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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第2章 新しい領主と第二皇子

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間章 鍛えるべき力(前編)

ルーカスがノルディアへ滞在するようになってから、十日が過ぎていた。


その間、レオンは毎日、慌ただしい時間を過ごしていた。

早朝はルーカスから帝国式剣術の指導を受け、昼は辺境伯代行として政務を行う。

そして時折、夜になると再び訓練場へ向かい、ルーカスと魔術を用いた実戦形式の訓練を行っていた。


朝は訓練場で汗を流し、昼は執務室で大量の書類に埋もれる。

レオンが政務を行っている間、ルーカスは帝国使節団とノルディア騎士団の合同訓練へ参加していた。


そして、その日の夜。

二人は再び、静かな訓練場で向かい合っていた。


「行くぞ」


ルーカスが木剣を構える。

その瞬間、青白い風が木剣の刃を包み込んだ。


風属性付与。


剣に風を纏わせ、斬撃の速度と威力を高める、ルーカスが得意とする戦い方だった。


「来い」


レオンも両手で木剣を構えた。

レオンはすでに、父グラニウスから受け継いだ氷属性を使うことができる。

しかし、今はまだ氷属性を使うつもりはなかった。

それよりも、優先して身につけなければならないものがある。


次の瞬間、ルーカスが地面を蹴った。

風属性の身体強化によって、その速度は魔力を使わない時よりも格段に上がっている。

一瞬で間合いを詰められれば、普通の人間では剣を構えることすらできない。


だが、レオンには未来が見える。


右目へ魔力を流し、【未来予知の魔眼】を発動する。


脳裏に、ほんの一瞬先の光景が映し出された。


右上から迫る、ルーカスの斬撃。


「右上から……」


レオンは即座に身体強化を発動した。両脚へ魔力を流し、地面を強く蹴る。


直後、風を纏った木剣が、レオンの鼻先を通過した。


あと僅かでも反応が遅れていれば、顔へまともに受けていただろう。


「避けたか」


「危なかった……」


「今のでか?」


ルーカスが不思議そうに問い返す。

やはり、基準がおかしい。

しかし、レオンが何かを言い返す前に、ルーカスは再び踏み込んでいた。

今度は、横薙ぎの斬撃が迫る未来が映る。

レオンは左足を半歩後ろへ引き、身体を反らして回避した。

だが、完全には避けきれなかった。

風を纏った木剣が、レオンの頬を僅かに掠める。


「っ!」


鋭い痛みが走り、頬に細い傷が刻まれた。

未来は見えていた。

どこから攻撃が来るのかも分かっていた。

それでも、身体が追いつかず、完全には避けきれない。


「遅いな」


ルーカスが告げる。


「分かってる」


レオンは一度距離を取り、乱れた呼吸を整えた。

【未来予知の魔眼】は、決して万能ではない。

未来を見ることができても、その未来を変えられるとは限らない。

攻撃が来ると分かっていても、それを回避できるだけの身体能力がなければ意味がない。

だからこそ、レオンは氷属性の訓練よりも、身体強化と回避能力を鍛えることを優先していた。


「氷は使わないのか?」


不意に、ルーカスが尋ねた。


「使えるのだろう?」


レオンは頷く。


「ああ」


父から受け継いだ氷属性を、使おうと思えば使える。


「だが、まだ使わない」


「何故だ?」


レオンは少し考えた後、正直に答えた。


「優先順位の問題だ」


ルーカスは口を挟まず、レオンの話へ耳を傾ける。


「氷魔法を覚えても、死んだら意味がない」


冷たい夜風が訓練場を吹き抜け、二人の間に短い沈黙が落ちた。

未来が見えても、避けられなければ意味がない。

どれほど強力な魔法を使えても、発動させる前に殺されれば何の役にも立たない。


「魔法を覚えても、発動する前に斬られたら意味がない。だから、今は身体強化と回避を優先する」


それが、レオンの出した結論だった。

父を救えなかった。

知識も、時間も、準備も足りなかった。

だから、もう同じ失敗は繰り返さない。

まずは、生き残る力を身につける。

全ては、そこからだった。


ルーカスはしばらく黙ってレオンを見つめていたが、やがて小さく笑った。


「なるほど。お前らしいな」


帝国の人間であれば、まず攻撃するための技術を学び、敵を倒す力を求める。誰よりも強くなり、正面から相手を打ち破ることを考える。

だが、レオンは違った。

まず負けないことを考え、生き残ることを優先する。

敵を倒す力だけではなく、次の戦いへ繋げるための力を求めている。

それは、常に領地と領民を守る方法を考えているレオンらしい発想だった。


「だが――」


ルーカスは木剣を肩へ担いだ。


「その考えは嫌いじゃない」


レオンは僅かに苦笑する。


「褒め言葉として受け取っておく」


「そうしろ」


ルーカスはそう答えると、再び木剣を構えた。

青白い風が、木剣の周囲へ集まり始める。


「続けるぞ」


その様子を見たレオンは、嫌な予感を覚えた。


「待て!」


「次は風刃も使う」


「待てと言った!!」


しかし、ルーカスはレオンの言葉を聞いていなかった。

風を纏った木剣を、横へ大きく振るう。

風が鋭く唸り、木剣から放たれた青白い刃が夜空を切り裂いた。


「うおっ!?」


レオンの右目が、攻撃を受ける直前の未来を映し出す。


右へ。

さらに後ろへ。


レオンは全身へ身体強化を施し、地面を蹴って全力で飛び退いた。

直後、青白い風刃がレオンの横を通り過ぎる。

そのまま背後に置かれていた訓練用の人形へ命中し、胴体を真っ二つに切断した。

上半身を失った人形が、僅かに遅れて地面へ倒れる。

レオンは、その光景を見て顔を引きつらせた。


「危ないだろ!」


「避けられたな」


「避けられなかったら、どうするつもりだった?」


「鍛錬不足だ」


ルーカスは、当然のように答えた。

やはり、基準がおかしい。

それからも、二人の訓練は続いた。

風属性を纏い、圧倒的な速度で攻め続ける帝国の皇子。


【未来予知の魔眼】で攻撃を読み、身体強化を使って必死に避け続ける辺境伯家の少年。

夜の訓練場に、木剣がぶつかる音と、風の斬撃が空気を切り裂く音が何度も響いた。


そして、訓練を終える頃には、二人とも訓練場の端へ並んで腰を下ろしていた。

火照った身体を撫でる夜風が心地よい。

レオンが乱れた呼吸を整えていると、隣に座るルーカスが不意に名前を呼んだ。


「レオン」


「何だ?」


「明日は休みだったな」


その一言を聞いた瞬間、レオンは再び嫌な予感を覚えた。


「ああ」


ルーカスは、当然のように言った。


「ボアを狩りに行くぞ」


レオンは答える前に、夜空を見上げた。

【未来予知の魔眼】を使わなくても分かる。

断っても、どうせ無駄だ。


「分かったよ」


レオンが諦めて答えると、ルーカスは満足そうに笑った。

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