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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: 蛙の子はお玉杓子
第9章 天才王子とダンジョン攻略

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第336話 出発前の買い物

 グランヴァンへ向かう前日。

 レオンは坑道の情報を集めるため、冒険者協会を訪れた。

 掲示板の前で資料を探していると、背後から声をかけられる。


「レン?」


 振り返ると、ミラが立っていた。


「ミラか」


「昨日、昇格試験を受けたって聞いたけど、どうだったの?」


 レオンは冒険者証を取り出して見せた。

 ミラは記載された階級を見るなり、目を見開く。


「B級? もう上がったの?」


「ああ」


「アルカナ迷宮を攻略したばかりでしょ。早すぎない?」


 ミラはもう一度冒険者証を見た。


「それに、ギルドマスターと互角に戦ったって噂まで広まってるわよ。一撃入れたんですって?」


「一撃は入れた」


「そこは本当なのね」


「互角だったかどうかは分からない。かなり強かった」


「元S級冒険者なんだから、強いに決まってるでしょ」


 ミラは呆れたように言い、レオンが手にしていた資料へ目を向けた。


「何を調べてるの?」


「グランヴァンについてだ」


「……魔脈大坑道?」


「ああ。明日の朝、入る予定だ」


 ミラの表情が変わった。


「あんた、死ぬ気なの?」


「そのつもりはない」


「A級ダンジョンよ。アルカナ迷宮を攻略出来たからって、同じように考えない方がいいわ」


「分かってる。今回は同行者がいる」


 ミラは眉を上げた。


「誰? 名前は?」


「カイルだ」


「カイル……聞いたことのない名前ね。ランクは?」


 レオンは答えようとして、言葉を止めた。

 アルカナ迷宮では、カイルと何度も話した。

 魔鉱石のことも、グランヴァンへ同行する理由も聞いている。

 だが、冒険者としての階級は尋ねていなかった。


「そういえば知らないな」


「一緒にA級ダンジョンへ行く相手のランクを知らないの?」


「聞く機会がなかった」


「どんな話をしてたのよ……」


 ミラは額に手を当てた。


「聞いたことのない名前だけど、A級かしら?」


「さあな」


「そこも分からないのね」


 レオンは言い返さず、手元の資料を開いた。

 坑道の入口付近については、いくつかの道が記されている。

 奥へ続く道も載っていたが、レオンが知りたいのは、そこから先だった。


「深い階層の情報はないのか?」


「持ち帰られた記録なら探せばあると思う。でも、あそこは坑道だから、分かれ道が多いの。道を間違えたら、地図があっても迷うわよ」


 ミラが資料の一か所を指差す。


「それに、奥まで行くつもりなら準備も必要よ。今、何を持ってるの?」


「食料と水、回復薬はある。足りない分は今日買うつもりだ」


「灯りは?」


「これから買う」


「予備は?」


 レオンが黙ると、ミラは小さく息を吐いた。


「案内するわ。必要な物を売ってる店なら知ってるから」


「助かる」


「感謝するのは、ちゃんと買い揃えてからにして」


 二人は協会を出て、街の商店が並ぶ通りへ向かった。

 最初に入ったのは、冒険者向けの道具を扱う店だった。

 棚には灯りや縄、採取に使う道具が並んでいる。

 レオンが灯りを一つ手に取ると、ミラが隣の棚を指した。


「同じ物をもう一つ。どちらかが壊れても困らないように」


「カイルも持ってくると思うが」


「それを聞いてないなら、当てにしちゃ駄目」


 もっともだった。

 レオンは灯りを二つと、予備の燃料を買った。

 続いて縄と、水を入れる革袋を選ぶ。

 店を出た後は、食料を扱う店へ向かった。

 長く保存出来るパンと干し肉を買い、最後に回復薬を補充する。


 荷物が増えるたび、レオンは明日持ち込む量を確かめた。

 カイルは魔鉱石を採るための道具を持ってくるだろう。

 食料や水を十分に用意しているかは分からない。


「二人分、少し多めに買うか」


「そうした方がいいわね。カイルって人の準備を知らないんでしょ?」


「ああ。魔鉱石を採りに行くことしか聞いていない」


「だったら、採取道具ばかり持ってきそう」


 レオンはカイルの顔を思い浮かべた。

 あり得ない話ではなかった。

 必要な物を買い進め、残りは荷物をまとめるための袋だけになった。

 ミラに案内されて次の店へ向かっていると、レオンは道の端で足を止めた。


 数人の若い男女が、商人らしい男に促されて馬車へ乗っている。

 手首には枷がつけられていた。

 ミラもレオンの視線を追い、声を落とす。


「奴隷よ」


 レオンは頷いた。

 他国から奴隷身分のまま王国へ来る者がいることは、知っている。

 王都では、貴族がそうした者に屋敷の掃除や従者の仕事をさせていた。


 領主と奴隷の間に生まれた子が、孤児院へ預けられることもある。

 だが、この国で人々が馬車へ乗せられていくところを見るのは初めてだった。


「あの人達は、どこへ行くんだ?」


「主に王国へ行くかしら。属性がない人なら、教国へ行くこともあるけれど」


 ミラは馬車へ視線を向けたまま続ける。


「この国では、魔力が無い人や属性が無い人は、人として扱われないのよ」


 馬車の中で、一人が俯いた。

 周囲を歩く人々は、それを気に留める様子もない。


「私、あまりそういう考え好きじゃないの」


 ミラの声には、先ほどまでの軽さがなかった。

 レオンはミラを見る。

 彼女は奴隷達が乗る馬車を見つめていたが、その視線はやがて、馬車の向かう城門の先へ移った。


 国の外には、王国も教国もある。

 そこでも奴隷がどう扱われるのか、レオンは知っている。

 それでもミラは、この国とは違う場所を自分の目で見たいのだろう。


 馬車が動き出した。

 車輪の音が通りの先へ遠ざかっていく。

 ミラはしばらくその背中を見送ってから、レオンへ向き直った。


「ごめん。買い物の途中だったわね」


「袋を買えば終わりだ」


「ええ。すぐそこよ」


 ミラは再び歩き出した。

 レオンもその後を追う。


 明日、グランヴァンへ入るための準備は、もう少しで整う。

 レオンは遠ざかる馬車へ一度だけ目を向けてから、ミラと並んで店へ向かった。

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