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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第9章 天才王子とダンジョン攻略

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第325話 魔力を奪う床

 最初の魔導人形を倒したレオンは、暗い通路の奥へ進んだ。

 壁へ埋め込まれた魔石が、一定の間隔で淡い光を放っている。

 足元には正方形の石板が隙間なく敷き詰められ、その表面には長い年月によって出来た細かな傷が残っていた。


 迷宮の内部に人の気配はない。

 聞こえるのは、レオン自身の足音だけだった。

 アルカナ迷宮は、魔導人形や魔石獣が徘徊するB級ダンジョンだ。


 だが、危険なのは魔物だけではない。

 内部には侵入者を排除するための魔法具や、さまざまな罠が設置されている。

 ゲームでは、罠を解除出来る攻略対象を連れて攻略することが推奨されていた。


 しかし、レオンは一人で迷宮へ入っている。

 罠を解除する技術も持っていない。

 その代わりに、未来を見ることが出来た。


 レオンが次の石板へ足を踏み出そうとした瞬間、右目に数秒先の光景が映る。


 足が石板へ触れる。

 その途端、床へ刻まれていた魔法陣が光り、身体から大量の魔力が吸い出される。

 同時に、通路の奥から赤い光が放たれた。


 レオンは足を止めた。

 次の瞬間、未来の光景が消える。


「罠か」


 右目の奥に、僅かな熱が残っていた。

 以前なら未来を見るたび、眼球の奥へ針を突き刺されたような痛みが走っていた。

 長く使えば視界が滲み、頭痛まで起きていた。

 だが、未来予知の魔眼を手に入れてから四年近く使い続けたことで、身体も少しずつ魔眼へ慣れてきている。


 今では短い未来を一度見た程度なら、痛みと呼べるほどのものはほとんど感じない。

 僅かな熱と違和感が残るだけだった。

 完全に副作用が消えたわけではない。

 長時間使い続ければ、今でも右目の奥には鈍い痛みが生じる。

 それでも、魔眼を手に入れた頃と比べれば、かなり使いやすくなっていた。


 レオンは目の前の石板を確認する。

 表面に魔法陣は見えない。

 しゃがみ込み、指先で石板へ触れても何も起こらなかった。

 足を乗せた時だけ動くようになっているらしい。


 レオンは腰の小袋から銅貨を一枚取り出し、石板へ落とした。

 乾いた音が響く。

 それでも罠は動かなかった。


 重さに反応しているわけではない。

 人間の魔力を感知して作動する罠なのだろう。

 レオンは周囲の石板へ目を向ける。


 通路には、同じ大きさの石板が数十枚並んでいる。

 どれが罠なのか、見ただけでは判別出来ない。

 レオンは右目へ意識を集中させ、一歩ずつ進み始めた。


 右。


 左。


 一枚飛ばして、正面。

 未来で罠が作動すれば足を止め、別の石板を選ぶ。

 罠のない場所だけを選びながら進んでいく。


 何度も未来予知を繰り返しているが、右目には僅かな違和感が生じているだけだった。

 この程度なら、まだ問題はない。


 だが、通路の半ばまで来た時だった。

 レオンの右目へ、新たな未来が映った。

 壁の一部が開き、その奥から筒状の魔法具が現れる。

 筒の先端に赤い魔法陣が浮かび、炎の塊が放たれた。


 レオンはその場から後ろへ跳ぶ。

 直後、壁の一部が音を立てて開いた。

 奥から現れたのは、赤い魔石を組み込んだ金属製の筒だった。


 筒の周囲へ刻まれた魔法陣が赤く輝き始める。

 未来で見たものと同じだ。

 レオンは咄嗟に左手を動かしかけた。

 指輪へ魔力を流し、氷の壁を作れば防ぐことは出来る。


 しかし、その手を止めた。

 足元には魔力を吸収する床がある。

 ここで大量の魔力を使えば、どの罠が動き出すか分からない。


 レオンは右目で未来を確認する。

 金属製の筒から炎が放たれる。

 炎は通路を真っ直ぐ進み、レオンが立っている場所を焼き払う。


 放たれるまで、あと僅か。

 レオンは罠のない石板を蹴り、横へ跳んだ。


 次の瞬間、炎の塊が通路を走り抜ける。

 熱風がレオンの頬を撫で、背後の壁へ炎が衝突した。

 石壁に刻まれた魔法陣が光り、炎を吸収する。

 床へ着地したレオンは、すぐに身体を前へ倒した。


 二発目の炎が頭上を通過する。

 続いて三発目。

 レオンは石板の上を飛び移りながら、金属製の筒へ近づいていく。

