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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: 蛙の子はお玉杓子
第9章 天才王子とダンジョン攻略

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第340話 壁の向こうの足音

広い空間の向こうで、幾つもの触角が揺れた。

レオンは数を確かめようとしたが、魔物の身体は岩陰に隠れている。

見えている触角だけで、四対。


「カイル、下りてきた坂へ戻れ」


「レンは?」


「俺もすぐ行く」


カイルは頷き、背負い袋を抱えて坂へ走った。

その足音に反応したように、クリスタルアントが穴から這い出す。


一体、二体。


続けて、身体の大きな一体が姿を現した。ほかの魔物より顎が長く、殻の結晶も厚い。

レオンはカイルを追って坂の入口へ下がった。


広場にはまだ幾つもの穴がある。そこで戦えば、背後からも回り込まれる。

坂なら、正面から来る魔物だけを見ていればいい。


「もう少し上へ行ってくれ」


「分かった」


カイルが坂を上る。

先頭のクリスタルアントがレオンへ飛びかかった。

レオンは剣を振り、触角を斬る。

魔物が頭を振った隙に、脚と胴体の継ぎ目へ刃を入れた。


一体目が倒れる。

その背を越えて、二体目が迫った。


レオンは坂の床を凍らせる。

クリスタルアントの脚が滑り、後ろから来た魔物とぶつかった。

だが、最後尾の大きな一体は止まらない。

仲間の身体を押しのけ、長い顎を開いて突っ込んでくる。


レオンの右目に、剣を振った直後、その顎に肩を挟まれる光景が映った。


剣を下ろす。

代わりに、魔物の足元から氷を立ち上げた。

厚い氷が二本の前脚を包む。

勢いを失ったクリスタルアントの顎が、レオンの手前で閉じた。


レオンは横へ踏み込み、殻の下へ剣を突き入れる。

大きな身体が坂を塞ぐように倒れた。

後ろの二体が、その身体を越えようとする。


レオンは倒れた魔物の向こうへ氷を広げた。

狭い坂に残された足場は一体分。

先に来た魔物を斬り、続く一体も仕留める。

広場から、さらに足音が聞こえた。


「まだいるのか……」


レオンは倒した魔物の数を見た。

ここで待てば、何体でも集まってくるかもしれない。

坂の下り口に氷の壁を作り、足音を遮る。

壁越しに硬いものがぶつかる音がした。


一度。

二度。

ひびが入る前に、レオンは坂を駆け上がった。


「カイル、戻るぞ」


「二層の鉱石は?」


「場所を変えて探す」


二人は一層へ戻った。

坂から少し離れた分岐で足を止める。

氷の壁はいつまでも持たない。レオンは来た道に印を残し、別の通路へ入った。


しばらく進むと、背後の足音は聞こえなくなった。


「二層へ下りたばかりなのに、あんなにいるなんて」


カイルが息を整えながら言った。


「あの坂は巣の近くにつながっていたんだろう」


「別の下り道を探した方がよさそうだね」


「ああ」


一層は広い。

下へ続く道も、あそこだけとは限らない。

二人は壁を調べながら進んだ。


途中、幾つかの穴を見つけたが、どれもクリスタルアントが掘ったものらしい。入口の幅はばらばらで、人が通れるものもあれば、屈まなければ入れないものもあった。


カイルは壁の傷を指でなぞる。


「これだけ道があると、どこから来るか分からないね」


「だから、狭い穴には入らない」


「うん。鉱石を採っている間も気をつけるよ」


さらに歩くと、壁の傷が途切れた。

そこには古い通路が残っていた。天井は高く、足元も平らだ。


レオンは奥を覗く。

記憶にある道だった。

ゲームで一層から二層へ下りたのも、ここだ。


「この先を見てみよう」


「知ってる道なの?」


カイルの問いに、レオンは一瞬だけ言葉を止めた。


「協会で見た記録に、近い道が載っていた」


「そっか」


通路を進むと、やがて下り坂が現れた。

先ほど通った穴とは違い、床は滑らかだった。

二層へ着いても、すぐには足を踏み出さない。

レオンは周囲を確かめた。


そこは小さな広場で、出口は正面と左の二つだけ。壁に新しい傷は見当たらない。


「ここなら調べられそうだ」


カイルの表情が明るくなる。


「鉱石、探してもいい?」


「ああ。通路から離れた場所にしよう」


二人は正面の通路を少しだけ進み、壁に魔鉱石を見つけた。

レオンが周囲を見張る間、カイルは道具を使って石を取り外す。

採れた石は、一層のものより色が濃かった。


「どうだ?」


「含まれる魔力は、たぶん一層より多い。でも、アルカナ迷宮の石と比べるには、まだ早いかな」


カイルは紙へ採取場所を書き込んだ。


「最下層まで、こうして集めたい」


「荷物が増えすぎないようにしろよ」


「必要な分だけ採るよ」


カイルは笑って、魔鉱石を袋へしまった。

レオンはもう一度、周囲の壁を見る。

こちらの道には、クリスタルアントが掘った跡がない。


同じ二層でも、さっきの広場とは様子が違った。

巣は階層全体に広がっているわけではないらしい。


「先へ進もう」


「うん」


レオンが歩き出すと、カイルもその後に続いた。

正面の通路は緩やかに曲がっている。

その先から、何かが羽ばたく音が聞こえた。


レオンは天井を見上げる。

淡く光る結晶の間に、黒い影が幾つもぶら下がっていた。

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