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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: 蛙の子はお玉杓子
第9章 天才王子とダンジョン攻略

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第357話 A級冒険者

 南部交易都市までの護衛依頼を終えてから、二か月が過ぎた。

 その間、レオンはダンジョンへ入らなかった。

 冒険者協会から依頼を受け、魔導国家の各地を巡っていた。


 商隊の護衛。

 薬草の採取。

 行方不明者の捜索。

 農村周辺に現れた魔獣の駆除。

 依頼の内容は様々だった。


 それまでのレオンは、魔物を倒し、ダンジョンを攻略すれば冒険者として評価されると考えていた。

 だが、実際に依頼を受けてみると、求められるものは強さだけではなかった。

 森へ薬草を採りに入った時には、依頼主から念を押された。


『根を傷つけず、必要な分だけ採ってください』


 周囲を凍らせれば、魔物を近づけずに済む。

 しかし、地面まで凍らせれば薬草を傷めてしまう。

 そのため、レオンは剣で周囲を警戒しながら、一株ずつ手で採取した。


 崖から落ちた薬草採りを捜索した時には、魔物を倒すよりも先に負傷者を見つける必要があった。

 レオンは魔力感知が得意ではない。


 足跡。

 折れた枝。

 岩に付着した血。

 そうした僅かな痕跡を辿り、谷底で動けなくなっていた男を発見した。


 男の足は折れていた。

 レオンはセリオスから教わった回復魔法で傷を塞ぎ、氷で足を固定してから背負って森を出た。


 農村の近くへ魔獣が現れた時は、住民を集め、その周囲へ氷壁を作った。

 巨大な猪型の魔獣が壁へ突進しても、氷には亀裂一つ入らなかった。

 村人達を安全な場所へ避難させた後、レオンは魔獣だけを討伐した。


 依頼を終える度に、冒険者協会の記録へ新たな実績が加えられていく。

 依頼の達成だけではない。

 護衛対象に被害がなかったか。

 依頼主の指示を守ったか。

 周囲へ余計な損害を出していないか。

 緊急時に適切な判断をしたか。

 それら全てが、冒険者としての貢献度と信用へつながっていた。


 いつしか、《氷壁》の名も別の意味で呼ばれるようになっていた。

 最初は、どれほど美しい女性や有名なパーティーに誘われても断るレオンを揶揄した二つ名だった。

 だが今では、依頼を受けた村人達が口を揃えて言う。


 《氷壁》が来てくれれば安心だ。

 必ず氷の壁で守ってくれる。

 魔獣を一匹も通さない。


 その名を耳にする度に、レオンは複雑な気持ちになった。

 始まりは不本意だった。

 それでも、誰かを守る者として呼ばれることは嫌ではなかった。


 魔導国家で冒険者登録をしてから、三か月を過ぎた日のことだった。

 依頼を終えてミストレアの冒険者協会本部へ戻ったレオンは、受付嬢から声を掛けられた。


「レンさん。ギルドマスターがお呼びです」


「ギースが?」


「はい。お話があるそうです」


 レオンは受付嬢に案内され、協会本部の奥にある部屋へ向かった。

 扉を開けると、ギースが執務机の向こうへ座っていた。

 机の上には、レオンがこれまで受けた依頼の記録が積まれている。


「来たか、レン」


「ああ。話とは何だ?」


「まあ、座れ」


 レオンは机の前に置かれた椅子へ腰を下ろした。

 ギースは一枚ずつ記録を確認しながら口を開く。


「護衛依頼は七件。魔獣の駆除が五件。採取が三件。捜索と救助が四件。そのほかにも、街道の安全確認や緊急依頼を受けているな」


「必要だと言われたからな」


「それだけか?」


「A級へ上がるには、協会への貢献が足りないと言われた」


「随分と真面目に受けたものだ」


 ギースは僅かに笑った。


「しかも、全て問題なく達成している。依頼主からの評価も高い」


「それで?」


「お前をA級へ昇格させることが決まった」


 レオンは僅かに目を見開いた。


「昇格試験は?」


「免除だ」


 ギースは即答した。


「お前がB級へ上がる時、試験官は俺が務めた。氷魔法も剣も使わず、顔面へ一撃を入れた上で、背負い投げまで決めたな」


「あれは、隙があったからだ」


「俺の顔面へ一撃を入れた上に、投げ飛ばすB級冒険者が、どれだけいると思っている?」


 ギースは呆れたように言った。


