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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第8章 帝国の大和撫子と英雄の末裔

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第287話 共同討伐

「帝国も共に、民を守ろう」


「はい」


レオンが力強く頷くと、会議室に張り詰めていた空気が僅かに緩んだ。

これで大規模討伐まで二年の猶予を得ることができた。

原作通りなら、大氾濫が起こるのは約四年後。それより二年も早く大規模討伐を行うことになるが、何の準備もせず未来を迎えるより遥かにいい。

それに、二年間ただ待つわけではない。

ノルディアでは避難場所を整備し、街道を整え、食料や薬を備蓄する。帝国側でも同様に避難経路の確保や魔獣の調査を進める。

そして二年後。

両国が万全の準備を整えたうえで、バルド山脈へ大規模な討伐軍を送り込む。

そこまで考えたところで、ラメセスが机の上に広げられた地図へ視線を落とした。


「二年後に討伐を行う。それについては決まった。だが、肝心の討伐方法についてはどうする?」


「そうですな」


クニヒロも頷く。


「二年あるとはいえ、大軍を動かすのであれば大まかな方針だけでも今のうちに決めておいた方がよろしいでしょう」


ジークハルトも地図を見る。


「レオン辺境伯。先ほど帝国とノルディアの両側から同時に山へ入るべきだと言っていたな」


「はい」


レオンは席を立つと、地図の前へ移動した。


「片側だけから大規模な討伐を行えば、追われた魔獣が反対側へ流れる可能性があります。ですから、大規模討伐を行う際には帝国側とノルディア側、両方から同時に軍を入れる必要があると考えています」


レオンはまず、地図に描かれた帝国側を指差した。


「帝国側から一隊」


続いて山脈を挟んだノルディア側を指す。


「そして、ノルディア側からも一隊」


ルーカスが地図を見ながら口を開く。


「両側から同時に圧力を掛けるわけか」


「ああ。ただ、単純に挟み撃ちにするわけじゃない」


「どういうことだ?」


レオンは山脈中央へ指を滑らせる。


「バルド山脈は広すぎる。両軍が中央まで進んで合流するような作戦にしたら、どこまで魔獣を追うのか分からなくなる。それに、奥へ入りすぎれば大氾濫を引き起こす危険もある」


「なら、進軍する範囲を事前に決めるのか」


「そういうことだ」


ルーカスの言葉にレオンは頷いた。


「二年間の調査で魔獣の分布を調べ、その結果を基に討伐区域を決める。目的はバルド山脈の魔獣を全滅させることじゃない。増えすぎた数を減らし、麓へ降りてくる魔獣を抑えることだ」


