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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第9章 天才王子とダンジョン攻略

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第313話 三段階の避難人数

クロエが開いた帳簿には、ノルディア領内にある町や村の人口が記されていた。年齢、家族構成、職業だけではなく、保有している馬車や走竜、竜車の数まで細かく分けられている。

レオンは地図の上へ、三本の線を引いた。


最も山脈に近い地域を第一避難区域。その外側を第二避難区域。領都を除く北部一帯を第三避難区域とする。


「まずは小規模からだ。魔獣が一方向から流れ込み、五百人で対処出来る場合、どこまで避難させる?」


クロエは帳簿と地図を見比べる。


「最初に逃がすなら、この四つの村だね。全部、山脈の麓に近い。合わせて二千四百人くらい」


「二千四百人か」


「でも、これはノルディアに住民として登録されている人だけだよ。行商人や冒険者、季節ごとに働きに来る人達までは入ってない」


クロエは紙へ数字を書き足した。


「一割くらい余裕を持たせて、最大二千七百人で考えた方がいいと思う」


レオンは小規模と書かれた横に、二千七百人と記した。


「全員を同時に逃がせるか?」


「無理だね。村にある馬車を全部集めても足りないし、全員を一度に動かしたら街道が塞がるよ。兵士も通れなくなる」


「では、避難させる順番を決める必要がありますな」


ゼムの言葉に、クロエが頷いた。


「最初は子供、老人、病人、怪我人。それから、その人達の世話をする家族。合わせて七百人から八百人くらいになると思う」


「その者達を優先して馬車へ乗せるのですか?」


ガレスに尋ねられ、クロエが別の帳簿を開いた。


「馬車だけじゃないよ。ノルディアには竜車も十二台あるからね」


「十二台全てを避難に使えるのか?」


レオンが尋ねると、クロエは首を横へ振った。


「無理。あれは普段、商品を運ぶ商業用の竜車だから、ノルディア領内にあるとは限らないよ。教国やフェルナード領まで商品を運んでいる時もあるし、遠くに出ていたら呼び戻すだけで何日もかかる」


「討伐が始まる時期に合わせて戻せないのか?」


「全部を戻したら商売が止まるよ。それに、一度出た竜車が予定どおり帰ってくるとも限らない。現実的にすぐ使えるのは六台、多くても八台だと思う」


十二台保有していても、実際に領内で使えるとは限らない。商業用として動かしている以上、全てが都合よく戻ってくることを前提には出来なかった。


「一台に何人乗せられる?」


「普通なら二十人。かなり詰め込めば二十五人かな。それ以上は危ないよ」


「八台あっても、一度に運べるのは最大二百人か」


「うん。だから全員を竜車で逃がすのは無理だね」


クロエは第一避難区域にある四つの村の中から、最も山脈に近い村を指した。


「でも、竜車は馬車より速い。この村が一番被害を受ける可能性が高いから、ここに配置しておけば、逃げる時間が短くても何人かは助けられると思う」


「何人か、か……」


二千七百人に対して、竜車で運べるのは最大二百人。少な過ぎるようにも思える。だが、歩けない者や馬車の速度では逃げ切れない者を二百人救えると考えれば、決して無駄ではない。


「使える竜車のうち六台は、第一避難区域へ事前に移す」


レオンの言葉に、クロエが顔を上げた。


「六台全部?」


「ああ。一番被害が出る可能性が高い場所へ置く。残る竜車が帰ってきた場合は、二台まで追加で送る」


「商業には使えなくなるよ?」


「分かっている。だが、魔獣が流れ込んでから竜車を集めても間に合わない」


クロエは少し考えた後、諦めたように息を吐いた。


「分かった。商会にはボクから説明する。でも、討伐が終わったらすぐ商業に戻すからね」


「ああ。それでいい」


「竜車へ乗せる者も、先に決めておいた方がよろしいでしょう」


ゼムの言葉に、レオンは頷いた。


「重病人、重傷者、歩けない老人、乳幼児とその母親を優先する。馬車での移動に耐えられない者も竜車へ乗せろ」


「回復魔法を使える者も同行させるべきでしょう」


ガレスが続ける。


「負傷者が出た場合、避難先へ着くまで治療出来る者が必要です」


回復魔法は聖属性の魔法だと広く信じられている。だが、セリオスから聖属性など実在しないと聞かされていた。回復魔法の正体は無属性魔法だ。得手不得手はあるが、基本的には誰でも使おうと思えば使える。


