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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第1章覚醒と別れ

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第4話 父の容態と現実

馬車の窓から、ノルディアの城壁が見えた。

馬と御者を換えながら、馬車は七日間走り続けていた。

王都から辺境までの長い道のりだった。

窓から見える景色は見慣れたもののはずなのに、どこか遠く感じる。

父が倒れたとの知らせを聞いた時は驚いたが、病気を患っていること自体は知っていた。

二年ほど前から体調が優れず、時折寝込むこともあった。

それくらいの話だった。

父は、昔から無茶をする。

自分が十歳になるまでは、魔物討伐では常に先頭に立っていた。

騎士達が止めても聞かない。

ゼムが叱っても聞かない。

そんな父だった。

だから、倒れたと聞いても一瞬、


(また無理をしたのだろうか?)


くらいにしか思っていなかった。


だが、知らせを伝えに来たゼムの様子が気になっていた。

普段のゼムなら、どんな問題が起きても冷静だ。

辺境に魔物の群れが現れた時も。

盗賊団が暴れた時も。

父が怪我をした時ですら、大きく取り乱したことはない。

しかし、あの日のゼムは違った。

表情はいつも通りだった。

声も落ち着いていた。

だが、長年一緒にいたレオンには分かる。

何かを押し殺していた。

何かを隠していた。

まるで、今にも崩れそうなものを必死に支えているような、そんな雰囲気だった。


(考えすぎか……)


レオンは首を振る。

父は強い、誰よりも強い。

そう簡単に倒れるはずがない。

自分に言い聞かせているうちに、馬車は城門を潜った。

邸に到着すると、違和感を覚える。

静かだった。

あまりにも静かだった。

訓練場から聞こえるはずの騎士達の声がない。

使用人達も、どこか沈んでいる。

馬車が止まると、レオンはすぐに飛び降りた。

そこには、見慣れた顔が並んでいた。

ノルディア騎士団長


ガレス


副団長


エルン


二人は、綺麗な騎士の敬礼をしていた。

誰も笑っていない。


「父上の様子は?」


真っ先に、二人へ尋ねる。

ガレスは拳を握り締め、エルンも視線を逸らす。

だが、誰も答えない。

重い沈黙が流れる。

レオンは、隣に立つゼムを見た。

王都からここまで共に来た執事は、ただ静かに前を見ていた。


「ゼム」


「……まずは、中へ参りましょう」


いつもとは違う、低い声だった。


「早く父上に会わせてくれ」


「その前に、お話ししなければならないことがあります」


レオンは眉をひそめた。

その言葉が、妙に引っ掛かる。

父に会う前に、話さなければならないこと。

そんなものがあるのか。

レオンは嫌な予感がした。

だが、ゼムの表情は変わらない。

いつも通り、それなのに、長年仕えてきた執事の顔は、今まで見たことがないほど疲れていた。


「……分かった」


レオンは短く答えた。

そして、ゼムに案内されるまま邸の中へ入っていく。

父の部屋へ向かうものだと思っていた。

だが、案内されたのは執務室だった。

レオンの胸に、嫌な予感が走る。


「ゼム?」


執務室の扉が開く。

ゼムは振り返ると、深く頭を下げた。


「まずは、こちらへ」


レオンは無言で中へ入り、扉が閉まる。

部屋の中には、二人だけ。

重苦しい沈黙が流れている。

そして、ゼムは静かに頭を下げた。


「"レオン様"グラニウス様の命により、今まで伏せられていたことがあります」


レオンの心臓が、嫌な音を立てた。


「……父上の病気か?」


「はい」


「二年前から、体調が悪いとは聞いている」


「それだけではありません」


ゼムは拳を握り締めた。


「辺境伯様がお患いになっている病は……」


一拍置き、ゼムは目を閉じる。

そして、ゆっくりと口を開いた。


「〝魔力侵食症〟です」


レオンは目を見開いた。

聞いたことがある。

前世の記憶にある乙女ゲーム『ノルドレア・ロワイヤル』

その世界設定の中に存在した、不治の病だった。

大量の魔力を長年使い続けた者が発症する。

高出力で魔力を使い続けると、体内を巡る魔力の通り道である魔力回路に傷が生まれる。

傷付いた回路から、魔力が漏れ出してしまうのだ。

本来なら回路の中だけを流れる魔力が、筋肉や骨、内臓などへ染み込み、少しずつ全身を侵食していく。

治療法は存在しない。

王国にも、帝国にも、教国にも、魔導王国にも解決できなかった病。


だが、ゲームではセリオスルートで、長年回復魔法を使い続けたセリオスが発症していた。

カインルートでは、主人公エリシアが発症する。

唯一、主人公エリシアの聖属性だけが症状を改善でき、カインルートでは魔法薬によって完治できた。

だが、ゲームの話ではない。

今は現実だ。

そして、その病に侵されているのは、父グラニウス・ノルディアだった。

レオンの拳が震えた。


「……どこまで進行している?」


ゼムは答えなかった。

その沈黙だけで、レオンは理解してしまった。

父の病は、既に末期に入っていることを。

そして、レオンは恐る恐るゼムへ問いかけた。


「父上は、あと……どのくらい生きられるのだ?」


「……医者が言うには、数日。長くても一週間とのことです」


執務室が、沈黙に包まれた。

長くても、あと一週間。

そんな現実が、レオンを押し潰そうとしていた。


「それでは、旦那様がお待ちです。こちらへどうぞ」


ゼムは、父の寝室へ向かってゆっくりと歩き出した。

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