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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: 蛙の子はお玉杓子
第10章 癒しの護り手と悪役令嬢

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第391話 参加の申し出



 翌日の午後、エリシアは聖属性の個人授業を受けるため、魔法実習棟の特別講義室へ向かっていた。


 北のスラム街で行う慈善活動については、以前の授業でセリオスから聞いていた。炊き出しと診療を行う予定で、王国からの許可もすでに下りているという。


 今日の授業では、活動に向けて診療の手順を確認することになっていた。


 エリシアは教室の扉をノックした。


「どうぞ」


 中から返事があり、扉を開ける。セリオスは机の上に診療用の布や器具を並べていた。


「こんにちは、エリシアさん」


「こんにちは」


「今日は、実際に診療で使う道具を確認しながら、現地での手順を考えてみましょう」


 エリシアは席につき、ノートを開いた。


 患者の状態を確かめること。清潔な布や器具を使うこと。治療の後は、使用済みのものを分けて片付けること。これまでに学んだ手順を思い出しながら、道具の扱いを一つずつ確かめていく。


「治療の方法だけでなく、誰がどの道具を扱うか、どこに使用済みのものを置くかも決めておくとよいでしょう。現地では大勢の人が動きますから、事前に手順を整えておくことが大切です」


「はい。使うものを分けて置いておけば、間違いも減らせそうですね」


「その通りです」







 授業の終わり頃、廊下から足音が聞こえた。扉が二度、控えめに叩かれる。


「どうぞ」


 セリオスが声をかけると、扉が開いた。


 先に入ってきたのはアレクだった。その後ろには、エドガーがいる。エドガーは扉をくぐる前に一度足を止め、背筋を伸ばして頭を下げた。


「お時間をいただき、ありがとうございます」


「アレク殿下、どうぞお入りください」


 セリオスは二人に椅子を勧めた。アレクが先に腰を下ろし、エドガーもその向かいに座る。エリシアは、エドガーの表情が少し硬いことに気づいた。


 アレクはセリオスへ向き直った。


「先日エリシアさんを通じてお伝えしたとおり、私も慈善活動への参加を希望しております。こちらは同じクラスのエドガーです。彼も参加を希望しております」


「初めまして、エドガーさん。参加を希望される理由を聞かせていただけますか?」


 セリオスの問いに、エドガーは一度アレクを見てから答えた。


「私の火魔法が、炊き出しの準備に役立つと思いました。それに……王都の中に、どのような暮らしをしている人たちがいるのか、自分の目で見たいと思っています」


「火魔法は、調理や湯を沸かす際に役立つでしょう。ただし、周囲には人が大勢います。火の扱いには十分注意してください」


「はい。分かっております」


 エドガーの声には、成人の儀で起こした暴発への後悔がにじんでいた。彼は膝の上で手を握りしめ、セリオスをまっすぐ見ている。


「以前、私は自分の魔法を制御できず、周囲の人に怪我を負わせました。あの時、エリシアさんに治していただきました。だからこそ、今度は自分の力を誰かを助けるために使いたいと思っています」


 エリシアは、成人の儀の時を思い出した。怒りに任せて魔法を放ち、火傷を負ったエドガー。彼の傷を癒やした後、彼は謝罪し、自分の未熟さを認めた。



「その気持ちは分かりました」


 セリオスは静かに頷いた。


「ただし、現地で魔法を使う際は、私か担当者の指示を受けてください。必要以上に火を強めないこと。周囲の人に向けて魔法を使わないこと。守れますか?」


「はい。必ず守ります」


「アレク殿下も、活動の一員として、患者や炊き出しを受ける方々の安全を優先してください」


「承知しております」


 アレクは真剣な顔で答えた。


「患者の素性や事情を無理に尋ねないこと。聞いた話を外へ持ち出さないことも約束していただけますか?」


「約束いたします」


 アレクが答え、エドガーも続いた。


「私も約束します」


 セリオスは二人の顔を順に見たあと、エリシアへ視線を向けた。


「エリシアさん。エドガーさんが参加することについて、何か気になる点はありますか?」


 突然尋ねられ、エリシアは少し驚いた。


「私からは、特にありません。エドガーさんも真剣に考えていらっしゃると思います」


「分かりました」


 セリオスはエドガーへ向き直った。


「では、エドガーさんの参加を認めます。現地では私の指示に従ってください。火魔法を使う役割についても、当日の状況を見て決めましょう」


「ありがとうございます。力を尽くします」


 エドガーは深く頭を下げた。


「活動の詳しい日程や集合場所については、準備が整い次第お知らせします。王都の北側へ向かう際は、北門が閉鎖されていますから、東門か西門から出て城壁沿いを回ることになります。距離もありますので、当日は時間に余裕を持って集まってください」


 三人は頷いた。


「エリシアさんは、現地で回復魔法を使う前に患者の状態を確かめ、判断に迷ったら私に相談してください。妊婦への回復魔法は使わないことも忘れずに」


「はい」


 エリシアは答えた。


「アレク殿下、エドガーさんも、処置に迷った時は勝手に判断せず、私へ知らせてください」


「承知しました」


「分かりました」


 セリオスは柔らかく微笑んだ。


「今日はお二人とも、来てくださってありがとうございました。準備を進めますので、詳細を待っていてください」


 アレクとエドガーは席を立ち、セリオスへ礼をした。


 エリシアも二人と一緒に講義室を出る。


 廊下に出ると、アレクがエドガーへ声をかけた。


「当日は頼りにしている」


「はい。私にできることをします」


 エドガーの返事は、まだ少し硬かった。王子であるアレクとの身分の差を意識しているのだろう。エリシアに話す時よりも、ずっと言葉を選んでいるように見えた。


「エリシアさんも、よろしくお願いします」


 アレクがこちらを向く。


「はい。私も、授業で習ったことを忘れないようにします」


「無理はしないでくれ」


「分かっています」


 エリシアは微笑んだ。


 三人は廊下の分かれ道で別れた。アレクとエドガーは男子寮の方へ、エリシアは女子寮へ続く道へ向かう。


 北のスラム街で、どんな人たちと会うのか。自分に何ができるのか。まだ分からないことは多い。


 それでも、セリオスの指示のもと、アレクとエドガーも一緒に行くことになった。


 エリシアはノートを胸に抱き、次の授業に備えて歩き出した。

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