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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第9章 天才王子とダンジョン攻略

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第323話 A級ダンジョンへの条件

 翌朝。

 レオンは宿の一室で、昨日受け取った剣を鞘から抜いた。

 銀色の刀身へ朝日が差し込み、淡い光を反射する。

 見た目に大きな変化はない。

 だが、刀身の根元にはアルマが刻んだ無属性の魔法陣がある。

 魔力を流せば、その量に応じて切れ味が増す。


 アルマの話では、ミスリルとオリハルコンを直接融合させたこの剣なら、レオンの魔力にも耐えられるらしい。

 もっとも、宿の中で試すわけにはいかなかった。

 僅かに魔力を流しただけで、壁や床まで斬ってしまう可能性がある。

 本格的に試すなら、ダンジョンの中がいい。


 レオンは剣を鞘へ戻し、腰へ提げた。

 左手には、アルマから購入した氷属性の指輪がある。

 剣と指輪。

 これで、冒険者レンとして戦うための準備は整った。


 宿を出たレオンは、ミストレア冒険者協会へ向かった。

 朝の大通りには、既に多くの人が行き交っている。

 魔法具店が店先の照明を消し、代わりに色鮮やかな看板を浮かび上がらせていた。

 荷物を載せた台車が魔法陣の力で軽々と道を進み、その横を杖や剣を持った冒険者達が歩いている。


 冒険者協会へ入ると、内部は朝から騒がしかった。

 掲示板の前には依頼を探す冒険者が集まり、受付には素材を持ち込む者や、ダンジョンへ入るための手続きをする者が列を作っている。

 レオンも列の最後へ並んだ。


 しばらく待ち、順番が来る。

 受付係はレオンの顔を見ると、僅かに表情を引きつらせた。


「おはようございます、レンさん」


「ああ」


「今日は何の御用でしょうか?」


 受付係の視線が、レオンの腰にある剣へ向けられる。

 以前とは違い、刀身には魔法陣が刻まれている。

 もっとも、今は鞘へ収められているため、受付係からは確認出来ない。


「剣なら完成した」


「そうですか。それは良かったです」


 受付係は安堵したように息を吐いた。

 登録時には魔力量を測る玉を壊し、その翌日には試験用の魔剣まで壊したと武器屋から聞いている。

 次は何を壊すのかと警戒されているのかもしれない。


 レオンは革袋から冒険者登録証を取り出し、受付台へ置いた。

 登録証には、現在の等級であるCの文字が刻まれている。


「魔脈大坑道グランヴェインへ入りたい」


 受付係の動きが止まった。


「……魔脈大坑道グランヴェイン、ですか?」


「ああ」


「A級ダンジョンの?」


「ほかにも同じ名前の場所があるのか?」


「ありませんけど……」


 受付係は困惑した表情で登録証を見る。


「レンさんは、つい先日C級になったばかりですよね?」


「ああ」


「それまでは一か月ほどでF級からC級まで上がっています」


「そうだな」


「どうして、その流れでA級ダンジョンへ行こうと思うんですか?」


 レオンは少し考えた。

 本当の目的は、グランヴェインの最深部に隠されている魔法具だった。


 《魔脈の片眼鏡》


 周囲を流れる魔力や、人間の体内を巡る魔力を視認出来る特殊な魔法具。

 いずれセリオスの魔力を調べるために必要になる。

 だが、そんなことを受付係へ話すつもりはない。


「欲しい素材がある」


「A級ダンジョンでなければ手に入らない物ですか?」


「ああ」


 嘘ではない。

 目的の魔法具は、グランヴェインでしか手に入らない。

 受付係はしばらくレオンを見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。


「分かりました。まず、グランヴェインについて説明します」


 受付係は棚から一冊の資料を取り出した。

 受付台の上で開かれた頁には、巨大な坑道の入口が描かれている。


「魔脈大坑道グランヴェインは、ミストレアの南東にあるA級ダンジョンです。内部には非常に濃い魔力が流れており、普通の坑道では見られない希少な魔鉱石が採掘出来ます」


「知っている」


「ですが、魔力が濃すぎるため、内部で生まれる魔物も強力です。奥へ進むほど周囲の魔力が身体へ影響を与え、魔法具にも不具合が起きやすくなります」


 受付係は頁をめくる。

 そこには、グランヴェインへ入るための条件が書かれていた。


「そのため、グランヴェインには誰でも入れるわけではありません。冒険者協会が定めた条件を満たした者だけが、入口を通過出来ます」


「等級がA級なら入れるのか?」


「いいえ。冒険者の等級とは別です」


 受付係は、条件が書かれた部分を指差した。


「グランヴェインへ入るには、少なくとも一つのB級ダンジョンを完全攻略した記録が必要です」


 予想していたとおりだった。

 原作でも、グランヴェインへ挑戦する前にB級ダンジョンを一つ攻略しなければならなかった。


 ゲームでは、次のダンジョンを解放するための条件にすぎない。

 だが現実では、危険な場所へ実力の足りない冒険者を入れないための決まりとなっているらしい。


「B級ダンジョンを攻略すればいいんだな?」


「簡単に言いますけど、B級ですよ?」


「C級でも挑戦出来るはずだ」


「規則上は可能です。C級冒険者はB級依頼を受けられますから」


 受付係は、レオンの登録証へ視線を落とした。


「ただし、B級の魔物を一体討伐することと、B級ダンジョンを完全攻略することは違います」


「最深部まで行き、ボスを倒す必要がある」


「そのとおりです。途中で魔物を倒しただけでは、完全攻略として認められません」


「攻略した記録は、どうやって残す?」


「最深部を攻略した証明として、ボスの魔石、使用していた武器、もしくは身体の一部などの素材をお持ち帰りください。魔石は破損していても、ボスの物だと確認できれば問題ありません。冒険者協会で証明品を確認した後、登録証の攻略記録を更新します」


