↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第8章 帝国の大和撫子と英雄の末裔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

324/364

第296話 留守を任せられる人

評価ポイントが1000ポイントを超え、

ブックマークも自分が想像するより増えて、嬉しい限りです。

評価、ブックマーク、リアクション、ありがとうございます。


8章を書き終え9章のプロットが済んで、最初から文書の句読点を入れたりなどしたかったのですが……

10章辺りからメインのあの方が出てくる予定なので

早く書きたい欲が………

少しづつ誤字や句読点、あと設定のズレなんか修正していきます。

これからもよろしくお願いいたします。


ノルディアへ帰還した翌朝。

執務室には、朝早くから紙をめくる音が響いていた。

レオンは机へ向かい、帝国へ出発してから溜まっていた書類を一枚ずつ確認していく。

昨日見た時には山のように思えた書類も、実際に目を通してみれば整理されており、必要な情報には付箋まで付けられている。

収支報告、宿場町からの報告、魔力草やポーション事業、氷事業、保温箱の生産状況、騎士団の装備更新、避難都市の建設進捗。

どれも、レオンが不在だった一ヶ月近くの間に動いていたものだ。

だが、大きな問題は起きていない。

それどころか、ほとんどの案件は既に処理が終わっていた。

レオンの机へ残されていたのは、領主本人の承認が必要なものか、今後の方針を決めなければならないものばかりだった。


一枚の書類へ署名し、次を手に取る。


「……これも終わってるのか」


少し離れた机で帳簿を確認していたクロエが、顔を上げた。


「何が?」


「保温箱」


「ああ、それ?」


クロエは何でもないように答える。


「帝都に行く前に増産の話してたでしょ? 職人を増やしても一気に作らせたら品質が落ちるから、古参の職人一人につき、新人二人まで付ける形にしたよ」


「販売先は?」


「今は王国内が中心。注文はもっと来てるけど、帝国方面にはまだ広げてない」


「なんで?」


「レオンが帝国へ行ってる最中に、勝手に帝国向けの大口契約なんて結べないでしょ」


確かにそうだった。

今回の帝国訪問で両国の関係はさらに深まったとはいえ、商売まで自動的に自由になるわけではない。

クロエは帳簿へ視線を戻す。


「それに、作れる数には限界があるからね。注文があるからって全部受けて、納期を守れなくなったら信用を失う」


「なるほど」


「今の数ならちょうどいいよ。少し注文を待ってもらってるくらいの方が、値段も崩れないし」


レオンは手元の書類を見る。

販売数、生産数、職人へ支払った賃金、材料費。

全て綺麗にまとめられていた。


次に、魔力草関連の報告へ目を通す。

こちらも大きな問題はない。

栽培地は予定通り広がり、ポーションの生産量も増えている。

さらに氷事業についても、夏の間に落ち込むことを見越して、生産に使っていた人員の一部を別の仕事へ回していた。

レオンは数枚の書類を確認した後、クロエを見る。


「俺がいなくても、普通に回ってたんだな」


クロエが眉を寄せる。


「何、その言い方」


「いや、悪い意味じゃないぞ」


「僕が何年、レオンと一緒に仕事してると思ってるの?」


「それは分かってるけど」


レオンが領主となってから、クロエはずっと傍にいた。


最初は商売の相手だった。


それが今では、ノルディアで行っている事業の多くに関わり、レオンが不在でも判断出来ることは自分で処理している。

昨日、ジークハルトについて、考えていることをすぐ理解してくれる人間がいると楽だと、クロエ自身が言っていた。

だが、それならクロエも同じだった。


レオンが何を優先するのか、どこまでなら利益を求めるのか、何を絶対に譲らないのか。

長く一緒に仕事をしてきたクロエは、それをかなり正確に理解している。


「ありがとうな」


突然言われたクロエが、目を瞬く。


「何?」


「留守の間」


「……急にどうしたの?」


「別に」


レオンは再び書類へ視線を落とした。


「俺が帝国で好き勝手やれたのも、こっちを任せられたからだなって思っただけ」


「好き勝手やってた自覚はあるんだ」