しかし、使える可能性があることと、実際に人を治療出来ることは別だ。習得が難しいうえに、傷の状態を見誤れば悪化させる危険もある。そのため、治療や回復魔法を扱える者はノルディア領内でもごく僅かしかいない。


クロエもセリオスから話を聞いた時に同席していたため、その事実を知っている。


「回復魔法を使える人を全員避難させたら、戦っている兵士を治療する人がいなくなるよ?」


「全員は送らない。領内にいる者を、避難民に同行する者と防衛部隊に同行する者へ分ける」


「小規模なら、避難する方に一人。残りは防衛部隊かな」


「そうだな。それと薬師も同行させる。回復魔法だけで全ての怪我を治せるわけじゃない」


レオンが書き加えると、ゼムが静かに口を開いた。


「第一陣が子供、老人、病人、怪我人、その家族で約八百人。竜車六台から八台で最大二百人。残る約六百人は馬車へ乗せるということでよろしいでしょうか?」


「ああ。馬車一台に六人乗せるとして百台。食料や薬を運ぶ分を含め、最低でも百二十台は用意する」


「第二陣は戦えない領民と、商人や職人。その後に農民と自警団員だね」


「いや、商人と職人を一括りにするのは危険だ」


レオンは地図にある村を指した。


「鍛冶師、木工職人、薬師は早めに逃がす。道具も持ち出させろ。氾濫が収まった後、村を再建するために必要になる」


「農民も同じじゃない?」


「ああ。農民には種籾と農具を持たせる。家財を捨てることになっても、それだけは出来る限り持ち出させる」


食料が残っていても、次の作物を育てられなければ領地は立ち直れない。家や畑を失った後に必要となる物まで考えておかなければ、避難させただけで終わってしまう。


「家畜はどうしますか?」


ガレスに尋ねられ、レオンは少し考えた。


「小規模なら、時間がある限り連れていく。ただし、馬車を引く馬と竜車を引く走竜を優先する。魔獣が迫っている場合は柵を開けて逃がせ。家畜を守るために領民を残すな」


クロエは僅かに表情を曇らせたが、反対はしなかった。


家畜は領民にとって大切な財産だ。それを捨てろと命じることが、どれほど重いのかは分かっている。だが、財産を惜しんで命まで失えば意味がない。


「小規模では最大二千七百人。第一陣の八百人を竜車と馬車へ乗せ、残る者は徒歩で移動。護衛は百人を目安にする」


「そうすると、最初に迎撃へ向かう五百人から百人を割くことになりますな」


「村の自警団も使う。騎士は街道の前後と、魔獣が現れそうな場所に置け。護衛全員が避難民と同じ速さで歩く必要はない」


ガレスが頷き、配置を書き留めた。


「次は中規模だ」


俺は第二避難区域を指でなぞった。


「魔獣が複数の方向へ分かれた場合、この区域にある集落も危険になる」


クロエが帳簿の数字を順番に足していく。しばらくして、その手が止まった。


「第一避難区域を含めて、住民は八千六百人くらい。余裕を持たせるなら九千五百人だね」


「先ほどの三倍以上ですな」


ゼムが僅かに眉をひそめた。


「それだけじゃないよ。宿場や街道の近くには商人が多いから、討伐が始まる時期によって人数が大きく変わる。多い時なら、さらに五百人くらい増えるかもしれない」


「なら中規模は最大一万人で計算する」


レオンは九千五百という数字を消し、一万人と書き直した。


「第一陣は、小規模と同じく子供、老人、病人、怪我人と、その家族だね。人数は二千六百人くらい」


「竜車で運べる二百人を引けば、残りは二千四百人か」


「馬車一台に六人なら四百台必要になるよ。それに食料、水、薬も運ばないといけないから、最低でも五百台は欲しいね」


「領内から集められるか?」


クロエは別の帳簿を開いた。


「商会や農家の物まで借りれば足りると思う。でも、討伐部隊の物資輸送にも使うんでしょ?」


「ああ」


「だったら余裕はほとんどないよ。一台でも壊れたら、すぐに足りなくなる」


討伐部隊へ物資を運ぶ馬車。避難民を運ぶ馬車。領内へ食料を運び込む商人達の馬車。その全てを同時に用意しなければならない。


「中規模の場合は、竜車六台から八台と馬車五百台。護衛は避難路の防衛に回す五百人が兼任する。歩ける者は徒歩。ただし、途中で遅れた者を拾えるよう、空の馬車をいくつか最後尾に置く」


