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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: 蛙の子はお玉杓子
第10章 癒しの護り手と悪役令嬢

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第400話 先輩冒険者の教え

 エルグランド王都の冒険者ギルド協会は、朝から多くの冒険者で賑わっていた。


 依頼を受ける者が受付に並び、素材を持ち込んだ者たちは職員と査定の話をしている。壁の掲示板には、採集や護衛、魔物討伐などの依頼書が並んでいた。


 エリシアは入口の近くで立ち止まり、辺りを見回した。


 受付は複数あり、どこへ行けば冒険者登録ができるのか分からない。依頼書の前にも人だかりがあり、冒険者たちは慣れた様子で話し合っていた。


 隣にいるエドガーも、協会へ来るのは初めてだった。アレクは王城での用事を済ませてから、あとで合流する予定になっている。


 エリシアが視線をあちこちへ動かしていると、明るい声が掛かった。


「初めて来たの? 依頼を探してる? それとも冒険者登録?」


 振り向くと、少女が立っていた。


 肩まで伸びた赤茶色の髪に、鮮やかな紅い瞳。動きやすそうな服に身を包み、腰には剣を提げている。快活な表情と、はきはきした声が印象的だった。


「冒険者登録に来ました。どこへ行けばいいのか分からなくて……」


「登録なら、あっちの受付よ。初めてだと分かりにくいもんね」


 少女はホールの奥を指さした。


「その制服、王立ビスタ魔法学園のものね。あなた、学園の生徒なの?」


「はい。エリシアと申します。こちらはエドガーです」


「私はミラ。蒼天の戦乙女のメンバーの一人よ。よろしくね」


「よろしく」


 エドガーが答える。


「学園の生徒が冒険者登録に来るのは珍しいわね。二人で活動するの?」


「あと一人、後から合流する予定です」


「分かった。登録なら、まずあっちの受付へ行けばいいわ。手続きで迷ったら職員に聞くのよ。分からないまま進めると、あとで面倒だからね」


 ミラは二人を登録用の受付まで案内した。


 エリシアは、ミラの腰にある剣へ目を向けた。自分は武器を持っていない。冒険者として登録するなら、剣を用意した方がいいのだろうか。


 ミラもその視線に気づいたようだった。


「エリシアは剣を持っていないのね。魔法使い? それとも回復役かしら?」


「回復魔法が使えます。でも、攻撃魔法は使えなくて……」


「回復役なのね。怪我をした仲間を治せるのは助かるわ。でも、依頼中は周りを見ることも大事よ。自分の身を守る方法も覚えておいてね」


「はい。気をつけます」


「エドガーは剣を使うの?」


「剣も使う。火魔法もな」


「前に出る役ね。誰がどこを守るのか、依頼を受ける前に三人で決めておくのよ。現場に着いてから考えればいいってものじゃないから」


「分かった」


 エドガーが真剣に頷く。


 受付の職員に確認することがあると言い、ミラはホールの奥へ向かった。エリシアとエドガーは登録用紙を受け取り、必要事項を書き始める。


 その頃、ミラは職員と商隊の護衛依頼について話していた。確認を終えて仲間の姿を探していると、五人の女性が協会の入口から入ってくる。


 全員が青色の外套を身につけていた。先頭を歩く女性は、長い青髪を背中へ流し、黄色い瞳でホールを見渡している。腰には細身の長剣。長身で、鍛えられた身体つきには女性らしいしなやかさもあった。


