第28話 グランツの宿場町
王都へ向かう旅も六日目を迎え
馬車は緩やかな丘を越えていた
レオンは思わず馬車の窓から身を乗り出していた
「大きいな」
眼下に広がるのは巨大な町だった
多くの荷馬車や竜車それに乗る旅人や商人
様々な人々が行き交っている
ノルディア領都とはまた違う活気があった
「グランツの宿場町ですから」
向かいに座るゼムが答える
「思ったより栄えてる」
「王都と北方を結ぶ交易の要衝です」
「なるほどな」
レオンは頷いた
北から来る商品、王都から運ばれる商品、それらが一度集まる場所
商人達にとっては重要な町なのだろう
馬車は人混みの中を進んでいきやがて宿へ到着した
荷物を預けた後レオンはゼムと二人で町を歩いた
「昼飯はどうしようか……」
周りを見渡しながらレオンが呟いた
「市場の屋台でよろしいかと」
「それ、賛成」
ゼムの提案に即答する
せっかくの宿場町だ
地元の料理を食べてみたい
市場へ足を運ぶと、あちこちから威勢の良い声が飛んでくる
「南部産の果物だ!」
「新鮮な魚だよ!」
「今日のおすすめだ!」
グランツの宿場町は活気が溢れており見ているだけでも面白い
レオンは前世で営業をしていた頃を少し思い出した
そんな中ふと足が止まる
視線の先には肉屋があった
「ん?」
店先に吊るされた肉を見る
見慣れた肉
特徴的な牙
赤身の強い肉
それはレッドボアだった
ノルディアでは見飽きるほど見る肉である
「レッドボアか」
そして何気なく値札を見る
「高っ!?」
思わず声が出た
横のゼムが苦笑する
「お気付きになりましたか」
「いや高すぎるだろ」
銀貨三枚。
ノルディアなら銀貨一枚もしない。
むしろ安い部類だ。
「三倍どころじゃないぞ」
「王都へ近付くほど値は上がります」
「そんなにか?」
「はい」
ゼムは当たり前のように頷いた
「北には大量におりますが、王都周辺にはほとんどおりませんので」
「あー……」
レオンは納得した
需要と供給だ
ノルディアでは害獣、王都では希少な食材、価値が違うのも当然だった
「しかも味が良いですからな」
「確かに美味いけど」
「王都では高級料理店でも扱われます」
レオンは再び値札を見る
そこには銀貨三枚
(かなり儲かるな)
レオンの頭の中で計算が始まった
ノルディアのボア肉
輸送費
利益
前世の営業マン時代の癖である
「ゼム」
「はい」
「これ王都に売れないか?」
ゼムは少し笑ったそう言い出すと思っていたらしい
「可能でしょうな」
「やっぱり」
レオンは肉を見つめる
騎士団の訓練も兼ねてボアは毎年大量に狩る
処理に困ることも少なくなかった
それが王都では高級品
使わない手はなかった
「でも問題は保存か」
レオンが呟く
王都までまだ遠く普通に運べば傷んでしまう
するとゼムが懐かしそうな顔をした
「もっとも先代様は運んでおられましたが」
レオンが顔を上げる。
「父上が?」
「はい」
少し意外だったそんな話は聞いたことがない
「年に一度」
「王都の祭りに合わせて販売しておりました」
「初耳なんだけど」
「おぼっちゃまがまだ幼い頃でしたので」
確かに覚えていない
その頃は剣の練習ばかりしていた
「どうやって運んでたんだ?」
するとゼムは少し誇らしげに笑った
「氷です」
「氷?」
「旦那様の氷魔法です」
レオンは嫌な予感がした
父の話になると大抵おかしい
レオンの予想は案の定だった
「どれくらい持ったんだ?」
「三週間以上は溶けてはいませんでした」
レオンは固まった。
「は?」
「三週間以上でございます」
「いや意味分からん」
ゼムは肩を竦める
「旦那様ですからな」
とゼムは両手を広げやれやれとしていた
「それで納得しろって?」
思わずツッコミを入れる
魔法で作った氷でも普通はそんなに持たない
三週間など聞いたこともない
だが父ならやりかねないそう思えてしまうのが恐ろしい
帝国からは北の戦神と呼ばれ王国最強クラスの魔法剣士
常識で測れる人間ではなかった
レオンは少し考え込みそして
「面白そうだな」
と呟いた
「ほう?」
「試してみたい」
ゼムが苦笑する
「また仕事が増えますな」
「領地の収入になるかもしれないだろ?」
「確かに」
「それに」
レオンはボア肉を見る
未来を変えるには金が必要だ
クラリスを救うにも
領地を守るにも
魔物の暴走を止めるにも
何をするにも資金がいる
「父上に出来たなら、少しくらい真似してみたい」
そう言うとゼムはどこか嬉しそうに笑った
「旦那様も喜ばれるでしょうな」
レオンは空を見上げる
まだ王都にも着いていない
任命式もこれからだ
王都への旅は思わぬ収穫をもたらしてくれた
ボア肉かにそして父が遺した氷の技術
未来への新しい可能性だった




