第33笑 父を越えられなくても
王都からノルディア領へ戻って一週間
レオンは訓練場の端で腕を組んでいた
目の前には大きなレッドボアの肉塊がある
その周囲を氷が覆っている
「どうだ?」
レオンが聞きゼムは氷を確認する
そしてゼムが口を開く
「普通の氷ですな」
容赦なかった
「だよなぁ……」
レオンは頭を掻く
王都で知った事実
グランツの宿場町ではボア肉が高値で売れる
王都ならさらに高く金額三枚で売れていた
なら売らない手はない
あとは問題は保存だった
父グラニウスはその問題を既に解決していた
三週間以上溶けない氷を作っていたのだ
それによりボア肉を王都まで運んでいたのだ
だがレオンには出来ない
翌日また氷を確認するが少し溶けている
三日後になるとさらに小さくなる
七日後には氷は完全に消滅していた
レオンはため息を吐いた
「全然駄目だな」
「一週間持つだけでも十分凄いかと」
ゼムは褒めるのだが
この結果ではグランツの宿場町の周りでしか肉は取引できない
比較対象が悪かった、父は三週間以上、自分は一週間、差は歴然だった
それから何度も試した
魔力を増やす
冷気を強める
魔力の密度を上げる
だが結果は変わらない
どうしても一週間前後だった
夜になり執務室でレオンは机へ突っ伏していた
書類は既に終わっている
今考えているのは氷だけだ
「何が違うんだ……」
父との差
技術の差
経験の差
それらはもちろんあるのだがそれだけではない気がした
『旦那様はゆっくり凍らせておりました』
ふとゼムの言葉を思い出す
レオンは顔を上げた
「ゆっくり……」
自分は違う一瞬で凍らせている
魔法だから当然だ、だが父は違った
不純物を取り除きながら時間を掛けて少しずつ凍らせていた
「無理だろ」
レオンは苦笑する
そんな精密な制御今の自分には出来ない
父だから出来ただそれだけだ
そこで別の考えが浮かぶ
前世の記憶
会社員だった頃よくスーパーに行っていた
そこに並ぶ冷凍食品に急速冷凍の文字
「瞬間冷凍……待てよ」
レオンは顎に手を当てた
父が作ろうとしていたのは溶けない氷だ
だが自分が守りたいのは何だ?
ボア肉
商品
鮮度
そこで思考が繋がる
「保存したいのは氷じゃない」
レオンは立ち上がった
「肉だ!」
レオンは勢いよく立ち上がった
翌日朝再び訓練場に向かう
ゼムが嫌な予感を覚えた顔をしている
「今度は何を?」
「実験だ」
レオンは即答した
そして肉へ手を向ける
冷気を集中し限界まで高める
そして一気に内部まで凍らせる
「パキパキパキッ!」
肉そのものが凍り付く
「完全凍結だ」
レオンは頷いた
「よし」
そしてその周囲を今まで通り氷で覆う
こちらは一週間しか持たない未完成品だ
だが問題ないそう確信していた
一週間後外側の氷はかなり溶けていた
しかし肉はまだ凍っている
二週間後ようやく解凍が始まっていた
ゼムが目を見開いた
「これは……」
「成功だな」
レオンは笑った
三週間持つ氷は作れない父の技術には遠く及ばない
だが肉の鮮度だけならむしろこちらの方が上かもしれない
レオンは空を見上げると青空が広がっていた
「まだまだ遠いな」
三週間溶けない氷そんな芸当は出来ない
だが父と同じ道を歩く必要もない
自分には自分のやり方がある
前世の知識
魔法
領地経営
それらを組み合わせればいい
「これで売れるな」
レオンが呟く
ゼムも頷いた
「ええ、十分商品になります」
ボア肉
王都
グランツの宿場町
そしてクロエとの約束
全てが繋がり始めていた
それから一ヶ月後レオンはボア肉の準備を進めた
取引量を凍らし
保存方法の改良し
商売の計画を立てる
そしてグランツの宿場町で怪しい商人
クロエとの最初の取引の日がやって来る




