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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: 蛙の子はお玉杓子
第9章 天才王子とダンジョン攻略

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第363話 S級への条件

9章の話を書き終わりました。

10章にて、やっと原作が始まる所からスタートをする予定です。

長かった……。


ブックマーク、評価、リアクション、ありがとうございます。

更新してすぐにリアクションが付いていると読んで頂いてると実感でき、とても励になります。

これからも、どうぞ宜しくお願いします。

 《還命樹海セルヴァリア》を攻略してから、さらに半年余りが過ぎた。

 レオンがレイン魔導国家へ来て、間もなく十か月になる。


 その間も、レオンは冒険者協会から様々な依頼を受け続けていた。

 A級へ昇格したことで、それまでより危険な依頼を任されるようになっている。


 山岳地帯に現れた飛竜の討伐。

 魔獣に襲われた鉱山からの作業員救出。

 行方不明になった冒険者パーティーの捜索。

 国境付近を通る商隊の護衛。

 複数の村を巻き込む可能性があった魔物の群れの排除。


 どれも失敗すれば、多くの命が失われる依頼だった。

 レオンは依頼を受ける度に魔導国家の各地へ向かい、問題を解決した。

 その中でも、最も大きな被害が予想されたのは、ミストレアから北西にある鉱山町で起きた魔物の氾濫だった。


 冬眠から目覚めた魔物の群れが、食料を求めて山を下りてきた。

 数は二百体を超えていた。

 町には冒険者と自警団がいたが、全てを食い止められるほどの戦力はない。

 討伐隊が到着するまで、住民を守る必要があった。


 レオンは町へ着くと、最初に住民を一か所へ集めた。

 建物へ立て籠もらせるのではなく、逃げ道を確保出来る広場へ避難させる。

 その周囲を、巨大な氷壁で囲んだ。

 次に、魔物が町へ侵入する道を絞るため、家屋の間へ氷の壁を作った。

 住民のいない場所へ魔物を誘導し、待ち構えていた冒険者達と共に一体ずつ倒していく。


 剣で戦える者には前衛を任せる。

 弓を使える者には屋根の上から援護させる。

 負傷者は氷壁の内側へ運び、レオンが回復魔法で応急処置を施した。


 全てをレオン一人で倒す必要はなかった。

 その場にいる者達が、最も力を発揮出来る場所へ配置する。

 誰かが危険に陥れば氷壁で守り、逃げ遅れた住民がいれば自ら助けに向かった。

 討伐隊が到着した時、町の建物には被害が出ていた。

 だが、住民に死者はいなかった。


 協会から依頼を受けた冒険者達も、全員が生きていた。

 その報告は、ほかの依頼と共に冒険者協会本部へ送られた。

 いつしか《氷壁》の名は、ミストレアだけでなく、魔導国家の各地で知られるようになっていた。




 魔導国家へ来て十か月が過ぎた日のことだった。

 依頼を終えて冒険者協会本部へ戻ったレオンは、受付嬢から一枚の紙を差し出された。


「レンさん。こちらをご確認ください」


「何だ?」


「S級昇格審査の結果です」


 レオンの手が止まる。


「いつの間に審査を受けていたんだ?」


「S級の昇格審査は、冒険者本人が申し込むものではありません」


 S級への昇格には、決められた数の依頼を達成すればよいという基準はない。


 戦闘能力。

 依頼の達成率。

 協会への貢献。

 緊急時の判断。

 ほかの冒険者との連携。

 被害を抑えるための行動。


 それまでの全ての実績をもとに、協会本部の幹部が審査する。

 基準を満たしたと判断された冒険者だけが、昇格候補として選ばれるという。


「レンさんについては、ギルドマスターが推薦しました」


「ギースが?」


「はい。ただし、ギルドマスターの推薦だけでS級になれるわけではありません」


 魔導国家各地の支部から、レオンが受けた依頼の報告が集められた。


 依頼主からの評価。

 同行した冒険者達の証言。

 ダンジョンの攻略記録。

 討伐した魔物の素材。

 それらを協会本部の審査官達が確認した。


