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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第8章 帝国の大和撫子と英雄の末裔

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第243話 それぞれの旅立ち

長かった冬も終わりを迎えようとしていた

ノルディア邸の庭に積もっていた雪は少しずつ溶け始め

冷たかった風にもどこか春の暖かさが混じり始めている

新しい季節の訪れ

それは新たな出会いだけではない

別れの季節でもあった

ノルディア邸の正門には一台の竜車が停まっていた

荷台には丁寧に積まれた荷物

その横ではフェルナード家の使用人達が出発の準備を進めている


今日 フローラはフェルナード領へ帰る

そして数ヶ月後には王都へ向かい 王国学園へ入学する予定だった

門の前にはレオン クロエ ゼムの三人が見送りに来ている

フローラは三人へ向き直るとスカートの裾を摘み優雅に一礼した


「それでは 行ってまいります」


その姿はノルディアで見せていた素の表情ではなく

フェルナード伯爵家の令嬢としてのフローラだった

クロエは少し寂しそうに微笑む


「来月から学園生活だね」


「はい……少し緊張しております」


フローラは穏やかな笑みを浮かべた


「ですが 新しい出会いがあると思うと楽しみでもあります」


クロエも笑顔で頷く


「僕も来年からだから少し羨ましいな」


フローラは優しく微笑んだ


「クロエさんは今年で十五歳になられますものね」


「うん!そうだよ 今年の成人の日に魔力測定を受けないといけないんだ」


王国では十五歳の成人の日になると

全ての国民へ魔力測定が行われる

そして魔力を持つ者は身分に関係なく 翌年から王国学園へ入学する決まりとなっていた

貴族 平民 商人 騎士 その立場に違いはない

魔力を持つ者は皆 学園で学ぶ

ただし例外も存在する

それは既に領地を治める領主や 家督を継ぎ 当主として政務を執る者だった

領地を長期間離れることは難しく

学園への入学は免除される

レオンもその例外に当たる

ノルディア辺境伯として 既に領地を治めている以上 王国学園へ通うことはない

クロエは少しだけ残念そうに笑った


「レオンも一緒だったら楽しそうだったのにね」


レオンは苦笑し答える


「領主だから仕方ない 俺は学園へ通ってる暇はないからな」


フローラは小さく頷いた


「領民を守ることがレオン様のお役目ですもの……ですがグラニウス様がご懸命なら きっと皆様も安心して送り出してくださると思いますよ……少し寂しいですが……それでも……」


フローラは柔らかく微笑む


「来年は私がクロエさんが御入学なさいますので その時はご案内いたします」


クロエは嬉しそうに目を輝かせた


「本当?」


「ええ 一年だけですが先輩ですから」


「じゃあ楽しみにしてる」


「はい」


二人は笑顔を交わした

レオンはそんな二人を見て小さく頷いた


「二人が一緒なら安心だな」


フローラは不思議そうに首を傾げる


「安心……ですか?」


「ああ」


レオンは静かに答えた


「黒マントがいつ動くか分からない」


その一言で その場の空気が少しだけ引き締まる

クロエも真剣な表情になった

黒マントの人物はクロエ誘拐事件 そしてフェルナード領での誘拐事件

どちらにも関わっていた謎の人物 未だその全貌は掴めていない


「流石に王族や上位貴族も通う王国学園で騒ぎは起こさないと思うが……絶対とは言い切れない 二人が一緒に行動してくれれば俺も安心できる」


クロエは力強く頷く


「うん フローラのことは僕が守るよ」


フローラも微笑み返した


「ありがとうございます ですが 私もクロエさんをお守りいたします お互い助け合いましょう」


「ああ 頼んだ」


「「はい」」


フローラは改めてレオンへ向き直る


「レオン様 冬の間 本当にありがとうございました 氷魔法だけではなく 領地運営まで学ばせていただきました 私にとって一生忘れられない冬になりました」


レオンは静かに頷く


「いや 俺も助かった それとフェルナード伯爵にもよろしく伝えてくれ」


「承知いたしました」


フローラは小さく息を吸う


そして一歩前へ出た


「レオン様……最後に一つだけよろしいでしょうか?」


「ああ」


レオンが頷くとフローラはそっと右手を差し出した


「?」


レオンは不思議そうにその手を見る

何かを渡すのかと思い 意識が差し出された手へ向いた

その瞬間 フローラは素早く一歩踏み出す


チュッ と柔らかなフローラの唇の感触がレオンの頬へ触れた


「……え?」


レオンは間抜けな声と共に目を見開く


「なっ!」


クロエは思わず変な声を上げた

フローラは頬を真っ赤に染め 恥ずかしそうに微笑む


「お礼です……それでは失礼いたします!」


そう言い残すと そのまま竜車へ向かって駆け出した


「フローラ様!」


使用人が慌てて扉を開ける

フローラは逃げるように馬車へ飛び乗った

扉が閉まり 御者が手綱を握る

ゆっくりと馬車が動き始める

窓から顔を覗かせたフローラはまだ真っ赤な顔のまま大きく手を振っていた


「それでは皆様 またお会いいたしましょう!」


クロエは我に返る


「二度と来るなー!」


その叫びにフローラは目を丸くした

だがすぐに嬉しそうに笑う


「いえ また来ます!」


竜車はゆっくりとノルディア邸を離れていく


「来るなー!」


クロエの叫びだけがいつまでも春空に響いていた

レオンは自分の頬へそっと手を当てる

キスをされた場所を指先で軽く擦り 小さく呟いた


「最後までお転婆聖女だったな」


その呟きは誰にも聞こえることなく

春風の中へ溶けていった

やがて竜車は見えなくなる

ノルディア邸には再び静けさが戻った


ゼムが一歩前へ出る


「ぼっちゃま 午後よりクロエ殿より決算報告がございます これまで全事業の収支をご確認頂きます」


レオンは頷いた


「ああ 分かった」


ボア肉事業

回復薬事業

保温箱

帝国との交易

積み重ねてきた全ての成果が今日 一つの数字となって現れる

三年前 レオンが掲げた一つの目標

"悪役令嬢クラリス"を救うための資金 金貨二万枚


(必ず……助ける)


レオンはそう心に決めフローラの乗った馬車を見送るのだった

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