「それに、お前は《魔脈大坑道グランヴァン》を単独で攻略している。最下層の魔物を倒した記録も、提出された素材も確認済みだ」


 最下層にいた《晶鎧女王蟻クリスタル・ジャイアント》その素材は、魔鉱石や討伐記録と共に協会へ提出していた。


「五十人近い盗賊団を相手に村を守り、人質も救出した。護衛、採取、捜索、救助でも十分な実績を積んだ」


 ギースは机の上に置かれた書類を指で叩く。


「戦闘能力を調べる試験を、改めて行う意味がない。協会への貢献度も基準へ届いた。これ以上、昇格を先延ばしにする理由はない」


「そうか」


「もう少し喜べ」


「喜んでいる」


「その顔で言われても分からんな」


 ギースが机の引き出しから新しい冒険者証を取り出す。

 そこには、A級を示す文字が刻まれていた。

 レオンは差し出された冒険者証を受け取る。

 冒険者として活動を始めて、三か月余り。

 ようやくA級へ到達した。


 原作でエリシアは、魔導国家へ来た時点ではC級だった。

 攻略対象達とダンジョンを攻略することで、A級まで昇格していく。

 レオンはダンジョンを一つ攻略しただけでは、同じ場所へ届かなかった。


 だが、理由は今なら分かる。

 エリシアは王都で冒険者登録をした後、金を得るために様々な依頼を受けていた。


 魔獣の討伐。

 怪我人の治療。

 捜索。

 護衛。


 本人は人助けのつもりだったが、それら全てが協会への貢献として記録されていた。

 その積み重ねがあったからこそ、魔導国家でダンジョンを攻略した際、一気に昇格することが出来たのだ。


「これで、A級冒険者でなければ受けられない依頼も受けられる」


 ギースが言う。


「入れるダンジョンも増えるのか?」


「場所による。《魔脈大坑道グランヴァン》のように、階級とは別の条件を設けているダンジョンもあるからな」


「《還命樹海セルヴァリア》は?」


 ギースの眉が僅かに動いた。


「次は、そこへ行くつもりか」


「ああ」


 《還命樹海セルヴァリア》。

 グランヴァンよりも難易度の高い、A級ダンジョン。

 その最奥には、レオンが求める魔法具の一つがある。


「セルヴァリアへ入るには、A級冒険者であること。それとは別に、入口の試練を越える必要がある」


「どんな試練だ?」


「回復魔法だ」


 ギースは椅子へ深く腰掛けた。


「セルヴァリアの入口には、巨大な門と魔石がある。その魔石へ回復属性の魔力を流さなければ、門は開かない」


「回復薬では駄目なのか?」


「駄目だ。魔石が反応するのは、術者が直接流した回復属性の魔力だけだ」


「なら、回復魔法を使える者と一緒に行けばいい」


「普通はそうする」


 ギースはレオンを見据える。


「回復魔法を使える者は少ない。使えたとしても、A級ダンジョンへ入れる実力を持つ者となれば、さらに限られる。だからセルヴァリアへ挑む者は、回復術師を含めたパーティーを組む」


「一人では入れないのか?」


「回復魔法を使えるなら入れる」


 レオンは短く頷いた。


「なら、問題ない」


 ギースが怪訝そうな顔をする。


「まさか、お前……」


 レオンは右手を机の上へ向けた。

 淡い光が掌を包む。

 回復魔法の光だった。


 セリオスから教わった魔法だ。

 まだセリオスほど複雑な治療は出来ない。

 それでも、傷を塞ぎ、入口の魔石を起動させる程度なら問題はない。


 ギースは暫く光を見つめた後、大きく息を吐いた。


「氷魔法と剣だけでも十分だと思っていたが、回復魔法まで使えるのか」


「本格的に使えるようになったのは最近だ」


「お前は一体、何を目指している?」


「探している物があるだけだ」


 レオンは掌の光を消し、A級の冒険者証を懐へ収めた。

 これで、次のダンジョンへ入る条件が整った。

 《還命樹海セルヴァリア》。

 原作では、エリシアと攻略対象達が力を合わせて攻略した場所。


 レオンは椅子から立ち上がる。


「セルヴァリアについて、協会にある資料を見せてくれ」


 ギースが眉を寄せた。


「今日A級になったばかりだぞ」


「だから、今日から準備を始める」


「少しくらい休もうとは思わないのか?」


「準備をしてから考える」


「それは休まない者の言い方だ」


 ギースの言葉を聞き流し、レオンは部屋を出た。

 次の目的地は決まった。

 生命を拒む森でありながら、死に瀕した者を生かす力を秘める場所。

 A級ダンジョン《還命樹海セルヴァリア》だった。

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