「審査の結果、レンさんはS級冒険者に必要な能力と信用を備えていると認められました」


 受付嬢はレオンが持つ冒険者証を受け取る。


「新しい冒険者証を発行します。少々お待ちください」


 受付嬢が奥へ入っていく。

 その間、レオンは受付の前に置かれた椅子へ腰を下ろした。

 冒険者として活動を始めて十か月。

 最初はF級だった。

 最初のダンジョンを攻略し、E級へ昇格した。

 依頼を受けながら実績を重ね、《魔脈大坑道グランヴァン》へ入るためにB級昇格試験を受けた。

 グランヴァンを単独で攻略した後も、協会への貢献が足りず、すぐにA級へは上がれなかった。


 護衛。

 採取。

 捜索。

 救助。

 魔獣の駆除。

 様々な依頼を受け、ようやくA級になった。


 その後、《還命樹海セルヴァリア》を単独で攻略した。

 そして半年余り、A級の依頼を受け続けた。

 ようやく、目的としていた階級へ届く。


 少しして、受付嬢が戻ってきた。

 手には新しい冒険者証がある。


「お待たせいたしました」


 レオンは差し出された冒険者証を受け取った。


 名前はレン。

 階級を示す文字は、Sへ変わっていた。


「本日から、レンさんは正式にS級冒険者です」


 受付嬢が微笑む。


「おめでとうございます」


「ありがとう」


 レオンは冒険者証へ視線を落とした。

 これで、S級でなければ受けられない依頼に挑戦出来る。

 そして、入れるダンジョンも増える。


「確認したいことがある」


「何でしょうか?」


「《天環魔導塔アストラリオン》へ入りたい」


 受付嬢の笑顔が消えた。

 レオンの周囲にいた職員達も、僅かに動きを止める。


「S級になって、最初に尋ねることがそれですか?」


「ああ」


「……少々お待ちください」


 受付嬢は困ったような表情を浮かべると、再び奥へ入っていった。

 それから間もなく、ギースが受付へ姿を現した。


「レン。俺の部屋へ来い」


「ああ」


 レオンはギースと共に、協会本部の奥にある執務室へ移動した。

 机を挟んで椅子へ座ると、ギースは大きく息を吐いた。


「お前なら、S級へ上がったその日のうちに聞くと思っていた」


「なら、話が早い」


「早過ぎるんだ」


 ギースは机の上で両手を組む。


「《天環魔導塔アストラリオン》は、これまでお前が入ったダンジョンとは違う」


「S級ダンジョンだからか?」


「それだけではない」


 《天環魔導塔アストラリオン》

 ミストレアの北東に存在する巨大な塔。

 いつ誰が建てたのか分かっていない。


 外から見える塔の高さと、内部の階層数も一致しない。

 塔の中では空間そのものが歪んでいると考えられていた。

 出現する魔物は強く、階層ごとに環境も大きく変化する。


 炎に満たされた階層。

 水に沈んだ階層。

 常に強風が吹き荒れる階層。

 地面そのものが侵入者を襲う階層。


 挑戦したS級冒険者は少なくない。

 だが、最上階へ辿り着いた者はいなかった。


「アストラリオンへ入るには、S級冒険者であること。それに加えて、冒険者協会本部か魔導王陛下の許可が必要になる」


「知っている」


「なら、お前が求めているのは協会本部の許可だな」


「ああ」


 ギースはレオンの顔を見据えた。


「許可出来ない」


「どうしてだ?」


「お前が一人だからだ」


「グランヴァンもセルヴァリアも、一人で攻略した」


「分かっている」


「なら、実力に問題はないはずだ」


「アストラリオンは、その二つより遥かに危険だ」


 ギースは机の引き出しから分厚い資料を取り出した。

 これまでアストラリオンへ挑んだ冒険者達の記録だった。


 六人組のS級パーティー。

 五人組のS級パーティー。

 S級冒険者二人を中心に組まれた混成部隊。

 実力のある冒険者達が、何度も塔へ挑んでいる。

 それでも、多くのパーティーが途中で撤退していた。


 中には、戻らなかった者もいる。


「アストラリオンでは、特定の属性がなければ倒すことが難しい魔物が現れる」


 ギースが言う。


「一つの属性と剣だけで、全ての階層へ対応するのは困難だ」


「回復魔法も使える」


