第335話 次なる目的地へ
昇格試験を終えたレオンとカイルは、受付へ戻った。
受付嬢は試験結果が記された書類を確認し、レオンの冒険者証を受け取る。
「B級への昇格手続きを行いますので、少々お待ちください」
「ああ」
受付嬢が奥へ入っていく。
レオンとカイルは、受付前に置かれた椅子へ腰を下ろした。
「まさか、ギルドマスターが試験官になるとは思わなかったよ」
カイルが言う。
「有名な人なのか?」
「元S級冒険者だよ。火属性の格闘家として知られてる」
「元S級だったのか」
「知らずに戦ってたの?」
「ああ。名前も今日初めて聞いた」
カイルはレオンの顔を見つめた。
「それで木剣を置いて、素手で戦ったんだ」
「向こうが素手だったからな」
「ギルドマスターの拳には炎がついてたけどね」
「試験で魔法を使っていいと言われていた」
「そういう話じゃないんだけどな」
カイルが小さく笑う。
レオンは昇格試験を振り返った。
ギースの拳は速かった。
未来を見ていなければ、最初の一撃を避けることも難しかっただろう。
さらに、途中からは避ける先を狙って攻撃してきた。
試験官のギースが戦いを止めなければ、その後はどうなっていたか分からない。
「強い人だったな」
「うん。レンが一撃を入れた時、見ていた職員達も驚いてたよ」
「カイルは?」
「僕も驚いた。だけど、最後に投げた技の方が気になってる」
「あれか」
「大きな相手を、よく投げられたね」
「向こうが勢いよく踏み込んできたからな」
「今度、僕にも教えてよ」
「まずは受け身からだ」
「投げる方を教えてほしいんだけど」
「受け身が出来なければ、練習にならない」
カイルは少し考えた後、頷いた。
「分かった。受け身から教わるよ」
その時、受付嬢が戻ってきた。
「お待たせいたしました」
差し出された冒険者証を、レオンは受け取る。
記載されている階級がB級へ変わっていた。
「これでレンさんは、正式にB級冒険者です」
「ありがとう」
「それと前回、お問い合わせのあった《魔脈大坑道グランヴァン》についてですが」
受付嬢が別の書類を取り出した。
カイルが身を乗り出す。
「グランヴァンに入るの?」
「ああ。そのつもりだ」
「レンさんは、入場条件を満たしています」
受付嬢はレオンの冒険者証と、手元の記録を見比べた。
「《魔脈大坑道グランヴァン》はA級ダンジョンですが、入場条件は冒険者の階級ではありません。B級ダンジョンをクリアした冒険者であることです」
レオンは《アルカナ迷宮》を攻略している。
その記録も協会へ残っていた。
「アルカナ迷宮をクリアした記録があるから、俺は入れるのか」
「はい。グランヴァンの入場条件を満たしています」
「そのためにアルカナを一人で攻略したんだ」
カイルは受付嬢の書類へ目を向けた後、レオンを見た。
「それなら、僕も一緒に行きたい」
「魔鉱石を調べるためか?」
「うん。アルカナ迷宮で採った物と比べてみたいんだ」
レオンは少し考えた。
「俺は一人で攻略したいんだが」
「僕は付き添いだけ。攻略するのがレンなら問題ないでしょ?」
カイルは受付嬢へ尋ねた。
受付嬢は二人を見比べてから答える。
「カイルさんについては、ギルドマスターから、既に同行の許可が出ています。カイルさんが攻略に加わらず、レンさんがご自身で魔物を倒して進まれるのであれば、レンさんの攻略として記録します」
「ほら、問題ないよ」
カイルがレオンへ笑いかける。
「最下層へ着いたら、魔鉱石を採らせてくれればいいから」
「分かった。ただし、俺より先に進むなよ」
「進まないよ。僕は付き添いなんだから」
受付嬢はカイルへ視線を向けた。
「そのお約束は、必ず守ってくださいね」
「分かってるって」
「カイルさんは、採取に夢中になると周りが見えなくなりますから」
「……今回は気をつけるよ」
カイルの返事を聞いても、受付嬢はまだ心配そうだった。
レオンは二人のやり取りを見てから、受付嬢へ言った。
「危ない時は、俺も止める」
「お願いいたします」
レオンはこのまま一人でも行きそうな予感がしたので、同行を容認する事にした。
受付嬢は書類に二人の名前を書き加えた。
「グランヴァンはA級ダンジョンです。入場条件を満たしていても、危険がなくなるわけではありません」
「ああ」
「僕も分かってるよ」
必要な手続きを終え、レオンとカイルは冒険者協会を出た。
通りには多くの人が行き交っている。
レオンは隣を歩くカイルへ尋ねた。
「グランヴァンでも、最下層の魔鉱石を採るつもりか?」
「うん。出来れば、途中の階層でも採りたい」
カイルはアルカナ迷宮でも、階層ごとに魔鉱石を集めていた。
採取した場所によって、含まれる魔力に違いがある。
その違いが、大地の下を流れるまほ魔脈と関係しているのではないかと考えていた。
「アルカナ迷宮とグランヴァンの魔鉱石を比べたいんだ」
「ダンジョンの難易度と、魔脈の太さの関係を調べるためか」
「そう。特に最下層で採れた物なら、違いが分かるかもしれない」
「変わらなかったら?」
「それも結果だよ。僕の考えが違うなら、別の理由を探せばいい」
カイルは迷わず答えた。
レオンは頷く。
カイルが求めているのは、最下層の魔鉱石だ。
一方、レオンにもグランヴァンで探したい物があった。
《魔脈の片眼鏡》
魔力の流れを目で確認出来る魔法具だ。
人の体内を流れる魔力や、魔法具へ通された魔力。
それらを確かめられれば、今後の調査にも役立つ。
「レンも、グランヴァンに欲しい物があるの?」
カイルが尋ねた。
「ある」
「何?」
「魔法具だ」
「どんな魔法具?」
「見つけてから話す」
「ええ……そこまで言ったなら教えてよ」
「本当にあるかどうかも、まだ分からない」
カイルは不満そうな顔をしたが、すぐに笑った。
「だったら、僕の魔鉱石と一緒に探そう」
「ああ。ただし、魔物には手を出すなよ」
「分かってる。レンが攻略するんでしょ?」
二人は歩きながら、持っていく物を確認した。
食料。
水。
回復薬。
採取した魔鉱石を入れる袋。
長く潜ることになっても困らないよう、準備を整える必要がある。
「出発はいつにする?」
カイルが尋ねた。
「明日、必要な物を揃える。明後日の朝に出よう」
「分かった。僕も準備しておくよ」
「先に入るなよ」
「待ってるよ。今回は付き添いだからね」
二人はそれぞれ準備を進めるため、通りで別れた。
レオンはB級になった冒険者証を取り出し、そこに記された名前を見る。
レン。
この名前で、グランヴァンを攻略する。
目指すのは、A級ダンジョン《魔脈大坑道グランヴァン》。
その奥にあるはずの《魔脈の片眼鏡》だった。




