第37話 約束の日
雪が溶け始める頃
レオンは再びグランツの宿場町へ向かっていた
クロエとはもう四度目の取引になる
走竜の蹄が街道を駆けていた
最初は十頭だったボア肉も
今では三十頭近く運ぶようになっていた
事業は順調
騎士団改革も順調
それでも金貨二万枚には程遠かった
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現在資金
金貨六百八十枚。
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「全然足りないな」
レオンが呟きゼムが苦笑した
毎月帳簿を見ては同じ言葉がでている
「普通なら十分な資産ですが」
「自分で決めた事だけど目標が悪い」
即答だった
ゼムは肩を竦める
「おぼっちゃまらしいですな」
「褒めてないだろ」
「褒めております」
ゼムには全く信用できなかった
出発してから二日後グランツの宿場町に到着した
そしていつもの広場にはクロエがいた
灰色の髪の迷彩柄のフード付きマント
見慣れた姿で手を振っていた
「久しぶり」
「久しぶりだな」
クロエは笑っていた
今日はどこか機嫌が良い
それから取引は順調だった
いつも通り何事もなく終わる
帳簿を閉じると夕方になっていた
そしてクロエがレンに問いかけた
「今日は大丈夫?」
「何がだ?」
⸻
レオンは冗談で言っていた
するとクロエが呆れた顔をする
「ご飯」
「ああそうだったそうだった」
するとクロエが睨んでいた
三回流れた約束
一回目は竜車の商談が長引いた
二回目はクロエが予定があると断った。
三回目はレオンが断った
そして四回目にしてようやく
「俺も大丈夫だ」
クロエの表情が明るくなる
「本当?」
「嘘ついてどうする」
「レンなら忘れてそうだったから」
「酷くないか?」
「事実でしょ?」
反論できなかった
クロエが勝ち誇った顔をする
少し悔しい
「じゃあ行こう」
「そうだな」
二人は宿場町を歩き始めた
今の時間は人通りも多い
食堂からは良い匂いが漂ってくる
その時クロエは何か思い出したかのように反応した
「あっ」
クロエが立ち止まった
「どうした?」
「忘れ物」
少し慌てている
クロエにしては珍しい
「宿にか?」
「うん」
クロエは頷いた
「すぐ戻るね」
レオンは肩を竦めた
「先に店に入ってるぞ」
「了解!」
クロエは親指を立てる
「十分で戻るから!」
そう言って駆け出していった
レオンは苦笑する
「そんなに慌てる事か?」
すると後ろから声が聞こえた
「お若いですなぁ……」
驚いて振り向くとゼムが立っていた
「いつからそこに居たんだ?てか若いってなんだよ」
ゼムはやれやとした顔でレオンをみた
「おぼっちゃまも、お若いですからね」
そう言い去って行った
その頃クロエは宿へ戻っていた
部屋へ入り扉を閉めそして鏡を見た
「……汗臭くないよね?」
思わず呟く
今日一日中荷物や取引の確認
商品の整理に竜車の手入れと、ずっと動いていた
そして今日はレンと二人で食事
クロエは鏡を見て髪を整える
服を払い顔を洗う
香草水を少しだけ使う
「僕何やってるんだろ……」
頬が少し熱い
理由は分からない
取り敢えず考えないようにする
「よし準備完了!」
十分も経っていない
「急がないとレンを待たせてしまう」
クロエは部屋を出て宿の裏口へ回る
その瞬間だった
クロエの背筋がぞくりとした
長年逃げ続けた勘が働く
誰かに見られてると
「いたぞ!」
低い男の声が響いた
クロエの動きが止まる
後ろには見知らぬ男が三人立っていた
「だ…誰?」
男達は答えない
ただゆっくりと近付いてくる
クロエの表情から笑みが消えた
そして宿場町の食堂では
レオンは席についていた
十分経ってもまだ来ない
時間は二十分、三十分と過ぎていた
「遅いな」
レオンの表情が変わる
クロエは商人だ
時間はいつも正確だった
だからこそ遅れる理由が思いつかなかった
「……まさか」
嫌な予感が胸をよぎる
レオンは席を立った




