第34話 グランツ商会
王都でクロエと出会ってから三ヶ月
レオンはノルディア領からグランツの宿場町へ到着した
馬車で六日、長い道のりだった
「やっぱり遠いな」
馬車から降りながら呟く
ゼムが苦笑する
「だから走竜が欲しいと仰っていたのでしょう?」
「ああ」
レオンは頷く
商売をするなら移動時間は短い方が良い
特にボア肉のような生鮮品なら尚更だ
宿場町中央の広場
約束の場所へ一人で向かう
すると
「レン!」
聞き覚えのある声が飛んできた
灰色の髪が迷彩柄のフード付きマントから見える少年
クロエだった
「久しぶりだな」
「久しぶり!」
クロエは少し嬉しそうに笑った
再会を楽しみにしていたのが伝わってくる
「持ってきた?」
「ああ」
レオンは荷台を開いた
冷気が漏れ出す
クロエの目が丸くなった
「冷えてる」
「実験作だ」
クロエは肉を確認する
指でつついた
「え?これ?」
と不思議そうな顔をした
するとレオンはカバンの中からブロックのボア肉をとりだした
「この肉は三週間前に凍らせたヤツだ」
レオンは持っている肉を手渡した
「肉を凍らせたの!?」
クロエはかなり驚いていた
「あぁ、流石に3週間も溶けない氷は作れない」
「確かに……」
そう言いクロエは懐からナイフを出し切って匂いを嗅ぐそして触る
商人らしい手際だった
しばらくして顔を上げた
「鮮度が良い」
「だろ?」
「これなら売れるよ」
即答だった
レオンは内心で安堵する
商売のプロが言うなら間違いない
取引は順調だった
販売量
価格
今後の流通
次への話はどんどんまとまっていく
やがて帳簿を閉じたクロエが言った
「そういえば」
「ん?」
「走竜欲しかったんだよね?」
レオンは思い出した
王都での約束だ
「ああ」
「まだ欲しい」
クロエは立ち上がる
「じゃあ行こう」
案内されたのは宿場町でも一際大きな建物だった
荷車が何台も出入りしている
入口には立派な看板【グランツ商会】の文字が掲げられていた
「大きいな」
レオンが見上げる
「王国でもかなり大きい商会だよ」
クロエは慣れた様子で中へ入っていった
受付にクロエが話すとすぐに応接室へと通された
応接間に着くとそこには一人の男が座っていた
立派な服
恰幅の良い体
そして商人らしい鋭い目
男はクロエを見るなり笑った
「おお、クロエじゃないか」
「久しぶり」
クロエも軽く手を上げる
親しげな様子だった
「今日は何の用だ?」
「走竜買いたい人連れてきた」
クロエがレオンを指差し男の視線がレオンに向く
男は少し考えそして笑った
「若いな」
レオンは肩を竦める
「よく言われる」
「クロエと同じくらいか?」
「そんなもんだ」
男は納得したように頷いた
若い商人同士なるほど、だから気が合うのか
その程度の認識だった
「俺はブロド・グランツここの宿場町を仕切ってる商人だ!」
ブロドはそのまま続けた
「それで?何が欲しい?」
「走竜だ」
レオンが答えブロドの眉が上がった
「ほう……商売始めたばかりの若い奴は大体馬車で我慢するんだがな」
「時間は金だからな」
レオンが言い放つとブロドは楽しそうに笑った
「違いねぇ」
椅子に座り商談が始まった
走竜
竜車
維持費
輸送量
様々な説明が続く
そしてブロドが値段を口にした
「走竜二頭と竜車一台、合わせて金貨三百枚だ」
レオンは眉をひそめる
予想以上高かったのだ
金貨三百枚
普通の商人なら簡単に出せる額ではない
すると横からクロエが即座に言った
「高い」
ブロドが笑う
「だから値切れ!最初の値段は希望価格だ」
レオンはクロエに呆気に取られていた
「そこから削るのが商人でしょ?」
クロエは慣れた様子だった
「僕も昔もそう言われた、僕が最初に取引した時にそのまま払おうとしたら怒られた」
ブロドは大笑いした。
「商人失格だからな!」
そこから交渉が始まった
クロエも容赦しない
ブロドも負けない
気付けば三十分近く経っていた
「分かった分かった!」
ブロドが両手を上げる
「俺の負けだ!」
そしてブロドは大きく手を広げた
「金貨二百五十枚、これが限界だ」
レオンは少し考える
高いだが馬車で六日が走竜なら二日
今後の利益を考えれば十分元が取れる
「成立だ」
ブロドがニヤリと笑った
「毎度あり」
こうしてレオンは走竜二頭と竜車一台を手に入れた
商会を出た頃には夕方だった
赤く染まっている空をレオンが見る
「遅くなったな」
「うん」
クロエも頷いた
そして二人同時に思い出す
「あっ飯」
「ご飯」
しばし沈黙しレオンが苦笑した
「もう無理だな」
クロエも苦笑する
「ボア肉を王都へ送らないと」
「俺も帰らないとまずい」
取引
商談
契約
思った以上に時間が掛かった
「じゃあ次」
クロエが言う
「次だな」
レオンも頷く
「約束だからね」
「ああ」
「忘れないでよ?」
「努力する」
「覚える気ないでしょ」
クロエが呆れた顔をしてレオンは笑った
こうして最初の食事の約束は流れた
二階の窓からその様子を見ていたブロドは、小さく笑う
「若いな、あいつも生きてりゃあのぐらい……」
若い商人二人
それ以上の感想は無かった
この時のブロドにとってレンは
少し商才のある若い平民商人に過ぎなかったのである




