第24話 帝国の剣の評価
レッドボア討伐から三日後
ノルディア騎士団の空気は明らかに変わっていた
訓練場では新人達の声が響き以前より表情が明るくなった
恐怖だけで剣を振るっていた頃とは違う
生き残れる
成長できる
そんな実感が生まれていた
そして何より討伐後に死者の報告がなかった
それは騎士達にとって想像以上に大きかった
執務室でレオンは今日も書類と格闘していた
討伐報告
街道補修
備蓄確認
薬草栽培の進捗
山積みの書類に目を通し続ける
コンコンと扉が叩かれた
「入れ」
入ってきたのはガレスだった
その顔はどこか嬉しそうだった
「若様」
「どうした?」
「本日の討伐隊の報告です」
そう言って一枚の紙を差し出す
前回は試験的にガレスが指揮をとっていた
だが常時討伐時にはガレスは居ない
普通に運営していくなら討伐隊だけでレッドボアを討伐しなければならない
三日という短いスパンの出動だった事もあり
レオンはボアの戦闘は昼までには帰還しろと命じていた
出された報告書にレオンは目を通した
⸻
レッドボア討伐
討伐数 十四頭
死者 無し
重傷者 無し
軽傷者 二名
⸻
レオンは静かに息を吐いた
「そうか」
その一言だけだった
だがガレスには分かったそれはレオンが安心していることが
「騎士達も驚いております」
「ガレス殿では無い指揮では初めてですから」
隣のゼムが頷い答えた
レオンは苦笑した
「一回で終わりじゃ意味がない、続けてこそだ」
「はい」
ガレスは頷き少し笑った
「ですが新人達は随分喜んでおりました」
レオンは書類へ視線を戻した
「そうか」
だが口元は少しだけ緩んでいた
その日の夕方には訓練場で木剣の音が響いていた
カンッ!
カンッ!
カンッ!
レオンとルーカスが向かい合っている
朝だけでは足りず最近は夕方も稽古をしていた
「遅い」
木剣が弾かれるがレオンは体勢を立て直す
「くっ……」
「考えるな」
ルーカスが踏み込み更なる一撃を放つ
「身体で覚えろ」
再び木剣がぶつかりガキィン!と音と共に衝撃が腕に伝わる
まだ一回も勝てないしかし、二週間前よりは確実に成長していた
ルーカスもそれを理解していた
だから手を抜かない
しばらくして訓練が終わった
二人は木陰へ座り水を飲みながら息を整える
沈黙が流れいた
珍しくルーカスが先に口を開いた
「討伐の話だ」
レオンが顔を上げる
「何だ?」
「騎士達」
ルーカスは遠くの訓練場を見る
新人達が木剣を振っている
その顔は笑顔だった
「顔が変わった」
レオンも新人達を見る
「ああ」
「前は死ぬ覚悟をしていた顔だった」
ルーカスは淡々と言う
「けど今は違う!生き残るつもりの顔だ」
レオンは少し驚いた
ルーカスがそこを見ていたとは思わなかった
「そうかもな」
ルーカスは腕を組みぽつりと言った
「帝国にはいない」
「ん?」
「お前みたいな領主は」
レオンは苦笑する
「褒めてるのか?」
「分からん」
即答だった
レオンは思わず吹き出すがルーカスは真顔だった
本当に分からないらしい
「ただ」
そこで少しだけ言葉を選ぶ
「グラニウス殿とは違う」
レオンの動きが止まる【グラニウス】は父の名前だ
「戦神殿は強かった」
ルーカスは真っ直ぐ言う
「北の戦神は圧倒的にな力で帝国でも知らぬ者はいない」
レオンは黙って聞く
「だが、お前は違う」
レオンは少し苦笑をし答えた
「知ってる」
自分は父上ほど強くない
そんなことは誰より自分が分かっている
だがルーカスは首を振った
「そういう意味じゃない」
レオンが顔を上げる
ルーカスは真っ直ぐレオンを見た
翡翠色の瞳には嘘がなかった
「グラニウス殿は一人で軍だった、だがお前は軍を強くする」
レオンは言葉を失った
ルーカスは続ける
「どちらが上かは知らん」
そこで僅かに笑った本当に僅かに
「ノルディアはお前の方が長く栄えるかもしれない」
風が吹いた、訓練場から新人達の笑い声が聞こえる
レオンは少しだけ空を見上げ父ならどう思うだろうと
そんなことを考えた
そしてレオンは小さく笑う
「そうならいいな」
「ああ」
小さく頷いた
それは【帝国の剣】からの最大級の評価だった
数十年後【帝国の剣】と呼ばれなくなったルーカスの事をレオンはまだ知らなかったのである