 身体強化は使っていない。

 魔力を流せば、足元の罠が作動する可能性がある。

 自分の身体能力だけで炎を避け、罠のない石板を選ばなければならない。


 右目に映る未来を頼りに、レオンは通路を駆け抜けた。

 四発目が放たれる直前、金属製の筒の懐へ入る。

 レオンは剣を振り上げた。

 魔法陣へ魔力は流していない。

 それでも、ガレオンが鍛えた剣の切れ味は並の武器とは比べ物にならなかった。


 銀色の刃が、金属製の筒を斜めに斬り裂く。

 赤い魔石へ亀裂が入り、周囲の魔法陣から光が消えた。

 レオンは壊れた魔法具を見下ろした。


「魔法を使えば簡単に壊せるが……」


 アルカナ迷宮には、魔力を感知して作動する罠がある。

 それだけではない。

 先ほどの床は、触れた人間から魔力を奪うように作られていた。

 魔法具に頼って戦う者ほど、この迷宮では不利になる。

 魔法具が発達したレイン魔道国家だからこそ、このような仕組みになっているのかもしれない。


 レオンは再び通路の奥へ進んだ。

 やがて、前方に大きな扉が見えてくる。

 扉の表面には、四つの円を組み合わせた魔法陣が刻まれていた。

 レオンが近づくと、魔法陣へ青い光が流れる。

 重い音を響かせながら扉が左右へ開いた。

 その先には、円形の広間があった。


 中央には大きな青い魔石が浮かび、その周囲を四体の魔導人形が囲んでいる。

 さらに天井付近には、八つの小さな魔法具が浮かんでいた。

 レオンが広間へ足を踏み入れた瞬間、四体の魔導人形が一斉に顔を上げる。


 浮遊する魔法具にも赤い光が灯った。

 レオンは剣を構えた。

 だが、すぐに床の異変へ気づく。

 広間の石床には、巨大な魔法陣が刻まれていた。

 魔導人形へ魔力を流すための魔法陣に見える。


 レオンが一歩進む。

 足元の魔法陣が僅かに光った。

 同時に、身体から魔力が抜けていく。

 奪われた魔力は床を流れ、広間の中央に浮かぶ青い魔石へ吸収された。


 青い魔石の光が強くなる。

 四体の魔導人形の身体へ、新たな魔力が流れ始めた。


「俺から奪った魔力で動くのか」


 魔力量の多い冒険者ほど、魔導人形を強くしてしまう。

 レオンにとって、最も相性の悪い罠だった。


 一体目の魔導人形が地面を蹴る。

 先ほど倒した個体より、明らかに速い。


 レオンは振り下ろされた剣を横へ避けた。

 直後、浮遊する魔法具から炎の弾が放たれる。

 右目に映った未来に従い、身体を沈める。


 頭上を炎が通過した。

 しかし、その先には二体目の魔導人形が待ち構えている。

 横薙ぎに振るわれた剣を、自分の剣で受け止めた。

 金属音が広間へ響く。

 想像していたよりも重い。


 床の魔法陣がレオンから魔力を奪い、その魔力で魔導人形を強化し続けている。

 このまま戦えば、時間が経つほど不利になる。

 レオンは魔導人形の剣を受け流し、その胴体を斬りつけた。

 刃は装甲へ食い込んだが、先ほどのように両断することは出来ない。

 魔導人形が反撃の剣を振るう。

 レオンは後ろへ跳んで避けた。

 着地した場所からも魔力が吸い取られる。


 中央の魔石が、さらに強く輝いた。

 それを見たレオンは一つのことに気づく。

 奪われた魔力は、一度中央の魔石へ集められている。

 ならば、あれを壊せばいい。


 だが、青い魔石の周囲には四体の魔導人形がいる。

 天井付近には八つの魔法具。

 正面から近づけば、一斉攻撃を受けることになる。


 レオンは右目へ意識を集中させた。

 いくつもの未来が映る。

 右から進めば、魔導人形の剣を受ける。

 左から進めば、炎の弾が足元へ着弾する。

 上から魔法を撃てば、浮遊する魔法具に防がれる。

 未来が次々と変わっていく。


 右目の奥に鈍い痛みが生じ始めた。

 先ほどまで感じていた僅かな違和感とは違う。

 短い時間に何度も未来を見たことで、魔眼へ負担が掛かり始めている。

 それでも、以前のように視界が滲むほどではなかった。


 まだ使える。


 レオンは痛みを無視し、変化し続ける未来を追った。

 その中に一つだけ、中央の魔石へ辿り着ける未来があった。

 レオンは剣を握り直す。


「少し面倒だな」


 四体の魔導人形が同時に動き出す。

 頭上では八つの魔法具へ赤い光が集まっていく。

 レオンは右目に映る未来を見ながら、魔導人形の群れへ向かって走り出した。

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