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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第3章 宿場町と怪しい商人
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第30話 パン屋の前


翌朝レオンは平民用の服で鏡の前に立っていた

本来は中古の服を着るのだが新品をゼムから渡されていた

辺境伯となった今では逆に安物すぎても駄目らしい


「どうだ?」


レオンが振り返るゼムの方に向いた

ゼムは少し考えた後


「少し裕福な商人の息子ですな」


と答えた


「平民じゃないのか」


「おぼっちゃまは顔が良すぎますので」


「褒めてるのか?」


「事実です」


真顔だった

嫌味かどうか分からないレオンは返答を諦めた

どうせこれ以上言っても無駄だ


「じゃあ行ってくる」


「お気を付けて」


「王都の真ん中だぞ」


「それでもです」


相変わらず心配性だった

王都の街は朝から賑わっていた

露店

商店

旅人

冒険者

様々な人が行き交う

レオンはゆっくりと歩きながら周囲を見る

怪しい商人を探すためだ

とはいえ手掛かりは少ない

若い男

各地を転々

貴族との取引を避ける

たったそれだけ、見つかる保証などない


「まあ気長に探すか」


レオンは肩の力を抜いた

ゲームでも怪しい商人は突然現れる

そう簡単に探して見つかる相手ではない

むしろ偶然会う方が可能性は高い

そんな事を考えながら歩いていると

ふと見覚えのある店が目に入った

それはパン屋だった

乙女ゲームでアレクルートの最後に主人公が働いていた店だ

レオンは自然と足を止めるた


「いた」


店内で働いている少女

明るい茶色の髪

元気そうな笑顔

間違いない乙女ゲームの主人公だった

まだ平民で何も知らない

ただパン屋で働く普通の少女

レオンは少し離れた場所から様子を見る

主人公は忙しそうに働いていた

客と話し、パンを並べ、笑顔を振りまいている

ゲームの主人公そのままだった


「変に関わる必要はないか」


今はまだ平民だ

学園へも入学していない

無理に接触する理由は無い

そう考えた時だった

ふと視界の端に別の人物が映る

金色の髪整った顔立ち

高級品と分かるドレス

そして綺麗な縦巻きロール

どう見ても平民ではない

だがその少女は店へ入らず外をうろうろしていた

一歩進んでは止まるそして店を見る

また戻り止まる

そんな事を繰り返していた


「何やってるんだ?」


レオンは思わず呟いた

見覚えがある

いや見間違えるはずがない


ローゼンベルク公爵令嬢

クラリス・ローゼンベルクだった


「なんでいるんだ?」


どう見ても変装していない貴族そのままの格好だ


「目立つだろ……」


レオンは思わず額を押さえた

下町のパン屋

公爵令嬢

組み合わせがおかしい

しばらく観察するがらやはり入らない

入れないらしい

その様子を見ているうちにレオンは察した


「ああ……」


入りたいのか

でも公爵令嬢が下町のパン屋へ入るのを見られたら面倒だ

だから迷っているそんな所だろう

今の時点でクラリスと会うのは避けておきたい

だがその姿を見ていると放っておけなかった

前世の妹を思い出したからだ

困っているのに意地を張り助けを求めるのが苦手な子

クラリスはどこか妹に似ていた


「しょうがないな」


困っている姿を見ると見過ごせない

前世からの悪い癖だった

レオンは小さくため息を吐きクラリスへ歩み寄った


「何か困ってるのか?」


突然声を掛けられたクラリスは大きく肩を震わせた


「ひゃっ!?」


慌てて後ろへ下がるそして足をもつれさせた


「あっ」


倒れると思った瞬間レオンは反射的に手を伸ばしていた

咄嗟にクラリスの身体を支えた


「大丈夫か?」


クラリスは呆然とレオンを見上げた

透き通るような青い瞳

そして平民服を着ているはずなのに妙に整った所作

クラリスは一瞬だけ見惚れてしまっていた


「だ、大丈夫ですわ……」


クラリスはようやくそう答えレオンは苦笑した


「それなら良かった」


そしてレオンはパン屋を見て指を指した


「入りたいんじゃないのか?」


クラリスの肩がぴくりと動く

図星だった様だ


「そ、それは……」


「違うのか?」


「いえ……」


観念したように俯く


「入りたいですわ」


小さな声だった

レオンは苦笑する

やっぱりそうだった


「じゃあ何で入らないんだ?」


するとクラリスは恥ずかしそうに店を見た


「もし知り合いに見つかったりでもしたら……」


「怒られるかもしれませんし……」


なるほどとレオンは納得した

公爵令嬢が下町のパン屋

確かに面倒な話になりそうだ


「それに」


クラリスはさらに小さな声になる


「少し恥ずかしくて……」


レオンは思わず笑った

クラリスが慌てる


「わ、笑わないでください!」


「悪い悪い」


レオンは笑いを堪えクラリスの方に向き直した


「じゃあ」


レオンはパン屋へ視線を向けた


「俺が買ってくるよ」


クラリスが目を丸くする


「え?」


「それなら問題ないだろ」


「ですが……」


「何のパンが欲しいんだ?」


クラリスは少し迷った後


「一番人気の物を……」


そう答えレオンは笑った


「分かった」


そしてパン屋の扉を開けた

この小さな親切が後にクラリスの運命を大きく変える事になったのはまだ誰も知らなかった

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