「アストリッド」


 ミラが呼び掛けると、先頭の女性が近づいてきた。


「商隊との話は済んだか?」


「一通りね。出発前にもう一度、責任者と確認するわ」


「そうか。時間が決まったら知らせてくれ」


「分かった。アストリッドも一緒に来るのよ」


「ああ」


 二人のやり取りに、遠慮や気後れはなかった。


 アストリッドはエリシアたちに気づき、ミラへ尋ねる。


「新しく登録するのか?」


「そうよ。エリシアとエドガー。あと一人、後から来るんだって」


「そうか」


 アストリッドは二人へ向き直った。


「アストリッドだ。よろしく」


「エリシアです。よろしくお願いします」


「エドガーだ。よろしく」


 アストリッドは二人を見た。エリシアとエドガーの魔力量を感じ取ったのか、わずかに目を細める。


「二人とも、魔力量が多いな」


「そうなんですか?」


 エリシアは、自分の魔力量を他人と比べたことがなかった。


「ああ。特に君はかなりのものだ。それだけあれば、いろいろなパーティーから勧誘されるだろうな」


「私は回復魔法しか使えません。それでも、声を掛けられることがあるのでしょうか?」


「あるだろう。回復役を必要としているパーティーは多い。誘われてもすぐに決めるな。相手の話を聞いて、自分で判断すればいい」


「分かりました」


 ミラが横から言葉を添えた。


「依頼の内容や報酬だけじゃなくて、誰と組むかも大事よ。条件はちゃんと確認するの」


「はい。ありがとうございます」


 エリシアは二人の助言を胸に留めた。


「ところで、あなたたちはどうして王都に?」


 エドガーが尋ねた。


「帝国へ向かう商隊の護衛を引き受けているの。大規模討伐に備えて、帝国では魔法具の需要が高まっているらしいわ」


 ミラが答えた。


「帝国へ行くには、必ずバルト山脈を越える。今は山脈が活性化していて魔物の動きも増えているから、商隊にはSランク冒険者も同行することになっている」


 アストリッドが続けた。


「私たちは王都で商隊と合流し、出発の準備を進めているところだ」


「危険な道なんですね」


「危険だから、準備するんだ」


 アストリッドは短く答えた。


「地形や休憩場所、魔物が出た時の動きを確かめる。報酬だけ見て受ける依頼じゃない」


「依頼は出発前から始まってるのよ。準備を怠ったら、現地で困るからね」


 ミラもはっきり言った。


 エリシアは登録用紙へ目を落としながら、二人の話を聞いていた。冒険者には戦う力だけでなく、依頼について事前に調べ、仲間と準備することも必要なのだ。


 記入を終えたエリシアたちを見て、ミラが尋ねた。


「三人で活動するつもりなんでしょ?」


「そのつもりだ」


 エドガーが答える。


「それなら、冒険者同士で敬語はやめた方がいいわよ。特に三人みたいな少人数のパーティーならね」


「敬語を使わない方がいいのか?」


「盗賊に遭遇した時、仲間内で敬語を使っていたり、誰かが指示を仰いでいたりすると、立場や指揮系統を見抜かれることがあるの。指示役だと分かった人は、真っ先に狙われるかもしれない。仲間内では対等に話して、誰が上か悟らせない方が安全よ」


