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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: 蛙の子はお玉杓子
第9章 天才王子とダンジョン攻略

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第337話 相方

レオンとミラは、買い物の最後に鞄を扱う店へ入った。

店先には、革製の背負い鞄が大小並んでいる。


レオンはすでにアイテムバッグを持っていた。グラニウスが危篤になった時、取りに行ったものだ。

だが、明日からカイルと行動する間は使うつもりがない。


乙女ゲームでは、主人公エリシアが魔力侵食症にかかり、カインがそのアイテムバッグを取りに行くイベントがあった。

カインはバッグに刻まれた魔法陣の構造を調べ、時空間魔法を理解する。その技術を使って龍脈を動かし、王都へ通した結果、北竜が王都を襲った。


今、アイテムバッグはレオンの手元にある。だが、カイルに見せれば魔法陣へ興味を持つかもしれない。

レオンは棚に並ぶ鞄へ目を向けた。グランヴァンへ持っていく物は、普通の鞄に入れて運べばいい。


「これなんてどう?」


ミラが厚い革で作られた背負い鞄を手に取る。

肩に当たる部分には布が巻かれ、口も大きく開く。食料や水を入れた後でも、必要な物を取り出しやすそうだった。


レオンは受け取って背負ってみた。


「動きやすいな」


「長く潜るなら、肩が痛くならないものの方がいいわ」


「ああ。これにする」


「もう決めたの?」


「ミラが選んでくれたからな」


ミラは鞄から手を離し、別の棚へ視線を移した。


「……気に入ったならいいけど」


会計を済ませ、二人は店を出た。

食料、水、回復薬、灯り、予備の燃料、縄。そして鞄。


レオンは買った物を確かめる。ミラに付き合ってもらったおかげで、必要な物は揃った。


「今日は助かった。ありがとう」


「案内しただけよ」


「それでも助かった。夕食をご馳走させてくれ」


ミラは空を見上げた。

店を回っている間に日が傾き、通りには魔石灯がともり始めている。


「そうね。歩き回ってお腹も空いたし」


二人は大通りから少し外れた食堂へ入った。

夕食時の店内は賑わっていたが、奥の席が空いている。レオンとミラは向かい合って座り、それぞれ料理を注文した。

料理が運ばれてくるまでの間、レオンは今日集めたグランヴァンの情報を思い返した。

ゲームで入ったことのあるダンジョンだ。階層や出現する魔物についても、ある程度は覚えている。

それでも情報を調べたのは、この世界のグランヴァンがゲームと同じか確かめるためだった。


カイルを連れて行く以上、ゲームの記憶だけを頼りには出来ない。


「またダンジョンのこと考えてる?」


ミラが尋ねた。


「ああ」


「料理が来たら、食べてる間くらい休みなさいよ」


「分かった」


そう答えたところで、二人の料理が運ばれてきた。

レオンは考えを切り上げ、温かい食事に手をつけた。




店を出る頃には、すっかり夜になっていた。

二人で大通りを歩いていると、レオンは少し離れた一角に目を留めた。

並んだ建物の軒先で、桃色の魔石が光っている。


この通りには白や黄色の魔石灯が多い。その一角だけが桃色の光に包まれていた。

レオンがそちらを見ていると、ミラが横から顔を覗き込んだ。


「レン、興味あるの?」


「何がだ?」


「……あの通りよ」


ミラは少し頬を赤くした。


「娼館街なの」


「そうなのか」


レオンはもう一度、桃色の灯りを見た。

魔石の色で、ほかの通りと区別出来るようになっているらしい。


「行くのはおすすめ出来ないわ。病気のリスクもあるから」


「分かった」


レオンは素直に頷いた。

それなら、長い依頼に出る冒険者たちはどうしているのだろう。

顔に出ていたのか、ミラがレオンを見て小さく息を吐いた。


「そういえばあんた、ソロで活動してるから知らないのよね」


「何をだ?」


「B級以上になると、相方を作る冒険者が多いの」


「相方?」


「一緒に依頼をこなすだけの仲間じゃないわ」


ミラは周囲の人通りを確かめてから、声を落とした。


「肉体関係のある相手のこと」


レオンはミラを見た。


「そういう意味か」


「B級以上になると、長い依頼や危険な戦いが増えるでしょ。命の危機を感じた後、興奮が収まらなくなる人もいるの。男なら性欲を持て余したり、女なら気持ちが不安定になったり。眠れなくなることもあるわ」


ミラは言葉を続けた。


「だから決まった相方を作る人が多いのよ。冒険者同士の場合もあれば、家や宿で待つ相手を作る人もいる。奴隷を買う人や、戦闘奴隷を連れて行く人もいるわ」


「いろいろあるんだな」


レオンは頷いた。


B級へ昇格したばかりの自分には、知らない慣習だった。


そして、明日はカイルと二人でグランヴァンへ入る。


「じゃあ、カイルを連れてクエストに行く俺は……」


レオンが言いかけると、ミラが頷いた。


「そうね。事情を知らなければ、同性が好きだと思われても不思議じゃないわね」


「カイルとはそういう関係じゃないぞ」


「私は分かってるわよ。魔鉱石を調べるために同行するんでしょ?」


「ああ」


「でも、ほかの人は知らないもの」


レオンはしばらく黙った。

カイルは採取のために付き添うだけだ。魔物と戦うのはレオンが引き受ける。二人の間では、それで話が済んでいた。

外からどう見えるかまでは考えていなかった。


「聞かれたら説明する」


「それでいいと思うわ」


ミラは小さく笑い、再び歩き出した。

桃色の灯りが遠ざかり、大通りの白い魔石灯が足元を照らす。

しばらく進んだところで、レオンはふと思い出して尋ねた。


「ミラもB級になれば、相方を作るのか?」


ミラの足が止まった。


「……あんた、よくそんなことを平然と聞けるわね」


「B級以上では一般的なんだろう?」


「一般的でも、誰を相方にするかは別の話よ」


ミラは顔を背けた。

桃色の魔石から離れた今も、頬が赤い。

レオンはようやく、自分が聞いたことの意味を考えた。


「悪い。答えにくいことを聞いた」


「分かればいいのよ」


ミラは少し早足で歩き出す。

レオンが追いつくと、彼女は前を向いたまま言った。


「明日、グランヴァンへ行くんでしょ。今日はちゃんと休みなさい」


「ああ」


「カイルって人を待たせないようにね」


「分かってる」


宿へ向かう道で、二人は別れた。

レオンは買った鞄を背負い直す。

明日の朝には、カイルと《魔脈大坑道グランヴァン》へ向かう。


グランヴァンがゲームで知る通りの場所なのか。その奥に《魔脈の片眼鏡》はあるのか。

確かめるのは、明日からだ。

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