ガレスが頷いた。


「各集落から勝手に出発させるのは危険です。出発時刻を分ける必要がありますな」


「街道へ近い集落から順番に出す。遠い集落を先に出したら、途中で避難民同士がぶつかる。道が合流する場所には誘導役を置け」


「避難を始める合図はどうするの?」


「小規模は鐘を三回。中規模は鐘を六回鳴らし、狼煙を二本上げる。鐘が聞こえない集落には早馬を出す」


クロエがその内容を書き留める。


「最後は大規模だね」


執務室の空気が僅かに重くなった。


レオンは第三避難区域を囲んだ。バルト山脈に近い村だけではなく、領都へ続く宿場や街道沿いの町まで含まれている。


クロエは何度も帳簿を確認しながら数字を足していった。今までより長い時間がかかり、やがて小さく息を吐いた。


「住民だけで二万一千人くらい」


「余裕を持たせた場合は?」


「商人や冒険者、登録されていない人達も含めて……最大二万三千人」


二万三千人。その数字を聞いた瞬間、全員が黙り込んだ。


大規模となれば、領内に残した二千人は全員が時間稼ぎへ回る。魔獣を倒すためではなく、この二万三千人を逃がすために戦うことになる。


「馬車だけで全員を運ぶのは不可能だな」


「うん。歩けない人だけでも六千人以上いる。竜車を八台使っても、運べるのは一度に二百人だけ。残りの五千八百人を馬車へ乗せるなら、それだけで千台近く必要になるよ」


「食料や薬を運ぶ馬車も必要ですな」


「うん。最低でも千百台。出来れば千二百台は欲しい」


「領内の馬車を全て集めても、余裕はほとんどありませんな」


ゼムの言葉に、クロエが頷いた。


「討伐部隊への物資輸送を止めれば何とかなるかもしれない。でも、それを決めてから集めたんじゃ間に合わないよ。最初から避難用として使う馬車を決めておく必要がある」


「大規模の場合、討伐は中止すると決めた。輸送に使っている馬車も、帰ってきたものから避難へ回す」


レオンは大規模の欄へ、最大二万三千人、竜車八台、馬車千二百台と書いた。


「竜車は第一避難区域から動かさない。最も魔獣に近く、逃げる時間が短い場所で使う。第二、第三避難区域の病人や老人は馬車で運ぶ」


「その方がいいと思う。竜車を別の場所へ向かわせている間に、一番危険な村で被害が出たら意味がないからね」


大規模では、職業や年齢だけで避難させる順番を決めるだけでは足りない。避難先そのものを複数に分けなければ、一か所へ二万三千人もの領民が押し寄せることになる。


「教国とフェルナード領に分けるの?」


「ああ。それに、ノルディア領内にも一時的な避難場所を作る」


教国には、孤児、病人、負傷者と回復魔法を使える者を中心に送る。フェルナード領には、農民、商人、職人と、その家族を中心に受け入れてもらう。

だが、これはノルディアだけで決められることではない。


受け入れられる人数。必要となる準備金。食料を運ぶ経路。移動にかかる日数。その全てを教国とフェルナード家へ確認する必要がある。

クロエが計算した三つの数字を読み上げる。


「小規模なら最大二千七百人。中規模なら一万人。大規模なら二万三千人」


「ああ。この人数を基準に、食料と金を用意する」


「かなりの金額になるよ」


「どれくらいだ?」


「今すぐには分からない。でも、少なくとも金貨数百枚で済む額じゃないね。それに、竜車を六台も商業から外したら、その分だけ収入も減るよ」


「領民の命を守るためだ。必要な損失だと思うしかない」


「本当に簡単に言うよね」


クロエは呆れたように言いながらも、竜車六台を第一避難区域へ配置すると帳簿へ書き込んだ。その下には、帰還した竜車を二台まで追加すると付け加えられている。


「次は、どこに何人送るか決めよう。人数だけ決めても、避難先に入れなかったら意味がないからね」


レオンは教国へ続く道と、フェルナード領へ続く道を見比べた。

どちらの道にも長所と欠点がある。そして避難民の中には、長距離の移動に耐えられない者もいる。


次に決めるべきなのは、二万三千人の領民をどの道へ逃がすのか。そして、そのためにいくら必要になるのかだった。

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