る道の途中、広場の掲示板の前に人だかりができていた。
職人が高い梯子に上り、新しい告知板を取りつけている。周囲には買い物帰りの人々や仕事を終えた職人たちが集まり、掲示される紙を待っていた。
やがて、職人は最後の釘を打ち込み、梯子から下りた。
新しい告知には、華やかな縁取りと大きな文字で、催しの名前が記されていた。
――ビスタ魔法学園武芸大会。
「もうそんな時期か」
アレクが告知を見上げて言った。
「ビスタ魔法学園武芸大会……今年もこの季節なんだね」
エリシアは、掲示板に貼られた告知を見上げた。王都の三大行事のひとつとして、毎年街を賑わせる大会だ。下町に住んでいた頃も、開催が近づくと通りに旗が飾られ、試合を見に行く人々の話題で持ちきりになった。
「学園の生徒は全員出場するんだよね?」
「ああ。魔法部門と剣術部門に分かれて、一週間かけてトーナメントを行う」
「魔法部門は男女混合で、剣術は男女別なんだね」
「試合は学園の闘技場で行うが、王都の人々も観戦できる。開催中は宿も食堂も混雑する。街全体が賑わうだろう」
エドガーが説明した。
掲示には、大会の開催日程と競技の概要が記されている。魔法部門は男女混合。剣術部門は男子と女子に分かれ、それぞれトーナメント形式で試合を行う。全校生徒が出場するため、試合は一週間のあいだ順に進められるという。
「アレクは魔法部門に出るの?」
「ああ。俺は魔法で出場するつもりだ」
「エドガーは剣術?」
「騎士爵家では剣を学ぶのが仕来りだからな。俺は男子の部に出る」
エドガーは、腰の剣に手を置いた。
エリシアはもう一度、掲示板の文字を見た。
「じゃあ、わたしも魔法部門に出られるのかな」
アレクは告知の下にある細かな規定へ目を向けた。
「魔法部門は、使い手自身の魔力と術式を競うものだ。魔法具の使用は認められていないはずだ」
「そっか……」
エリシアは腰の魔法具に手を触れた。
この魔法具があれば、攻撃に参加できる。討伐依頼でも、確かな手応えを感じるようになった。けれど、魔法具を扱えることと、自分自身が魔法を使えることは違う。
「出るなら、剣術女子の部になるのかな」
「そうなるだろうな」
アレクが答えた。
「ただ、エリシアは剣を習ったことがないだろ」
エドガーの言葉に、エリシアは小さく頷いた。
「うん。剣を持ったことも、ほとんどないよ」
「俺の剣術を教えられればいいんだが……」
エドガーは、エリシアを見てから口を止めた。
エドガーの剣は、両手で扱う幅広の剣だ。体重を乗せ、相手の攻撃を受け止め、力強い一撃で押し切る。エリシアの体格では、同じ剣を扱うのは難しいだろう。
「王国式の剣術は、体格や腕力が必要になる。大きな両手剣で相手を威圧して、そのまま押し切る戦い方が今の主流だ」
エドガーは、少し申し訳なさそうに続けた。
「昔は片手剣と盾が多かったらしい。けど、帝国との戦争で、あの英雄ヴァルグが大剣を振るってから、両手剣に憧れる人間が増えた。今では騎士も冒険者も、王国では両手剣を使う者が多い」
「エドガーの剣術は、力が必要なんだね」
「ああ。エリシアにそのまま教えても、合わないかもしれない」
「だったら、王宮貴族式の剣術なら教えられる」
アレクが言った。
エリシアは、彼の方を向いた。
「王宮貴族式?」
「相手の力を正面から受け止めず、攻撃の向きをいなす剣術だ。体勢を崩し、開いた場所へ突きや斬撃を入れる。首や腕のように、鎧の隙間を狙う技が中心になる」
「エドガーの剣術とは、ずいぶん違うんだね」
「使う武器も違う。元々は、服や杖に隠して持ち運べる剣を使うための技術だ。男性は短剣、女性は短めのレイピアを使うのが主流になる」
アレクは、掲示板から視線を戻した。
「俺は幼い頃から、王国式と王宮貴族式の両方を学んでいる。相手の剣が大きくても、動きを見て対処する方法は教えられる」
「大会までに、間に合うのか?」
エドガーが尋ねる。
「どこまで身につくかは、本人の努力次第だ。始める前から決めつけることはできない」
アレクは、エリシアを見た。
「エリシアが出たいなら、稽古をつけるぞ?」
エリシアは、掲示板へ目を戻した。
一週間にわたる大会。王都の人々も観戦に訪れる、学園で最も大きな行事のひとつ。
自分には剣術の経験がない。魔法部門にも出られない。大会へ出るなら、短い期間で剣術を身につけなければならない。簡単ではないと分かっていた。
それでも、冒険者として依頼を続ける中で、エリシアは少しずつ変わっていた。
魔法具を手に入れる前は、攻撃に参加できない自分を歯がゆく思っていた。今は狙いを定めて魔力を流し、仲間を援護できる。訓練を重ねれば、剣術も身につけられるかもしれない。
そして何より、これ以上、守られるだけでいたくなかった。
「わたし、頑張ってみたい」
エリシアは、自分の声が思ったよりはっきり響いたことに驚いた。
エドガーが目を見開く。
「剣術を習ったことがないんだぞ」
「うん。分かってる。でも、今のまま何もしないでいるより、やってみたい」
アレクはすぐには答えなかった。エリシアの表情を確かめるように見つめてから、静かに頷く。
「分かった。稽古を始めよう」
「アレク、本当にいいのか?」
「本人が出たいと言っている。俺に教えられることは教える」
エドガーは短く息を吐き、エリシアへ向き直った。
「なら、俺も協力する。王宮貴族式は分からないが、大きな剣と戦う時の注意なら一緒に考えられる」
「ありがとう、二人とも」
広場の掲示板には、大会の日程が並んでいた。開催まで、まだ少し時間はある。けれど、剣術を始めるには短い期間だった。
エリシアは、腰の魔法具に触れた。
この道具を手にしたことで、攻撃に参加できるようになった。今度は剣術を学び、自分の身を守り、自分で戦う力を身につけたい。
大会までに、どこまでできるようになるだろう。
期待と不安を胸に、エリシアは告知を見つめていた。




