第399話 王の条件
外伝を書いてしまいました。笑
「乙女ゲームの関係ないシスコン(兄)が自分探しの旅に出ようと思います」
不定期ですが、主人公をヒロト・スルガで本編で書くつもりの無い、セレスティア教国やレイン魔導国家などの内情を書こうかなーとおもっています。
ほぼ関係無い話にするつもりなので、気が向けば読んで下さい。
朝の王城には、まだ静けさが残っていた。
大広間へ続く廊下を、アレクは一人で歩いていた。窓から差し込む朝日が、磨かれた床に長い光の筋を作っている。
今日、アレクは父である国王に願い出るつもりだった。
冒険者として活動したい。
セリオスの慈善活動に同行し、王都北部の人々を見たあの日から、その思いは胸の中に残っていた。報告書で読んだ貧困や治安の問題と、実際に目の前で見た暮らしは違っていた。人々の表情や声、診療所へ運ばれてくる患者の様子は、書類だけでは分からない。
エリシアとエドガーも、冒険者として活動することを考えていた。エドガーは家計を支えるため、エリシアは自分にできることを探すため。それぞれの理由を聞いたアレクは、自分も同行したいと思った。
王子としての身分を考えれば、簡単に認められる話ではない。危険な依頼に巻き込まれる可能性もある。父が反対することも、アレクには分かっていた。
それでも、黙って始めるつもりはなかった。
父に許しを求める。それが王族として、そして息子として取るべき手順だった。
謁見の間に入ると、国王は既に玉座の前に立っていた。側近たちは下がり、室内には父と息子だけが残されている。
「朝から話があると聞いた。何を望んでいる?」
国王の問いに、アレクは背筋を伸ばした。
「冒険者として登録し、活動することをお許しいただきたいのです」
国王の表情がわずかに変わる。
「冒険者だと?」
「はい」
「なぜ、そのようなことを望む」
アレクは、事前に考えていた言葉を並べるのではなく、自分が見たものを思い返した。
「先日、セリオス枢機卿の慈善活動に同行しました。王都北部の診療所で患者の様子を見て、炊き出しの手伝いもしました。私は、王都のことを分かっているつもりでいました。しかし、実際に足を運んで初めて知ったことが多くありました」
「それで冒険者になれば、民の暮らしが分かるというのか」
「それだけではありません。冒険者は、街の外で起きていることにも関わります。街道の危険や魔物の出現、土地ごとの困り事を、依頼を通して知ることができます。王城に届く報告を待つだけでなく、自分の目で見て、判断できるようになりたいのです」
国王は黙ってアレクを見ていた。
「お前は王太子だ。冒険者の仕事には怪我も死もある。依頼の内容によっては、王家を巻き込む問題にもなる。護衛を付ければ、行く先々で騒ぎになるだろう。身分を隠して動けば、正体が露見した時に危険が増す」
「承知しています」
「本当に理解しているのか?」
「危険があることは理解しています。それでも、見聞を広げたいのです。王都の外に出て、王国で暮らす人々が何に困り、何を必要としているのかを知りたい。冒険者として活動すれば、その一端に触れられると考えています」
国王は窓辺へ歩み寄り、王都の街並みを見下ろした。
「お前が冒険者になったところで、王族である事実は変わらない。お前が起こした問題の責任を負うのは、お前一人ではない。分かっているな」
「はい。私の行動が王家の名に関わることは、忘れません」
「ならば、気まぐれで始めることは許さん」
国王は振り返り、アレクを正面から見据えた。
「条件を出す」
アレクは姿勢を正した。
「冒険者登録を認める。ただし、一年以内にCランクへ昇格しろ」
「Cランク、ですか」
「冒険者として活動する以上、実力が伴わなければならない。王子の身分を理由に、能力の不足を見逃すつもりはない。一年以内にCランクへ上がれなければ、その後は冒険者としてクエストを受けることを認めない」
それは、単なる登録の許可ではなかった。
一年間で実力を示せという命令だった。
Cランクは、初心者を抜けた冒険者として認められる目安の一つだ。依頼を選ぶ幅も広がる一方で、相応の知識と経験が求められる。学生生活と並行しながら一年で到達するのは、容易ではない。
だが、国王は条件を曲げる様子を見せなかった。
「それは、私が王子だからですか」
「王子だからこそだ。お前が低いランクのまま活動を続ければ、王家の名を借りて危険な場所へ出入りしていると見られる。逆に、高いランクを得たからといって、無謀な行動を許すわけでもない。まずは冒険者として認められるだけの実力を身につけろ」
「分かりました。その条件を受け入れます」
「簡単に答えるな。一年間、学園の授業も続く。王子としての務めもある。冒険者活動だけに時間を使えるわけではないぞ」
「それも承知しています。授業や公務を疎かにするつもりはありません」
「言葉だけなら何とでも言える」
国王の声は厳しかった。しかし、その目には怒りだけでなく、息子を案じる色もあった。
「お前が見たものに心を動かされたことは分かった。だが、王族の務めは、現場へ出ることだけではない。見たものをどう国に持ち帰り、何を変えるかまで考えろ」
「はい」
「冒険者として得た経験を、ただの思い出にするな。王族として、王国のために生かせ」
「必ず」
国王はしばらくアレクを見つめた後、側近を呼び、冒険者登録に必要な手続きを進めるよう命じた。身分の扱いや活動の範囲については、協会側と調整する必要がある。詳しい手続きは、登録時に改めて確認することになった。
謁見の間を退出する前、アレクは父へ一礼した。
「お許しいただき、ありがとうございます」
「礼を言うのは、条件を果たしてからにしろ」
「はい」
扉を出ると、廊下の窓から明るい日差しが差し込んでいた。
一年以内にCランクへ上がる。できなければ、冒険者としてクエストを受けることはできなくなる。
期限は短い。だが、父が出した条件を受け入れたのはアレク自身だった。
彼は足を止めず、王城の出口へ向かった。
冒険者としての道は、まだ始まっていない。これから協会で登録し、依頼を選び、エリシアやエドガーと活動することになる。
その前に、二人へ条件を伝えなければならない。
アレクは、父の言葉を胸の中で繰り返した。
見たものを、思い出だけにするな。
王都の北で目にした人々の暮らしも、冒険者として知ることになる王国の現実も、いつか王族として生かす。
そう決めて、アレクは王城を後にした。