「それでも足りない」


「入ってみなければ分からない」


「協会は、それを確かめるためにS級冒険者を死地へ送るわけにはいかない」


 ギースの声は真剣だった。

 レオンを疑っているのではない。

 これまでの実績を認めた上で、危険だと判断している。


「パーティーを組め」


「そのつもりはない」


「なら、信頼出来る冒険者を一時的に同行させろ」


「一人で攻略したい」


「何故、そこまで一人にこだわる?」


 レオンは答えなかった。

 自分が無詠唱で魔法を使えること。

 未来予知の魔眼を持っていること。

 ゲームの知識があること。

 それらを隠したまま戦うには、一人の方が都合がいい。

 何より、アストラリオンの最奥にある《叡智の首飾り》について、他人に説明することは出来ない。


「探している物がある」


「セルヴァリアの時も、同じことを言っていたな」


「ああ」


「そのためなら、命を失っても構わないのか?」


「死ぬつもりはない」


「死ぬつもりでダンジョンへ入る冒険者などいない」


 ギースは椅子へ深く腰掛けた。


「お前の実力は認めている。だからこそS級へ推薦した。だが、協会本部の許可を出せば、お前がアストラリオンで死んだ時、許可を出した側にも責任がある」


「誰かと一緒なら、許可を出すのか?」


「同行者の実力と編成による」


「S級冒険者なら?」


「少なくとも、今よりは審査を通る可能性がある」


 レオンの脳裏に、一人の冒険者が浮かぶ。

 S級パーティー《蒼天の戦乙女》のリーダー、アストリッド。

 火属性と風属性の二つを使う魔法剣士。

 実力については申し分ない。

 だが、レオンから同行を頼むつもりはなかった。


 アストリッド達には、彼女達の受ける依頼がある。

 自分の目的へ巻き込む理由もない。


「ほかに方法は?」


「魔導王陛下から許可を得ろ」


「協会本部を通さずに入れるのか?」


「アストラリオンは魔導王家が管理するダンジョンでもある。陛下の許可状があれば、協会が止めることは出来ない」


 簡単に言うが、一般の冒険者が魔導王へ直接会うことなど出来ない。

 S級冒険者であっても同じだ。


「魔導王へ会う方法は?」


「知らん」


「協会から取り次げないのか?」


「協会の許可を断った直後に、陛下へ話を通すと思うか?」


「思わないな」


「分かっているなら聞くな」


 ギースは再び大きく息を吐く。


「いいか、レン。S級になったからといって、死ななくなるわけではない」


「ああ」


「むしろ、これまで以上に危険な依頼を任される。自分の力だけで全てを解決出来ると思うな」


「思っていない」


「なら、仲間を作れ」


「それは断る」


「お前は本当に頑固だな」


 ギースは頭を押さえた。

 レオンは新しい冒険者証を懐へ収める。

 協会本部から許可が下りないことは分かった。


 残る方法は一つ。

 魔導王から許可を得ること。

 だが、今のレオンに魔導王との接点はない。

 正確には、接点を作れる可能性のある人物なら知っている。


 ミストレアの外れにある研究室。

 そこで魔法具と魔鉱石の研究を続けている少年。


 カイル。


 本人は身分を隠しているが、その正体はレイン魔導国家第二王子カインだった。

 魔導王の息子であるカイルなら、許可を得る方法を知っているかもしれない。

 だが、レオンから頼めば、カイルの正体を知っていると伝えることになる。


「すぐに許可を取ろうとするなよ」


 ギースが念を押す。


「まずは一度、アストラリオンについて詳しく調べろ」


「ああ」


「本当に分かっているのか?」


「資料を読んでから考える」


「諦めるとは言わないんだな」


「諦める理由がない」


 レオンは椅子から立ち上がった。

 S級へ到達した。

 だが、まだアストラリオンへ入ることは出来ない。

 協会本部からの許可は下りなかった。

 残されたのは、魔導王から許可を得る方法。

 レオンは執務室を出ると、ミストレアの外れにある研究室へ向かった。


 カイルへ何と尋ねるべきか考えながら。

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