↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: 蛙の子はお玉杓子
第10章 癒しの護り手と悪役令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

434/457

第399話 王の条件

外伝を書いてしまいました。笑

「乙女ゲームの関係ないシスコン(兄)が自分探しの旅に出ようと思います」


不定期ですが、主人公をヒロト・スルガで本編で書くつもりの無い、セレスティア教国やレイン魔導国家などの内情を書こうかなーとおもっています。

ほぼ関係無い話にするつもりなので、気が向けば読んで下さい。

 朝の王城には、まだ静けさが残っていた。


 大広間へ続く廊下を、アレクは一人で歩いていた。窓から差し込む朝日が、磨かれた床に長い光の筋を作っている。


 今日、アレクは父である国王に願い出るつもりだった。


 冒険者として活動したい。


 セリオスの慈善活動に同行し、王都北部の人々を見たあの日から、その思いは胸の中に残っていた。報告書で読んだ貧困や治安の問題と、実際に目の前で見た暮らしは違っていた。人々の表情や声、診療所へ運ばれてくる患者の様子は、書類だけでは分からない。


 エリシアとエドガーも、冒険者として活動することを考えていた。エドガーは家計を支えるため、エリシアは自分にできることを探すため。それぞれの理由を聞いたアレクは、自分も同行したいと思った。


 王子としての身分を考えれば、簡単に認められる話ではない。危険な依頼に巻き込まれる可能性もある。父が反対することも、アレクには分かっていた。


 それでも、黙って始めるつもりはなかった。


 父に許しを求める。それが王族として、そして息子として取るべき手順だった。


 謁見の間に入ると、国王は既に玉座の前に立っていた。側近たちは下がり、室内には父と息子だけが残されている。


「朝から話があると聞いた。何を望んでいる?」


 国王の問いに、アレクは背筋を伸ばした。


「冒険者として登録し、活動することをお許しいただきたいのです」


 国王の表情がわずかに変わる。


「冒険者だと?」


「はい」


「なぜ、そのようなことを望む」


 アレクは、事前に考えていた言葉を並べるのではなく、自分が見たものを思い返した。


「先日、セリオス枢機卿の慈善活動に同行しました。王都北部の診療所で患者の様子を見て、炊き出しの手伝いもしました。私は、王都のことを分かっているつもりでいました。しかし、実際に足を運んで初めて知ったことが多くありました」


「それで冒険者になれば、民の暮らしが分かるというのか」


「それだけではありません。冒険者は、街の外で起きていることにも関わります。街道の危険や魔物の出現、土地ごとの困り事を、依頼を通して知ることができます。王城に届く報告を待つだけでなく、自分の目で見て、判断できるようになりたいのです」


 国王は黙ってアレクを見ていた。


「お前は王太子だ。冒険者の仕事には怪我も死もある。依頼の内容によっては、王家を巻き込む問題にもなる。護衛を付ければ、行く先々で騒ぎになるだろう。身分を隠して動けば、正体が露見した時に危険が増す」


「承知しています」


「本当に理解しているのか?」


「危険があることは理解しています。それでも、見聞を広げたいのです。王都の外に出て、王国で暮らす人々が何に困り、何を必要としているのかを知りたい。冒険者として活動すれば、その一端に触れられると考えています」


 国王は窓辺へ歩み寄り、王都の街並みを見下ろした。


「お前が冒険者になったところで、王族である事実は変わらない。お前が起こした問題の責任を負うのは、お前一人ではない。分かっているな」


「はい。私の行動が王家の名に関わることは、忘れません」


「ならば、気まぐれで始めることは許さん」


 国王は振り返り、アレクを正面から見据えた。


「条件を出す」


 アレクは姿勢を正した。


「冒険者登録を認める。ただし、一年以内にCランクへ昇格しろ」


「Cランク、ですか」


「冒険者として活動する以上、実力が伴わなければならない。王子の身分を理由に、能力の不足を見逃すつもりはない。一年以内にCランクへ上がれなければ、その後は冒険者としてクエストを受けることを認めない」


 それは、単なる登録の許可ではなかった。


 一年間で実力を示せという命令だった。


 Cランクは、初心者を抜けた冒険者として認められる目安の一つだ。依頼を選ぶ幅も広がる一方で、相応の知識と経験が求められる。学生生活と並行しながら一年で到達するのは、容易ではない。


 だが、国王は条件を曲げる様子を見せなかった。


「それは、私が王子だからですか」


「王子だからこそだ。お前が低いランクのまま活動を続ければ、王家の名を借りて危険な場所へ出入りしていると見られる。逆に、高いランクを得たからといって、無謀な行動を許すわけでもない。まずは冒険者として認められるだけの実力を身につけろ」


「分かりました。その条件を受け入れます」


「簡単に答えるな。一年間、学園の授業も続く。王子としての務めもある。冒険者活動だけに時間を使えるわけではないぞ」


「それも承知しています。授業や公務を疎かにするつもりはありません」


「言葉だけなら何とでも言える」


 国王の声は厳しかった。しかし、その目には怒りだけでなく、息子を案じる色もあった。


「お前が見たものに心を動かされたことは分かった。だが、王族の務めは、現場へ出ることだけではない。見たものをどう国に持ち帰り、何を変えるかまで考えろ」


「はい」


「冒険者として得た経験を、ただの思い出にするな。王族として、王国のために生かせ」


「必ず」


 国王はしばらくアレクを見つめた後、側近を呼び、冒険者登録に必要な手続きを進めるよう命じた。身分の扱いや活動の範囲については、協会側と調整する必要がある。詳しい手続きは、登録時に改めて確認することになった。


 謁見の間を退出する前、アレクは父へ一礼した。


「お許しいただき、ありがとうございます」


「礼を言うのは、条件を果たしてからにしろ」


「はい」


 扉を出ると、廊下の窓から明るい日差しが差し込んでいた。


 一年以内にCランクへ上がる。できなければ、冒険者としてクエストを受けることはできなくなる。


 期限は短い。だが、父が出した条件を受け入れたのはアレク自身だった。


 彼は足を止めず、王城の出口へ向かった。


 冒険者としての道は、まだ始まっていない。これから協会で登録し、依頼を選び、エリシアやエドガーと活動することになる。


 その前に、二人へ条件を伝えなければならない。


 アレクは、父の言葉を胸の中で繰り返した。


 見たものを、思い出だけにするな。


 王都の北で目にした人々の暮らしも、冒険者として知ることになる王国の現実も、いつか王族として生かす。


 そう決めて、アレクは王城を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。