第26話 皇子の旅立ちの日
ノルディア領の朝の空は雲一つない快晴だった
辺境伯家の正門前には帝国の馬車が停まっている
護衛達も既に出発準備を終えていた
そしてその中央にはルーカス・ヴァルハイトが立っていた
銀髪が朝日に照らされている
三週間長いようで短い滞在だった
レオンも見送りに来ていた
ガレスやゼム更に騎士達も並んでいた
帝国第二皇子を見送るためだ
「世話になった」
ルーカスが言う
彼の言葉はそれだけだった
だが彼なりの感謝だった
レオンもそれは分かっている
「こっちもな」
レオンも短い言葉で返した
二人はそれで十分だった
しばらく沈黙が流れやがてルーカスが言った
「剣は続けろ」
「言われなくても続ける」
「そうか」
翡翠色の瞳がレオンを見る
「次に会う時は負けん」
レオンは思わず笑った
来た時の試合や訓練を思い出した
レオンはルーカスに一度も一撃を入れる事は出来なかった
「それは俺の台詞だ」
ルーカスも少しだけ笑う
初めて会った時より自然な笑みだった
「レオン」
「何だ?」
ルーカスは少し考えたそれは珍しかった
「お前は戦神とは違う」
レオンは黙り話を聞く
「だが、お前のやり方は嫌いじゃない」
風が二人を撫でる様に吹いた
「そうか」
レオンはそれだけ答えた
帝国の剣と呼ばれる未来の攻略対象
ゲームでは敵国になる国の第二皇子
だが少なくとも今は違う
ルーカスは既に仲間だった
「何かあれば呼べ」
レオンが顔を上げルーカスは腕を組んだ
「貸し一つだ」
グレイムベアの救助
訓練の数々
騎士団改革の同行
色々あった
「あぁ覚えておく」
レオンは頷きルーカスも頷く
そして馬車へ向かった
「出発する」
帝国兵達が動き出した
馬車がゆっくり進む
しかしルーカスは最後まで振り返らなかった
だが馬車が見えなくなる直前に窓から手だけが上がる
レオンは思わず笑った
「子供か」
ガレスも苦笑する
「まだ十一歳ですからな」
帝国使節団の姿が見えなくなる
静かな風が吹いた
レオンはしばらくその方向を見つめていた
二人の三週間は長いようで短い時間だった
剣を交え
窮地を救い
共に戦い
共に笑った
不思議な縁だった
「ぼっちゃま…」
ゼムが声を掛けレオンは振り返った
「帰るか」
「はい」
辺境伯家へ向かって歩き出しそれに騎士達も続いた
守るべき領地がある
やるべき仕事がある
助けたい人も居る
まだまだ忙しい日々は終わらない
だが以前より少しだけ前を向けている気がした
父を救えなかった後悔は消えない
それでも立ち止まっているわけにはいかない
空を見上げると青空が広がっていた
そして静かに歩き出す
それは未来に向かって進んでいる様だった
やっと第2章が終わりました
長々とヒロインを出さずにすいません
もう少しお待ちください