「そこ?」


クロエは小さく笑った。


「でも、まあ……どういたしまして」


そう答えると、再び帳簿へ視線を落とした。

少しだけ嬉しそうに見えたのは、気のせいではないだろう。

ゼムは二人のやり取りを黙って見ていたが、やがて一枚の書類をレオンの前へ置く。


「ぼっちゃま、こちらもご確認を」


「まだあるのか」


「ございます」


「いつ終わるんだ?」


「ぼっちゃま次第でございます」


レオンはため息を吐きながら、書類を手に取った。

そこに書かれていたのは、ノルディア最南端で進めている避難都市の建設報告だった。

基礎工事、井戸、倉庫、食料の備蓄場所、領民を受け入れるための簡易住宅。

予定より僅かに遅れている部分はあるものの、全体としては順調だった。


レオンは少し表情を引き締める。


「避難都市は問題なさそうだな」


「今のところはね」


クロエも椅子を動かし、レオンの横から書類を覗き込む。


「ただ、昨日レオンが言ってた計画まで含めるなら、話は別」


「教国とフェルナードか」


「うん」


クロエは机の上に置かれていた地図を広げる。


「教国側の一次避難場所をどうするかは、向こうとの相談になるから、まだ費用も何も出せない」


「ああ」


「フェルナードの方も同じ。レイモンド様がどこまで協力してくれるのか分からない状態じゃ、僕も計算出来ないよ」


「分かってる」


「土地を借りるだけなのか、街を造るのか、既存の街を拡張するのか。それだけでも全然違うからね」


レオンは頷いた。

だからこそ、王都とフェルナードへ行かなければならない。

まだ構想しかないものを、クロエに数字へしろと言っても無理な話だ。


「だから、王都でまず国王陛下に話を通す」


「うん」


「それからフェルナードへ行って、レイモンド様に相談する」


「そこまでは昨日聞いた」


クロエは地図上のノルディアから王都へ指を動かし、さらにフェルナードへ移した。


「問題は、どれくらいの人数を想定するかだね」


「人数?」


「全領民を半分ずつってわけじゃないでしょ?」


レオンは少し考える。


確かに避難先を二方向へ分けると言っても、単純に半分ずつに分ければいいわけではない。

住んでいる場所によって、近い避難路も違う。

老人、子供、怪我人、馬車を使える家族、徒歩で移動しなければならない領民。

条件はそれぞれ違う。


「街や村ごとに避難先を決める方がいいか」


「僕もその方がいいと思う」


クロエは地図上のいくつかの場所を指す。


「大氾濫が起きそうになってから、どっちへ行くか決めてたら遅いよ」


「だな」


「最初から、この村は南、この町は教国側って決めておく。領民にも事前に知らせて、避難する道も決めておく」


レオンはクロエを見る。


昨日、自分が考えていたのは避難先までだった。

だが、実際に何万人もの領民を動かすなら、それだけでは足りない。

誰が、どこへ、どの道を通って、どれだけの日数で移動するのか。

そこまで決めて、初めて避難計画になる。


「それ、まとめられるか?」


「出来るけど……」


クロエが嫌そうな顔をする。


「また僕の仕事増やすの?」


「頼む」


「レオンもやってよ」


「王都に行かないと」


「その前に出来るところまで」


「はい」


昨日と同じやり取りになった。

ゼムが静かに口元を緩める。

クロエは小さく息を吐くと、地図の端に置かれていた紙を引き寄せた。


「じゃあ、まず領内の人口と、それぞれの街や村から避難都市までの距離を出す」


「ああ」


「馬車をどれだけ使えるかも確認する。全員分なんて絶対ないから、歩けない人を優先しないと」


「食料も必要だな」


「途中で配れる場所を作った方がいいかもね」


「街道沿いの宿場町を使えないか?」


「場所によるかな」


二人の間で、次々に必要なものが増えていく。

避難経路、食料、水、馬車、護衛、休憩場所、事前に避難を開始する判断基準、領民への周知。

レオンが最初に考えていたより、遥かに大きな計画になりそうだった。

クロエが途中で手を止める。


「これ、かなり時間かかるよ」


「二年ある」


「二年しかない、でしょ」


「……そうとも言う」


「そうとしか言わないよ」


クロエは呆れたように言ったが、手を止めることはなかった。

