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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第8章 帝国の大和撫子と英雄の末裔

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第288話 公平な利益

「相手国を守るために出した兵士の数で分配します」


レオンの言葉に、ジークハルトは地図へ視線を落とした。

ルーカス、クニヒロ、ラメセスも同じように地図を見る。

最初に口を開いたのはラメセスだった。


「相手国を守るために出した兵士の数……どういう意味だ?」


「そのままの意味です」


レオンは帝国側のバルド山脈を指差した。


「帝国方面で討伐された魔獣は、本来なら帝国側へ被害を出す可能性が高い魔獣です。そこへノルディア騎士団を派遣するということは、ノルディアの兵が帝国を守るために戦うことになります」


続いて、指を山脈の反対側へ動かす。


「逆にノルディア方面へ入る帝国軍は、ノルディアを守るために戦ってくださることになる」


「なるほど」


クニヒロが頷いた。

レオンはそのまま説明を続ける。


「ですから、帝国方面で討伐した魔獣の素材については、そこへ参加したノルディア兵の人数に応じた利益をノルディアへ渡していただきたいんです」


「そして、ノルディア方面では逆か」


ジークハルトが言った。


「はい」


レオンは頷く。


「ノルディア方面で討伐した魔獣の素材については、参加する帝国軍五千人分に応じた利益を帝国へ渡します」


ルーカスが腕を組む。


「でも、同じ場所で一緒に戦うんだろ。誰が倒した魔獣かなんて分からなくならないか?」


「ああ。だから一体ずつ誰が倒したかなんて数える必要はない」


レオンはルーカスへ答える。


「討伐区域ごとに得られた素材の売却額をまとめて、その区域へ参加した兵数を基準に分ければいい」


「兵士一人当たりで計算するのか」


「そういうことだ」


例えば、ノルディア方面へ帝国軍五千、ノルディア騎士団四千が参加した場合。

そこで得られた素材の販売利益を九千人分として考える。

そのうち帝国軍五千人分を帝国へ。

ノルディア騎士団四千人分をノルディアへ。

逆に帝国方面でも、参加した帝国軍とノルディア騎士団の人数に応じて利益を分配する。

ただし重要なのは、単純な取り分ではない。


レオンは続けた。


「こうしておけば、どちらの国が多く兵を出したとしても、その人数に応じて利益が返ってきます」


ジークハルトは何も言わず、レオンの説明を聞いている。


「今回の討伐では、帝国側の方が多くの兵を出してくださることになると思います」


ノルディア騎士団は全部で約八千。

その全てを山へ入れることは出来ない。

領民の避難誘導。


領内の治安維持。


万が一、討伐軍を抜けた魔獣が現れた時の防衛。

そのために一部隊二千を必ず残す。

一方、帝国はそれより遥かに大きな軍を持っている。

必然的に、大規模討伐へ出せる兵数にも差が生まれる。


「兵力に差がある以上、単純に利益を半分ずつにすれば、帝国側から不満が出る可能性があります」


ラメセスが小さく頷いた。


「我々の方が多く兵を出しているのに、何故取り分は同じなのか、ということか」


「はい」


レオンは頷く。


「逆に、討伐した場所だけで利益を決めれば、自国側を守るためだけに兵を出した方が得になります」


ジークハルトの翡翠色の瞳が僅かに細くなった。


「だから、相手国へ出した兵にも利益を与える」


「はい」


「相手を助ければ助けるほど、自国にも利益が戻る仕組みにするわけか」


「その方が長く続けられると思っています」


レオンは静かに答えた。

善意だけに頼るつもりはない。

友好条約を結んだ。

互いに助け合うと約束した。

だが、何年、何十年、その関係を続けるなら善意だけでは足りない。

ノルディアを守るために帝国軍が命を懸ける。

その結果、帝国には何の利益もない。

そんな仕組みでは、いずれ不満が出る。

逆も同じだ。

だから助けた側にも、分かりやすい形で利益が返るようにする。


「……面白い」


ジークハルトが小さく呟いた。


「何がでしょうか?」


「お前の考え方だ」


ジークハルトは地図からレオンへ視線を移す。


「先ほどは領民のためなら領地を捨てても構わないと言った。その一方で、こういうところでは徹底して損得を考える」


「それは当然では?」


レオンは僅かに首を傾げた。


「助け合うために、どちらかだけが損をする仕組みにしたら長続きしません」


その返答に、ジークハルトは僅かに笑った。


「その通りだ」


ラメセスも腕を組みながら頷く。


「私も異論はない。帝国軍の方が多く兵を出すのであれば、兵数で分配した方が兵達にも説明しやすい」


クニヒロも続く。


「特に今回は共同討伐でございます。どちらの国が多く魔獣を倒したかを競うものではありません。兵数で分ける方が余計な争いも起こりにくいでしょう」


「俺もそれでいい」


ルーカスも短く答えた。

ジークハルトは全員の顔を見る。


「では、素材利益についてはその方針で進めよう。ただし、実際の計算方法や素材の管理については文官達にも詰めさせる必要がある」


「はい」


レオンも頷く。

素材を誰が回収するのか。

どこで保管するのか。

誰が査定するのか。

どの商人へ売却するのか。

細かく決めなければならないことはいくらでもある。

だが、大まかな原則さえ決めておけばいい。

残りは二年間で詰めればいい。


「それと」


ジークハルトが地図を見る。


