↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第8章 帝国の大和撫子と英雄の末裔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

312/370

第284話 歓迎の宴へ

「やばっ!」


レオンは布団から飛び出すと、慌てて窓の外を確認した。

朝には高く昇っていた太陽はすでに西へ傾き、帝都の街並みを赤く染め始めている。どう考えても、少し眠るつもりだった時間ではない。


「何で起こしてくれなかったんだよ!」


髪を整えながらミコトを見ると、彼女は同じ布団の上で何事もなかったように座っていた。


「私も眠ってしまいましたので」


「一緒に寝てた奴が言うことじゃないだろ!」


「とても心地よくございました」


「そういう問題じゃない!」


ミコトは楽しそうに小さく笑っている。

レオンはため息を吐きながら立ち上がり、宴へ向かうため着替えようとして動きを止めた。


「……ミコト」


「はい」


「着替えるんだけど」


「どうぞ」


「出てってくれ」


「お手伝いいたします」


「いいから出てってくれ!」


「残念でございます」


本当に残念そうな顔をしながら、ミコトは立ち上がる。


「では、私も宴の支度をしてまいります」


「ああ」


襖の前まで歩いたミコトが、ふと足を止めた。


「レオン様」


「何だ?」


「先ほどのことは、ご内密にお願いいたします」


「当たり前だろ。俺だって変な誤解されたくない」


「私としては、誤解していただいても構わないのですが」


「俺が困るんだよ!」


「ふふっ」


ミコトは楽しそうに笑いながら襖を閉めた。

一人になったレオンは大きく息を吐く。


「……本当に調子狂うな」


だが、ゆっくりしている時間はない。

急いで宴用の正装へ着替え、乱れた髪を整える。顔を洗って眠気を飛ばし、鏡の前で最低限の身だしなみを確認した。


「よし」


何とか間に合いそうだ。

その時だった。

コンコンと襖が叩かれる。


「レオン様」


聞こえてきたのはスルガ家の侍女の声だった。


「ジークハルト第一皇子殿下がお見えになられました」


「もう来たのか!?」


「はい。玄関にてお待ちでございます」


「すぐ行く!」


レオンは上着を整えると、急いで客室を出た。

スルガ邸の玄関へ向かう途中、廊下の先から一人の少女が歩いてきた。

レオンの足が自然と止まる。


「……」


ミコトだった。

だが、先ほどまでとは装いが違う。

漆黒の振袖には金と赤の糸で美しい花々が刺繍され、歩くたびに夕日を受けて静かに輝いている。深紅の帯が細い腰を引き締め、艶やかな黒髪は美しく結い上げられていた。そこには一本の金色の簪が差され、歩くたびに僅かに揺れている。

