第245話 帝国の親書と教皇の親書
翌朝 ノルディア邸の執務室
レオンは机へ向かい書類へ目を通していた
コンコンと静かなノックが響く
「入れ」
扉が開き 一人の兵士が敬礼する
「失礼いたします 帝国より使者がお見えです 辺境伯閣下へ親書を預かっているとのことです」
レオンは顔を上げた
「帝国からか」
「はい」
ゼムも静かに顔を上げる
「応接室へ案内してくれ」
「はっ」
兵士は一礼し退室した
レオンは席を立つ
「行こう」
「かしこまりました」
レオン達は応接室へ入ると
帝国軍の制服を纏った兵士が姿勢良く立っていた
レオンが入室すると兵士は胸へ拳を当て敬礼する
「ノルディア辺境伯閣下 ヴァルハイト帝国第一皇子 ジークハルト殿下より親書を預かっております」
兵士は一通の封筒を差し出した
封には帝国皇室の紋章が刻まれている
レオンは受け取ると椅子を示した
「座ってくれ」
兵士は姿勢を崩さず答えた
「いえ このままで大丈夫です 任務中でありますので」
「そうか」
レオンは無理には勧めず その場で封を切った
親書には丁寧な文字でこう綴られていた
―――
レオン・ノルディア辺境伯閣下
先日の和平では大変お世話になりました
改めて感謝申し上げます
この度 王国と帝国の和平条約につきまして 正式な調停式を執り行う準備が整いました
つきましては ご多忙とは存じますが ご出席いただければ幸いです
また 公平を期すため 教国へ調停の立会人をお願いしております
当初はセリオス枢機卿がご同行くださる予定でしたが 体調が優れないため代理の方がお越しになると伺っております
代理の方につきましては 教国より改めてご説明があるかと思います
当日 再びお会いできることを楽しみにしております
ヴァルハイト帝国第一皇子 ジークハルト・ヴァルハイト
―――
読み終えたレオンは静かに封筒を閉じた
帝国兵は再び敬礼した
「親書は確かにお届けいたしました それでは失礼します」
「ご苦労だった」
帝国兵は踵を返し応接室を後にした
帝国兵が出ていくとクロエが尋ねる
「何て書いてあったの?」
「王国と帝国の和平条約を正式に結ぶ調停式を行う準備が整ったそうだ」
クロエは嬉しそうに笑う
「いよいよなんだね」
「ああ」
レオンは小さく頷いた
「それと教国にも立会人を頼んだらしい 本当はセリオスさんが来る予定だったみたいだが 体調が優れなくて代理が来るそうだ」
ゼムが腕を組む
「セリオス様は来られないのですか少し 少々心配ですね」
「ああ あの人の事だ 誰彼構わず助けて魔力侵食症が進行したかもしれない」
レオンも苦笑する
「あの人なら安心して任せられたんだがな」
クロエが首を傾げる
「代理って誰なんだろう?」
「それは教国の方から説明があるらしい その時には分かるだろう」
部屋には再び静寂が戻った
三人は帝国の机の上の密書を見つめていた
その頃ノルディア邸の客間にエミルは窓際へ立ち静かに庭を眺めていた
コンコンと扉が叩かれる
「はい……どうぞお入り下さい」
扉が開き 一人の若いシスターが入室した
「失礼いたします エミル副団長」
エミルは微笑む
「教国からの長旅お疲れ様です それでどうかしましたか?」
シスターは一礼し二通の封筒を差し出した
「教皇フランシス様より親書を預かっております そしてこちらはセリオス枢機卿様よりお手紙です」
エミルは少し驚きながら受け取った
「教皇様からですか?」
「はい それでは私は失礼いたします」
シスターは一礼すると
静かに客間を後にした
エミルは最初に教皇の親書を開く
―――
エミル副団長
この度 王国と帝国の和平条約調停式において教国代表として貴女を派遣します
本来であればセリオス枢機卿へ任せる予定でした
しかし 今回は私の判断により 貴女へ代行を命じます
レオン・ノルディア辺境伯閣下を護衛し帝国の帝都へ行って下さい
日程を計算し宿や食料の段取りはしてあります
それと エミル副団長が現在ノルディアでの職務につきましては 教国より手紙を託したシスターに引き継ぎを行いますので 心配には及びません
教国代表として恥じぬ振る舞いを期待しております
教皇 フランシス・セレスティア
追記 お願いになりますがレオン辺境伯閣下と教国との友好をより確固たるものとするため
エミル副団長にはレオン辺境伯閣下との親交を深め
“祝福の宝玉”を授かることを願います
―――
「えっ……」
エミルは思わず声を漏らした
自分が帝国へ派遣される
レオンと共に そこまでは理解できた
だが視線は最後の追記で止まる
―――
“祝福の宝玉”を授かることを願います
―――
「えぇっ!?」
頬が一気に赤く染まる
「こ これは……」
最後まで口にできず 両手で顔を覆った
「教皇様が……そんなお願いまで……?」
しばらくその場で固まっていたが 深呼吸を一つして気持ちを落ち着かせる
「つ……次はセリオス様ですね」
エミルはもう一通の封筒を開いた
―――
エミルさん
急なお願いとなってしまい申し訳ありません
今回は教皇様のご判断により
私の代わりに調停へ向かっていただくこととなりました
後からのお願いになりますが 私の代わりにレオン辺境伯閣下の護衛をお願いいたします
レオンさんは責任感が強く
何でも一人で抱え込もうとする方です
どうか支えてあげてください
よろしくお願いいたします
セリオス・セラフィス
―――
読み終えたエミルは優しく微笑んだ
「セリオス様らしいですね」
命令ではなく
自分を信じて任せてくださった
その気持ちが伝わってくる
エミルは二通の手紙を大切に封筒へ戻した
「分かりました 教国代表として そしてセリオス様の代わりとしてレオン君は私がお守りします」
そう呟き客間を後にした
レオンへ報告するため 執務室へ向かって歩き始めた
その頬はまだ ほんの少し赤く染まっていた