 ミラはエリシアとエドガーを交互に見た。


「私たちにも敬語はいらないからね」


「すぐには難しいかもしれないけど、少しずつ慣れてみるね」


「それでいいわ。無理に変えなくても大丈夫よ」


 ミラがそう答えると、アストリッドが彼女の肩を軽く小突いた。


「ミラ、二年前のことを思い出したのか? 珍しく先輩風を吹かせてるじゃないか」


「新人には必要な説明よ。私だって、最初は分からなかったんだから」


「そうか。ずいぶん頼もしくなったな」


「からかわないでよ」


 ミラはすぐに言い返した。蒼天の戦乙女に加わって一年以上が経ち、憧れていたアストリッドにも、今では仲間として気兼ねなく話している。


 その言葉を聞き、ミラの胸に二年前の記憶がよぎった。


 冒険者登録で、たまたま一緒になった黒髪の少年。自分と同じように、初めて協会に来た冒険者だった。


 彼の名を、ミラは口にしなかった。


 その時、協会の入口が開いた。


 アレクがホールへ入ってくる。王城で国王に冒険者登録の許可を願い出た後、王族だと気づかれないよう平民の服を買いに行っていた。


 身につけているのは、装飾のない上着とズボンだった。しかし、仕立てのよさは隠しきれていない。買ったばかりの服には皺ひとつなく、靴も新品だった。


 アレクは三人のもとへ歩いてきた。


 その姿を見たエドガーは、反射的に敬礼をしようと右手を動かしかけた。だが、アレクの服装に気づいて手を止める。


「アレク殿。お父上との話は済みましたか?」


「ああ。冒険者登録に条件付きで許可を得た。一年以内にCランクへ上がれなければ、その後はクエストを受けられない」


「一年でCランクですか……。簡単ではありませんが、やるからには目指しましょう」


「俺もそのつもりだ」


 アストリッドは、アレクの服装に目を留めた。


「新しい服だな」


「今日のために用意した」


「冒険者登録をするのにか?」


「そうだ」


 アストリッドは、服の仕立てや布地からアレクが貴族だと察した。平民の服を選んでも、身なりの整い方や新品らしさは隠せていない。


 彼女はアレクの魔力量を探った。


 何も感じ取れない。


 アストリッドが魔力量を感知できなかった人物は、魔導国家の王族二人と、冒険者のレンだけだった。レンの正体がレオンだと、彼女は知っている。


 目の前の青年からも魔力量を感じられない。アストリッドは驚きを表に出さず、彼の服装へ視線を移した。


「さすが王国の貴族だな」


 それだけ言うと、アストリッドはミラへ目を向けた。


「商隊の責任者が待っている。打ち合わせの続きをするぞ」


「分かった。エリシア、エドガー。またね。登録、頑張って」


「ありがとう、ミラ」


 ミラとアストリッドは、仲間たちとともにホールの奥へ向かった。


 二人の姿が見えなくなってから、アレクが尋ねる。


「今の二人は、どんな冒険者なんだ?」


「ミラは、蒼天の戦乙女のメンバーだそうです。青い外套を着た五人全員が同じパーティーだと聞きました」


 エリシアが答えると、アレクは少し驚いたように目を見開いた。


「蒼天の戦乙女か。あれが三代目のリーダー、アストリッド・レーヴァンなんだな」


「ご存じなのですか?」


「ああ。正式名称は《蒼天の戦乙女(ヴァルキリー)》。女性だけで構成されたSランクパーティーだ。魔導国家の冒険者パーティーで、三本の指に入るといわれている」


「そんなに有名な方たちだったんですね」


「アストリッドは、未踏破だった天環魔導塔アストラリオンを、もう一人の冒険者と二人で攻略したことで知られている」


 エリシアは、先ほどのアストリッドの姿を思い返した。


「未踏破の塔を二人で……」


「ああ。あの攻略で、彼女たちの名はさらに広まった」


 先ほどまでミラと気軽に言い合っていたアストリッドが、そんな偉業を成し遂げた冒険者だとは思えなかった。


「まずは登録を済ませよう」


「はい」


 アレクの言葉に、三人は受付へ向かった。


 受付の職員は、冒険者登録に必要な書類を確認した後、三人へ尋ねる。


「皆さんは王立ビスタ魔法学園の生徒ですね。学園から属性証明書を受け取っていますか?」


「はい。こちらです」


 エリシアが証明書を差し出す。エドガーとアレクも、それぞれ事前に学園から受け取っていた証明書を提出した。


 職員は三人分を照合し、記載内容を確認する。


「確認しました。学園の属性証明書があれば、協会で魔力測定や属性確認を受ける必要はありません。登録手続きを進めます」


 レオンやミラのように学園の証明書を持たない冒険者は、登録時に協会で魔力量や属性を確認する。だが、三人は学園で証明を受けているため、その手続きは省かれた。


 書類への記入と確認を終え、三人は冒険者として登録された。


 一年以内にCランクへ上がるという条件。学園の授業と両立しながら、三人でどこまで進めるのか。まだ分からないことばかりだった。


 それでも、エリシアは受付から渡された登録証を手に、前を向いた。


 冒険者としての一歩が、今、始まった。

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