昨日見た白を基調とした着物姿とは、また違った印象だった。


「お待たせいたしました、レオン様」


「ああ……」


レオンは思わずミコトを見る。


「どうかなさいましたか?」


「いや」


少し迷ってから、素直に口にする。


「綺麗だなと思って」


「……」


ミコトが止まった。

先ほどまでの余裕のある表情が一瞬だけ消える。


「……ありがとうございます」


僅かに頬を赤くしながら頭を下げた。

その反応を見て、今度はレオンが少し意外そうな顔をする。


「何だよ。普通に照れるんだな」


「私も乙女でございますので」


「さっきまで俺と同じ布団で寝てた奴の台詞とは思えないな」


「ただ隣で眠っていただけでございます」


「起きた時に『激しゅうございましたね』とか言ったのは誰だよ」


「冗談でございます」


「真顔で言われたこっちは本気で焦ったんだぞ」


「ふふっ」


ミコトが楽しそうに笑う。


「まあいい。急ごう。ジークハルト第一皇子殿下を待たせてる」


「はい」


二人は並んで玄関へ向かった。

玄関へ到着すると、既にジークハルトが待っていた。

その傍らには数名の近衛兵が控えている。

当然ながら、昨日私的に話していた時とは空気が違った。

ジークハルトも宴へ出席するため、帝国皇族としての正装に身を包んでいる。整えられた銀髪に、翡翠色の瞳。そこにいるのは、次期皇帝と目される帝国第一皇子だった。

レオンも足を止め、姿勢を正す。


二人は既に、私的な場では「ジーク」「レオン」と呼び合うことを許し合っている。

とはいえ、それも昨日、別れ際に交わしたばかりの話だ。

まして今は近衛兵やスルガ家の者達がいる正式な場。

二人とも自然と互いの立場に合わせた話し方へ戻る。


「お待たせいたしました、ジークハルト第一皇子殿下」


レオンが頭を下げる。


「いや、こちらも少し早く到着した。気にする必要はない、レオン・ノルディア辺境伯」


そう答えたジークハルトが、レオンの顔をじっと見る。


「……」


「何でしょうか?」


「いや」


ジークハルトの翡翠色の瞳が僅かに細くなる。


「随分とよく眠れたようだな」


「……」


レオンの表情が固まった。

隣にいるミコトが僅かに顔を伏せる。

肩が震えていた。

笑ってやがる。


「……おかげさまで」


「そうか」


ジークハルトの口元が僅かに緩む。


「ルーカスの予想通りだったようだな」


「……殿下」


「何だ?」


「ルーカス第二皇子殿下には、その件をお伝えにならないでいただけますか?」


「何故だ?」


「一生言われ続ける気がいたしますので」


「それは無理だろう」


即答だった。


「何でですか!」


「俺が言わなくとも、お前の顔を見ればルーカスなら気づく」


「そんなに分かりやすいですか!?」


「少なくとも、今の反応を見れば確信するだろうな」


レオンは額へ手を当てる。

もう駄目かもしれない。

皇城へ着いた瞬間、ルーカスから何を言われるのか容易に想像できた。

ジークハルトは小さく笑うと、すぐに第一皇子としての表情へ戻った。


「では、そろそろ向かおう。父上を始め、帝国の重臣達も既に集まり始めている」


「はい」


レオンも頷く。

だが、歩き始めようとしたジークハルトへ声を掛けた。


「ジークハルト第一皇子殿下」


「何だ?」


「宴の前に、少しお時間をいただけませんでしょうか」


ジークハルトの足が止まった。

先ほどまで浮かんでいた僅かな笑みが消える。

わざわざ宴へ向かう直前に時間を求めた。

ただの雑談ではないことを理解したのだろう。


「重要な話か?」


「はい」


レオンは頷いた。


「先日お話しした、バルド山脈の魔獣の活性化についての話です」


「……あの件か」


ジークハルトの翡翠色の瞳が僅かに細くなる。

以前、ジークハルト本人から聞いた話だった。

帝国側のバルド山脈でも、ここ最近、魔獣の動きがおかしくなっている。

山奥にいるはずの魔獣が麓へ姿を現すようになり、縄張り争いも増えている。討伐しても別の群れが現れ、以前とは明らかに様子が違う。

そして、同じ異変がノルディア側でも起きている。


「今後の対応について、帝国側と話しておきたいことがあります」


「なるほどな」


ジークハルトは少し考え、静かに頷いた。


「分かった」


「ありがとうございます」


「だが、立ち話で済ませる内容ではなさそうだな」


「はい」


ジークハルトは近衛兵の一人へ視線を向ける。


「皇城へ戻り次第、会議室を用意させろ」


「はっ!」


近衛兵が頭を下げる。


「それと、ルーカスを呼べ」


「承知いたしました」


さらにジークハルトは少し考える。

バルド山脈で大規模な異変が起きている以上、皇族だけで決められる話ではない。

今後、大規模な討伐が必要になれば、実際に帝国軍を動かす者達の意見も必要になる。


「スルガ将軍にも出席してもらう」


その言葉に、ミコトが僅かに目を見開いた。


「父上もでございますか?」


「ああ」


ジークハルトは頷く。


「それと、アメラン将軍にも声を掛ける」


帝国を代表する二つの将軍家。

スルガ家とアメラン家。

その両方の当主を呼ぶ。

それだけで、ジークハルトがこの話をどれほど重く受け止めているのかが分かった。


「宴の開始まで、それほど時間はない」


ジークハルトはレオンを見る。


「簡単な話では済まないかもしれんぞ?」


「承知しております」


レオンは真っ直ぐ答える。

むしろ、そのために帝国まで来たのだ。

和平条約を結ぶ。

それだけでは足りない。

未来に起こるバルド山脈の大氾濫。

原作『ノルドレア・ロワイヤル』では、主人公エリシアが学園三年生の時に発生する大災害だった。

今の時間軸から考えれば、まだ約四年ある。

原作通りなら、まだ時間はある。

だが、レオンは既に原作にはなかった出来事をいくつも起こしている。


怪しい商人、クロエを専属商人にし、ノルディアを発展させ。


教国やフェルナード領との繋がりを作り。


そして今日、帝国との新たな友好条約まで結んだ。


この世界はもう、レオンが知るゲームと同じ道を歩んでいるとは限らない。

まして、魔獣の活性化という前兆は既に始まっている。

原作通り四年後に起こる。

そんな保証はどこにもない。

だからこそ、今から動かなければならない。

レオンは小さく息を吐く。


「行きましょう」


「ああ」


ジークハルトが頷いた。

三人はスルガ邸を出る。

外には、帝国皇室の紋章が刻まれた馬車が待っていた。

夕暮れに染まり始めた帝都。

その先には白亜の皇城が聳えている。

今夜、そこでレオンを歓迎する宴が開かれる。

だが、その前に話さなければならないことがあった。

バルド山脈で起こり始めている異変。

そして、その先に待っているかもしれない、大氾濫についてだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。