間章 鍛えるべき力(前編)
滞在から10日が過ぎたころ
早朝は帝国式剣術
昼は領主代行としての政務
たまに夜はルーカスとの魔術を用いた訓練
をしていた
朝は訓練場で汗を流し、昼は執務室で書類に埋もれる
その間、ルーカスは帝国使節団とノルディア騎士団の合同訓練に参加していた
そして夜二人は再び訓練場へ姿を現す
「行くぞ」
ルーカスが木剣を構える
その瞬間剣に風が纏わりついた
青白い風が刃を包み込む風属性付与
ルーカスの得意とする戦い方だった
「来い」
レオンも木剣を構える
今はまだ氷属性は使わない
優先すべきものがある
次の瞬間ルーカスが踏み込んだ
ルーカスの速度は風属性の身体強化により格段に速い
だがレオンは未来が見える
魔眼に魔力を流した
ほんの一瞬先未来を見たのだ
「右上からの斬撃」
レオンは身体強化を発動した。
脚へ魔力を流し地面を蹴る
風を纏った木剣が鼻先を通過した
「避けたか」
「危なかった」
「今のでか?」
基準がおかしい
ルーカスは再び踏み込んだ
今度は横薙ぎの未来が映る
左を半歩後ろに避けたのだが頬を掠めた
「っ!」
未来は見えた、それでも完全には避け切れない
「遅いな」
ルーカスが言う
「分かってる」
レオンは息を吐いた
未来予知の魔眼は万能ではない
見えた未来を回避できる身体がなければ意味がない
だからこそ今は氷属性よりも身体強化を鍛えている
「氷は使わないのか?」
不意にルーカスが尋ねた
「使えるんだろう?」
レオンは頷く
「ああ」
グラニウスから受け継いだ氷属性を使おうと思えば使える
「まだ使わない」
「なぜだ?」
レオンは少し考えたそして正直に答える
「優先順位の問題だ」
ルーカスは黙って聞いていた
「氷魔法を覚えても死ねば意味がない」
夜風が吹く訓練場に静寂が落ちる
(未来が見えても避けられなければ意味がない)
「魔法を覚えても発動前に斬られたら意味がない、今は身体強化と回避を優先する」
それがレオンの結論だった
父を救えなかった
準備が足りなかった
だからもう同じ失敗は繰り返さない
まず生き残る全てはそこからだ
ルーカスはしばらく黙っていた
やがて小さく笑う
「なるほど、お前らしいな」
帝国ならまず攻撃を学び強くなる
だがレオンは違う
まず負けないことを考える
生き残ることを考える
それは辺境を治める者らしい発想だった
「だが」
ルーカスが木剣を肩に担ぐ
「その考えは嫌いじゃない」
レオンは苦笑した
「褒め言葉として受け取っておく」
「そうしろ」
そしてルーカスは再び木剣を構えた
「続けるぞ」
嫌な予感がした
「待て」
「次は風刃も使う」
「待てと言った」
レオンの言葉をルーカスは聞いていない
ルーカスが剣を振るう
風が唸り青白い刃が夜空を裂いた
「うおっ!?」
未来が見える
右さらに後ろ
身体強化をし全力回避した
風刃がレオンの横を通り過ぎる
背後の訓練用人形が真っ二つになった
「危ないだろ!」
「避けられたな」
「避けられなかったらどうするつもりだった?」
「鍛錬不足だ」
やはり基準がおかしい
その後も訓練は続いた
風を纏う帝国皇子
未来を見て避ける辺境伯の息子
何度も何度も剣を交える
そして訓練が終わった頃
二人は訓練場の端へ腰を下ろしていた
夜風が心地良い
「レオン」
「なんだ?」
「明日は休みだったな」
嫌な予感がした
「ああ」
するとルーカスは当然のように言った。
「ボアを狩りに行くぞ」
レオンは空を見上げた。
予知の魔眼がなくても分かる断っても無駄だ
「分かったよ」
そう答えるとルーカスは満足そうに笑った