クニヒロが静かに頷く。


「山中の魔獣を全て討つなど、そもそも現実的ではございませんからな」


「はい。それに、やり過ぎれば別の問題が起こる可能性もあります」


魔獣もまた山の生態系の一部だ。

何も考えず一種類を大量に減らせば、それまでその魔獣に抑えられていた別の魔獣が増えるかもしれない。

何より、山奥にはどれほど強力な魔獣がいるのか分からない。

必要以上に踏み込む理由はなかった。


「しかし」


ジークハルトが口を開いた。


「両側から軍を入れるとして、帝国軍は帝国側、ノルディア騎士団はノルディア側という分け方でいいのか?」


「いえ」


レオンはすぐに首を横へ振った。


「それは避けたいと考えています」


ジークハルトが僅かに目を細める。


「理由は?」


「お互いを信用するためです」


その言葉に、ラメセスが僅かに眉を動かした。


「信用するため?」


「はい」


レオンは帝国側を指差す。


「例えば、帝国軍だけでこちら側から山へ入ったとします。ノルディア側からは、その軍が実際にどこまで進んだのか分かりません」


続いてノルディア側を指す。


「逆も同じです。ノルディア騎士団だけでこちらから山へ入れば、帝国からは俺達がどこまで進んだのか確認できません」


「……なるほどな」


ジークハルトの表情が僅かに変わった。

既にレオンの意図に気づいたようだった。

ルーカスはまだ地図を見ている。


「でも、今日不可侵を含めた条約を結んだばかりだろ?」


「ああ」


レオンは頷く。


「だからこそだ」


「?」


「条約を結んだから、相手を信用してください。それだけじゃ駄目だと思う」


レオンはルーカスからジークハルトへ視線を移した。


「大軍を国境付近へ集めるんです。帝国にも、ノルディアにも不安に思う人間は必ず出ます」


ジークハルトは黙って聞いている。


「俺とジークハルト第一皇子殿下が互いを信用していたとしても、全ての兵士や貴族が同じとは限りません」


「その通りだ」


ジークハルトが答えた。

今日結んだばかりの友好条約。

長く続いてきた警戒心が、一枚の羊皮紙によって全て消えるわけではない。

帝国軍が数千人規模でバルド山脈へ集結すれば、王国側では帝国が攻め込む準備をしているのではないかと疑う者が出る。

逆にノルディア騎士団が大軍を山へ入れれば、帝国側でも同じ疑念が生まれる。


「ですから」


レオンは地図を指差した。


「両方の部隊を混成にします」


クニヒロが僅かに目を見開く。


「混成部隊ですか」


「はい。帝国方面へ入る部隊にもノルディア騎士団を加えます。そして、ノルディア方面へ入る部隊にも帝国軍を加える」


ラメセスが顎へ手を当てた。


「互いの軍に、相手国の兵を同行させるわけか」


「はい」


「監視役として」


レオンは少しだけ笑った。


「その意味もあります」


会議室に短い沈黙が落ちた。

ジークハルトの口元が僅かに上がる。


「面白いな」


「そうでしょうか?」


「ああ」


ジークハルトは地図を見る。


「互いを信用するために、互いを監視させるのか」


「信用しているから確認する必要はない、という形よりいいと思っています」


レオンは答える。


「疑う必要がない仕組みを、最初から作っておけばいいんです」


その言葉に、ジークハルトは小さく笑った。


「やはり、お前は面白い」


「褒め言葉として受け取っておきます」


「ああ。褒めている」


ルーカスが地図を見ながら口を開く。


「俺はノルディア側に入る」


「……もう決めたのか?」


レオンが尋ねる。


「ああ」


ルーカスは当然のように答えた。


「帝国軍がノルディア領へ入るなら、皇族が指揮した方がいい。何か問題が起きても俺ならその場で判断できる」


ジークハルトも頷いた。


「俺もルーカスが適任だと思う」


「兄貴は?」


「俺は帝都を離れられん」


ジークハルトは即答する。


「二年後には今以上に政務を任されている可能性が高い。それに、帝国軍を二方面へ出す以上、帝都で全体を見る者も必要になる」


「確かに」


ルーカスも納得したように頷いた。


レオンは地図を見つめる。


ルーカスがノルディア側へ来る。


それ自体は問題ない。


むしろレオンとしても、知らない帝国将軍が大軍を率いてノルディアへ入るより、何度も剣を交えてきたルーカスの方が遥かに信用できる。


「では、ノルディア方面の帝国軍はルーカス第二皇子殿下にお願いしたいと思います」


「任せろ」


ルーカスが短く答える。


「問題は兵数だな」


ラメセスが地図を見ながら言った。


「大規模討伐と呼ぶ以上、数百では足りん。だが、山中へ一万も二万も入れれば逆に動きづらくなる」


「それに補給もございます」


クニヒロが続ける。


「バルド山脈は平地ではございません。兵を増やせば増やすほど、食料や装備を運ぶ人員も必要になります」


「そうですね」


レオンも頷く。

兵士は多ければいいというものではない。

山中で大軍を動かすなら、それだけの食料が必要になる。

怪我人を運び出す経路も確保しなければならない。

何より、ノルディア騎士団の全てを討伐へ出すわけにはいかない。

領内を守る兵力も残す必要がある。

レオンはしばらく地図を見つめた。


「ノルディア騎士団からは三部隊を大規模討伐へ出すつもりです」


「三部隊?」


ジークハルトが聞き返す。


「はい」


レオンは頷く。


「帝国方面へ一部隊。ノルディア方面へ二部隊です」


ルーカスがすぐに確認する。


「残りは?」


「一部隊を領内に残します」


「予備兵力か」


「ああ。それと、避難誘導のためだ」


レオンはルーカスへ答える。

もし討伐中に大氾濫が起これば、山へ入った騎士団はすぐには戻れない。

その時、領内に兵が一人もいなければ。

避難誘導すら出来なくなる。

だから、必ず一部隊は残す。

ジークハルトが頷いた。


「当然だな」


ラメセスがレオンを見る。


「ノルディア騎士団一部隊の規模は?」


「約二千です」


「なら、討伐へ出すのは六千か」


「はい」


レオンは地図を見る。

帝国方面へ。

ガレス率いる一部隊 約二千。

 

ノルディア方面へ


二部隊


約四千


残る一部隊


約二千を領内へ残す。


「帝国側はどうしますか?」


レオンが尋ねると、ジークハルトは少し考えた。


「ノルディア方面へ五千を出そう」


「五千ですか」


「ああ」


ジークハルトはルーカスを見る。


「ルーカス。五千を率いられるな?」


「問題ない」


ルーカスは即答した。

ノルディア騎士団四千。帝国軍五千。

合わせて九千。

かなり大規模な部隊になる。


「帝国方面は?」


ラメセスが尋ねる。


「そちらにも帝国軍を出す。ただし、人数は二年間の調査結果を見て決める」


ジークハルトが答える。


「帝国側の地形と魔獣の分布によって必要な数も変わるからな」


「承知しました」


ラメセスが頷く。

レオンも異論はない。

兵数まで今すぐ全て固定する必要はない。

重要なのは、大まかな形を作っておくことだ。

帝国方面には帝国軍と、ガレス率いるノルディア騎士団一部隊。

ノルディア方面にはルーカス率いる帝国軍五千と、ノルディア騎士団二部隊四千。

そして、ノルディア領内には一部隊を残す。


「……待ってください」


そこでレオンは何かに気づき、地図を見る。


「どうした?」


ジークハルトが尋ねる。


「兵力差があります」


「兵力差?」


「はい」


レオンはノルディア方面を指差した。


「ノルディア方面だけでも、帝国軍は五千人を出してくださる。それに帝国方面にも帝国軍を出すとなれば、帝国側の負担の方が大きくなります」


「それがどうした?」


ルーカスが不思議そうに尋ねる。


「今は問題にならなくても、討伐が長引けば不満が出るかもしれない」


「……」


ジークハルトがレオンを見る。


レオンは地図に描かれたバルド山脈へ視線を落とした。

討伐した魔獣。

その素材には価値がある。


肉。


皮。


牙。


角。


骨。


魔石。


種類によっては、かなり高値で売れるものもある。

大規模討伐となれば。

得られる素材の量も莫大になる。

なら、それを使えばいい。


「ジークハルト第一皇子殿下」


「何だ?」


「討伐した魔獣の素材について、一つ提案があります」


「聞こう」


レオンは地図の帝国側へ指を置いた。


「素材の販売利益を、単純に両国で折半するのはやめましょう」


ジークハルトの翡翠色の瞳が僅かに細くなる。


「では、どう分ける?」


レオンは少しだけ笑った。


「相手国を守るために出した兵士の数で分配します」


その言葉にジークハルトがレオンをじっと見つめた。

そして、何かに気づいたように、ゆっくりと目を細めた。

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