「なら問題ない」


「問題しかありませんよ」


 受付係は思わず声を大きくした。

 周囲にいた冒険者達が、何事かとこちらを見る。

 受付係は咳払いをしてから、声を小さくした。


「B級ダンジョンは、複数人での攻略を前提にしています。前衛、後衛、治療役、罠を見つける斥候。役割を分けなければ、最深部へ到達することすら難しいんです」


「一人での攻略は禁止されているのか?」


「禁止はされていませんが……普通はしません」


「なら、一人で行く」


 受付係は額を押さえた。


「そう言うと思いました」


「仲間を集めている時間が惜しい」


 それだけではない。

 レオンには原作の知識がある。

 ダンジョンの仕掛けや、最深部までの大まかな道筋も覚えている。

 知らない冒険者と行動すれば、原作の知識を使うたびに説明が必要になる。

 何より、目的の魔法具が隠されている場所を他人に知られるわけにはいかない。


 今後のことを考えても、一人でダンジョンを攻略出来る実績を作っておいた方がいい。


 受付係は諦めたように資料を閉じた。


「分かりました。今のレンさんが挑戦出来るB級ダンジョンを確認します」


 受付係は別の資料を取り出し、頁をめくっていく。


「現在、ミストレア周辺で入場が許可されているB級ダンジョンは三つあります。ただ、二つは内部の魔力が不安定になっているため、単独での入場が制限されています」


「残りは?」


 受付係は一枚の地図を受付台へ広げた。

 ミストレアの北東。

 首都から竜車で半日ほど離れた場所に、赤い印がつけられている。


「アルカナ迷宮です」


 その名前を聞き、レオンは地図へ目を落とした。

 アルカナ迷宮。

 原作にも登場したB級ダンジョンだった。


 古代の魔法使いが作った研究施設が、長い年月を経てダンジョンへ変化した場所。

 内部には無数の魔法陣が刻まれ、一定の条件を満たすたびに通路の形が変化する。

 出現する魔物の多くは、魔石を動力にして動く魔導人形や魔石獣。


 単純な強さだけでは攻略出来ず、迷宮に仕掛けられた魔法陣を正しく動かさなければ最深部へ辿り着けない。


「アルカナ迷宮なら、一人でも入れるのか?」


「入場制限はありません。ですが、危険度が低いわけではありませんよ」


「ああ」


「本当に挑戦するんですか?」


「そのために来た」


 受付係はレオンの顔を見つめる。

 考え直す様子がないと悟ったのか、やがて小さく息を吐いた。


「完全攻略したとしても、それだけでB級へ昇格するわけではありませんからね」


「分かっている」


「B級への昇格には、これまでの依頼達成数や協会からの評価に加えて、正式な昇格試験を受ける必要があります」


「今はB級になることが目的じゃない」


 レオンが必要としているのは、グランヴェインへ入るための資格だけだった。

 冒険者等級を上げることも必要ではあるが、今すぐB級にならなければならない理由はない。


「アルカナ迷宮の攻略記録があれば、グランヴェインへ入れるんだな?」


「はい。完全攻略の記録が確認出来れば、C級のままでも入場申請は出来ます」


「なら、それでいい」


 受付係は最後まで納得していない様子だった。

 それでも、規則上はレオンの挑戦を止める理由がない。

 受付係は一枚の用紙へ必要事項を書き、協会の印を押した。


「これがアルカナ迷宮への挑戦許可証です。入口の管理所で登録証と一緒に提示してください」


 レオンは許可証を受け取る。


「期限は?」


「発行から十日間です。ただし、ダンジョンへ入る前に必ず食料と水、帰還用の魔法具を用意してください。迷宮内で通路が変われば、予定より攻略に時間がかかる可能性があります」


「分かった」


「それと、少しでも危険だと思ったら引き返してください」


「そうする」


「レンさんの言う『危険』が、どの程度なのか不安ですが」


 受付係の言葉に、レオンは答えなかった。

 許可証と登録証を革袋へしまい、受付を離れる。

 目的の魔脈大坑道グランヴェインへ入るためには、アルカナ迷宮を完全攻略しなければならない。


 遠回りではある。

 だが、アルカナ迷宮にも得られる物はあった。

 原作では、B級以上のダンジョンには共通する仕掛けが存在した。

 最深部のボスを倒した後。

 帰還用の魔法陣が現れるボス部屋のどこかに、隠し部屋へ続く入口がある。


 その存在は、冒険者協会が販売している地図にも記されていない。

 そして当然、アルカナ迷宮のボス部屋にも隠し部屋が存在する。

 三つの目的の魔法具が置かれているわけではない。

 それでも、回収しておいて損のない物が残されていた。


 レオンは冒険者協会を出ると、地図に描かれたアルカナ迷宮の位置を確認した。


「まずは、アルカナ迷宮か」


 翌朝にはミストレアを出る。

 レオンは必要な物を揃えるため、大通りの魔法具店へ向かった。

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