その様子を見ながら、エミルが静かに口を開く。


「教国側でも、同じ準備が必要になりますね」


「そうなるな」


「でしたら、セリオス様へお話しする際、避難場所の相談だけではなく、教都までの経路についても確認した方が良さそうです」


「頼めるか?」


「もちろんです」


エミルは頷いた。


「ただ、教国側にも準備する時間が必要です。出来るだけ早くお伝えした方がよいでしょう」


「王都とフェルナードが終わったらノルディアに戻って、その後すぐ教国へ帰るんだよな?」


「はい」


エミルは少しだけ間を置いて答えた。


「その予定です」


帝都まで一緒に行き、そこからノルディアへ戻り、これから王都、さらにフェルナード、そしてもう一度ノルディアまで戻る。

考えてみれば、エミルとは随分長く一緒に旅をすることになる。

最初は、教国から派遣された和平の見届け人というだけだった。

それが今では、ノルディアの避難計画にまで協力してもらっている。


「エミルも悪いな」


「何がですか?」


「色々付き合わせて」


エミルは少し驚いた後、柔らかく笑う。


「私は嫌ではありませんよ?」


「そうか?」


「はい」


即答だった。


レオンは少しだけ首を傾げたが、それ以上深く考えることはなかった。

クロエが二人をじっと見ている。


「何だ?」


「……別に」


そう答えたクロエは、再び紙へ視線を落とした。

何故か、先程より筆を走らせる音が少し強くなった気がした。





それから三日。

レオンは朝から夜まで、執務室へ籠もることになった。

帝国滞在中に溜まった仕事を処理し、王都へ持っていく資料をまとめ、共同討伐の合意内容を確認し、帝国から預かった文書を整理する。

その間にも、普段の領主としての仕事は増えていく。


三日目の夕方。

レオンは最後の書類へ署名すると、机へペンを置いた。


「終わった……」


椅子の背にもたれ掛かる。

向かい側で書類を確認していたクロエが、顔を上げる。


「本当に全部?」


「全部」


ゼムが机へ近づき、一枚ずつ確認していく。

レオンはその様子を不安そうに見つめる。

やがて、ゼムが書類を揃えた。


「問題ございません」


「よし」


ようやく解放された。

レオンが立ち上がろうとすると、ゼムが続ける。


「では、明日の王都へのご出発についてですが」


「もう仕事の話するの?」


「明日出発されるのでございますから、当然でしょう」


「少しくらい達成感に浸らせてくれよ」


クロエが笑う。


「馬車の中で浸れば?」


「また十四日、座りっぱなしか……」


帝都から十四日かけて帰ってきたばかりだ。

そして明日から、再び十四日。

今度は王都まで、馬車に揺られることになる。

だが、行かなければならない。


レオンは執務室の窓から外を見る。

夕暮れに染まったノルディアの街が見える。

ここを守るために帝国へ行った。

そして、次は王都へ行く。


国王の許可が得られなければ、帝国と決めた共同討伐も進めることは出来ない。

避難計画についても同じだ。

まだ始まったばかりだった。


「クロエ」


「何?」


「留守の間、また頼む」


クロエは一瞬だけ黙った。

それから、少し呆れたように笑う。


「今度はどれくらい?」


「王都に行って、その後フェルナードだから……」


「聞かなきゃ良かった」


「悪い」


「いいよ」


クロエは椅子から立ち上がった。


「その代わり、ちゃんと話まとめて帰ってきてね」


「ああ」


「フェルナードの避難地帯がどうなるか分からないと、こっちも計画を進められないから」


「分かってる」


クロエは小さく頷く。


「じゃあ、任された」


その言葉を聞き、レオンも頷いた。

ノルディアを長く空けることに、不安がないわけではない。

だが、今は違う。


ゼムがいる。


クロエがいる。


ガレスや騎士達もいる。


全てを自分一人で抱える必要はない。

父グラニウスのような圧倒的な力は、自分にはない。

だからこそ、頼れる人には頼ればいい。


レオンは机の上に用意された、王都行きの書類へ視線を落とした。

明日、再びノルディアを発つ。

次に向かうのは王国の中心、王都だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。