「先ほどの部隊編成についてだ」


「はい」


「帝国方面には、ノルディア騎士団一部隊を出すと言っていたな」


「はい。ガレス騎士団長に任せるつもりです」


「ガレス団長か」


ルーカスが反応する。


「あの人なら問題ないな」


「ああ」


レオンもルーカスには普通に答える。

ガレスはノルディア騎士団長。

王国式剣術の使い手であり、長年ノルディアを守ってきた男だ。

帝国軍と行動することになっても、十分に部隊をまとめられる。


「ノルディア方面は騎士団二部隊、四千人」


ジークハルトが確認する。


「はい」


「そこへルーカス率いる帝国軍五千」


「そうなります」


合わせて九千。


かなり大規模な討伐軍になる。


「そして、ノルディア領内には騎士団一部隊、二千を残す」


「はい。何かあった時の領民の避難誘導と、領内防衛を任せます」


ジークハルトが頷いた。


「帝国方面については、帝国軍とガレス率いるノルディア騎士団一部隊を合わせて二千程度に抑えるのがいいだろう」


レオンが僅かに眉を上げる。


「二千ですか?」


「ああ」


ジークハルトは地図の帝国側を指差した。


「帝国方面は地形が狭い場所も多い。大軍を入れすぎれば動きづらくなる。それに、ノルディア方面へ五千を出す以上、こちらまで大軍にする必要はない」


ラメセスが頷く。


「二年間の調査で必要なら増員すればいい。現段階では二千を基準として考えるのが妥当だろう」


「分かりました」


レオンも頷いた。

これで大まかな部隊編成が決まった。

帝国方面の帝国軍と、ガレス率いるノルディア騎士団一部隊。

合計約九千。

ノルディア方面のルーカス率いる帝国軍五千。

ノルディア騎士団二部隊四千。

合計九千。


そしてノルディア領内に騎士団一部隊二千を残し、避難誘導と防衛を担当する。


二年後、総勢一万を超える兵がバルド山脈周辺で動くことになる。

レオンは地図を見つめた。

ゲームでは、こんな計画はなかった。


大氾濫が起こり。


魔獣が山から溢れ。


その後に人間達が対応する。


つまり、被害が出てから動いた。

だが、今回は違う。

氾濫が起きる前に逃げ道を作り、食料を用意する。

そして、軍を編成し帝国と協力して魔獣を減らす。


レオンは未来を知っている。

その最大の利点は起きた出来事に上手く対応することではない。

起きる前に準備出来ることだ。


「……これなら」


レオンが小さく呟く。

ジークハルトが反応する。


「何だ?」


「いえ」


レオンは首を横へ振った。


「二年あれば、かなり準備出来ると思いまして」


「そうだな」


ジークハルトも頷く。


「ただし、二年後まで状況が変わらなければ、だ」


「はい」


そこはレオンも理解している。

魔獣の活性化が急激に進めば。

二年を待たずに動かなければならない可能性もある。

だから調査を続ける。

異常があれば、すぐに情報を共有する。


「定期的に情報交換をしましょう」


レオンが提案する。


「ノルディア側で魔獣の動きに変化があれば、すぐ帝国へ報告します。帝国側でも何か分かれば知らせていただきたいです」


「もちろんだ」


ジークハルトは頷く。


「今日結んだ条約の第五条もある。定期協議の最初の議題は、当分バルド山脈になりそうだな」


「そうですね」


レオンは小さく笑った。

その時、コンコンと会議室の扉が叩かれた。


「入れ」


ジークハルトが答える。

扉が開き、一人の文官が入ってきた。


「失礼いたします」


文官は深く一礼する。


「ジークハルト第一皇子殿下。歓迎の宴の準備が整いました」


「もうそんな時間か」


ジークハルトが窓の外を見る。

すでに太陽はほとんど沈み。

帝都の空は深い藍色へ変わり始めていた。


「父上は?」


「既に会場へ向かわれております」


「分かった」


ジークハルトは立ち上がった。

ルーカス、クニヒロ、ラメセスも続いて席を立つ。

レオンも立ち上がり、もう一度机の上に広げられた地図を見る。


大規模討伐。


二年の猶予。


避難場所の建設。


両国による混成部隊。


利益の分配。


まだ決めなければならないことはいくらでもある。

だが、大きな一歩は踏み出せた。


「レオン」


ルーカスから呼ばれる。


「ああ?」


「行くぞ」


「ああ」


地図から視線を外し、ルーカスの後を追う。

すると、ルーカスが歩きながら横目でレオンを見る。


「ところで」


「何だよ」


「本当に寝坊したんだな」


「まだ言うのかよ!」


「俺は最初から言った」


「宴には間に合ってるだろ!」


「ミコトに起こしてもらったのか?」


レオンの足が一瞬止まった。


「……」


ルーカスも止まる。

そして、レオンを見る。


「何だ、その反応」


「何でもない」


「怪しいな」


「何でもないって」


「兄貴」


「巻き込むな!」


少し前を歩いていたジークハルトが振り返る。

レオンは嫌な予感がした。

ジークハルトは一瞬だけレオンを見る。

そして、何も知らないはずなのに、僅かに笑った。


「宴に遅れるぞ」


「ほら! 行くぞ、ルーカス!」


レオンは話を打ち切るように歩き出した。

その後ろを、怪訝そうな顔をしたルーカスが追ってくる。

重い話をしていた会議室を離れ。

一行は皇帝主催の歓迎の宴へ向かった。


今夜は、帝国とノルディアが新たな友好関係を結んだことを祝う宴。

そしてレオンにとって、帝都で過ごす夜の中でも、忘れられない一夜が始まろうとしていた。

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