↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第1章覚醒と別れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/358

第3話 馬車の中で

馬車が揺れる。

王都を出て三日、まだノルディア領までは遠かった。

窓の外を流れる景色を眺めながら、レオンは小さく息を吐いた。


"父が倒れた"


その知らせを聞いてから、胸の奥がずっと重かった。

二年前から、体調が良くないことは分かっていた。

最近は魔獣討伐にも出なくなった。

身体が痩せ、咳をしている姿も見ていた。

倒れたとの知らせを受けて、王子の誕生祭だというのに飛び出してしまった。

王都からノルディアまでは、馬を換えて急いでも七日は掛かる。

考えれば考えるほど、落ち着かない。

考えないようにしても、考えてしまう。


「頭の中を整理しよう……」


ぽつりと、レオンは呟いた。


(ここは、乙女ゲームの世界だ)


【ノルドレア・ロワイヤル】


妹から借りたゲーム。

全ルートを攻略した。

王立学園を舞台にした恋愛ゲーム。

主人公は"エリシア"平民出身の少女。

聖属性の才能を見いだされ、王立学園へ入学する物語だ。

攻略対象は四人。


エルグランド王国 第一王子


アレク・エルグランド


ヴァルハイト帝国 第二皇子


ルーカス・ヴァルハイト


セレスティア教国枢 機卿


セリオス・セラフィス


レイン魔導国家 第一王子


カイン・レイン


悪役令嬢 ローゼンベルク公爵令嬢


クラリス・ローゼンベルク


学園百周年パーティーで婚約破棄され、断罪される。

彼女クラリスとは、王都のパーティーで出会った。

月明かりの下で、何度も何度もダンスの練習をしていた少女。

あれが、クラリスだ。


(本当にいたんだな……)


ゲームの登場人物。

画面の向こうの存在だったはずなのに、今は同じ世界に生きている。

しかも、ゲームでは描かれなかった部分まで存在している。

風の匂い。

夜の冷たさ。

人々の暮らし。

全てが現実だった。

レオンは、また小さく息を吐く。

そして、ゲームの内容を思い返す。

クラリスは断罪され、どのルートでも奴隷に落とされる。

ゲームの会話では、誰かに金貨二千枚で買われたと語られるだけ。

その後のクラリスの描写はない。

だから、気になっていた。


だが、今は父が倒れた。

父は、グラニウス・ノルディア。

絶対に負けない人。

どんな魔物より強い人。

民を思う、優しい人。

幼い頃からレオンにとって、そういう存在だった。

だから、父が倒れたという現実が、どうしても父の姿と結び付かなかった。

レオンは目を閉じる。

すると、ふと昔の記憶が浮かんだ。

これは、レオン自身の記憶だ。



五歳の誕生日。

あの日だけは、父が仕事を休んだ。

魔物の討伐も、政務も、会談も全て、自分のためにだ。

当時は分からなかった。

辺境伯が一日休むことが、どれほど珍しいことなのか。

ただ、嬉しかった。

父が、ずっと一緒にいてくれたから。

肩車をしてもらいながら、領都を歩いた。

高い場所から見る景色は新鮮だった。

領民達も祝ってくれた。

皆、笑っていた。

自分も笑っていた。

父と手を繋ぎ、ノルディアの通りを歩いていた時だった。

菓子屋の前から、甘い香りが漂ってきた。


「父上!」


「なんだ?」


「あのお菓子、食べたい!」


店先に並んだ美味しそうな焼き菓子を指差した。

今思えば、かなり高い菓子だった。

だが、当時は知らなかった。

ただただ、美味しそうだった。

すると、父は少しだけ考えた。


「今日は誕生日だからな、好きなものを買ってやろう」


「ほんと!?」


「ああ、どれでも好きなものを選びなさい」


飛び跳ねるほど喜んだ。

あの時、父が笑っていた。

優しく、どこか楽しそうに。

どうして、あんなに笑っていたのだろうか。

菓子を買ったくらいで。

でも、今なら少し分かる気がする。

父は忙しかった。

いつも、領地のことばかり考えていた。

討伐、政務、領民、兵士、孤児院。

休むことも少なかった。

だから、息子が目を輝かせながら喜ぶ姿が、嬉しかったのかもしれない。

あの日、父は辺境伯ではなく、ただの父親だった。

レオンは、ゆっくりと目を開く。

窓の外では、夕日が沈み始めていた。

もうすぐ夜になる、馬車は止まらない。

ノルディア領は、まだ遠い。

レオンは拳を握った。


(間に合ってくれ……父上。もう一度だけでいいから、話がしたい)


そう願いながら、揺れる馬車の中で空を見上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。