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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
帝国の頭脳と和平条約

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間章 お転婆聖女の恋愛戦略 前編

フェルナード領からノルディア邸へ到着した初日の夜

自室へ案内されたフローラは ベッドへ腰を下ろしながら大きく息を吐いた


「はぁ……」


部屋の中は静かだった

窓の外では冷たい風が吹き 雪を被った木々の枝を小さく揺らしている

暖炉では薪が燃え 時折パチパチと乾いた音を立てていた

フローラはベッドの上で膝を抱える

そして今日一日の出来事を思い返した

ノルディア領へ来ることが決まったのは本当に急だった

冬の間 ノルディア邸で氷魔法を教えてもらえると言う約束を使い

大急ぎで荷物をまとめてフェルナード領を出た

保温箱の影に隠れブロドの商隊に紛れ込んだフローラだったが

それでもレオンは邸の玄関まで出迎えに来てくれた


『久しぶりだな フローラ』


ノルディアの冷たい風が吹いて黒髪を靡かせながら 浮かべたレオンの笑顔

それを思い出しただけで フローラの頬が少し熱くなる


「やっぱり格好良かったな……」


思わず口元が緩む

だが すぐに表情を曇らせた


「でも……」


今日の自分はかなり頑張ったはずだった

馬車を降りた直後 久しぶりに会えて嬉しいと言いながらレオンの腕へ抱きついた

邸の中を案内してもらっている時には 腕を組んだまま身体を寄せて歩いた

夕食の席では 隣へ座って何度も上目遣いで見つめてみた

どれもフェルナード領を出る前に母親 マリナから教えてもらった方法だった


『いい フローラ 男の人っていうのは 少しくらい分かりやすく好意を見せないと気付かないものよ 腕を組んでくっついたり 上目遣いで見つめたりしてみなさい……それでも駄目なら笑顔で褒めれば 大抵の男の人ならこれで意識するから』


自信満々に語っていた母親の姿が頭に浮かぶ

確かにレオンは少し驚いていた

腕へ抱きついた時には僅かに身体を固くしていた

上目遣いで見つめた時には 少しだけ顔を逸らしていた

しかし それだけだった


『長旅で疲れただろ』


『部屋で休んだ方がいいぞ』


そんな言葉を掛けてくれただけだった

いつも通り優しかった

本当にいつも通りだった

フローラはベッドの上で頭を抱える


「全然効いてねーじゃん!」


思わず大きな声が出た

慌てて口を押さえ 扉の方を見る

廊下から足音は聞こえない

誰にも聞かれていないことを確認してから 小さく息を吐いた


「お母さんが大抵の男の人なら効くって言ってたのに……」


フローラは立ち上がり 部屋に置かれた鏡の前へ向かう

鏡の中には 長い青髪と碧い瞳を持つ少女が映っていた

前髪を整えながら自分の顔をじっと見つめる

右を向き左を向くそして少しだけ微笑んでみる


「私は顔は良いはず……なのに なんでよ!」


自分で言うのも変だとは思う

だが 容姿を褒められることは多かった

フェルナード領の住民からも可愛いと言われてきた

フェルナード邸へ来る商人や貴族からも レイモンド伯爵の美しい娘と呼ばれている

養父のレイモンドからも 母親に似た美人だと言われたことがある

別に自惚れているわけではない

客観的に考えた結果だった


「それなのに……」


フローラは鏡へ顔を近付ける


「ちょっと抱きついたくらいじゃ全然駄目だった」


上目遣いも駄目

笑顔で褒めても駄目

腕を組んで歩いても駄目

レオンは少し照れるだけで すぐにいつもの表情へ戻ってしまう


「もしかして私に魅力がないとか……」


そう呟いた直後 フローラは勢いよく首を横に振った


「いや それはない!」


もう一度鏡を見る


「多分ない!」


少し自信が揺らいだ

フローラは腕を組み 部屋の中を歩き回る


「じゃあ 何が駄目なんだろ……」


レオンが鈍いのだろうか

それとも自分の気持ちが全く伝わっていないのだろうか

そもそもレオンは 自分を恋愛の対象として見ていないのかもしれない

そこまで考えた瞬間 胸の奥が少し痛んだ


「それは嫌だな……」


誰にも聞こえないほど小さな声が漏れる

フローラはレオンのことが好きだった

最初は顔だけいいと思っただけだった

領民を守るために命を懸けられる

貴族や平民という身分で人を判断しない

困っている人を見捨てない

自分の利益よりも周囲を優先してしまう

そんなレオンを知るたびに 少しずつ惹かれていった

フェルナード領で共に過ごし

両親が攫われた時には命懸けで助けてくれた

それに気がついたあの時から 自分の気持ちはもう誤魔化せなくなっていた


「折角ノルディアまで来たんだから……」


ただ氷魔法を習って帰るだけでは嫌だった

少しくらい距離を縮めたい

自分のことを意識してもらいたい

フローラは再びベッドへ腰を下ろし 真剣に考え始める

母親から教わった方法は効果が薄かった

ならば もっと強い方法を考えなければならない

腕を組み 目を閉じ 何度も唸る


「うーん……」


そのまましばらく考え続け

突然 フローラは目を開いた


「……そうだ」


ゆっくりと顔を上げる

昼間では駄目だった

周囲にはゼムやクロエやエミルさんもいる

誰かがいる場所では レオンも自分を意識しにくいのかもしれない

それなら 二人きりになればいい

夜なら仕事も終わっている

周りに邪魔されることもない

レオンの部屋へ行って 二人だけでゆっくり話をする

そこで今日よりも少しだけ積極的に好意を伝える

そこまで考えたフローラは 勢いよく立ち上がった


「夜に会いに行けばいいんだ!」


名案を思いついたと言わんばかりに拳を握る


「二人きりなら レオン様だって少しくらい意識するはず」


フローラの顔に自信が戻っていく


「よし……今夜が勝負だ」


そう呟くと フローラは持ってきた荷物へ勢いよく駆け寄った

フローラは荷物を広げる


「勝負って言ったらやっぱりこれね」


荷物の奥から大切に包んでいた服を取り出す

マリナが荷造りを手伝ってくれた時

こっそり入れてくれた一着だった


「いつ使うのこれ……って思ってたけど 今しかない!」


少し頬を赤くしながら着替え始める

スケスケの青い生地に白のフリルが施された下着にその上から可愛らしい薄桃色のパジャマを羽織った

鏡の前へ立つ


「よし」


くるりと一回転

横から確認 前から確認

もう一度後ろ姿も確認する


「うん!」


満足そうに頷いた


「完璧!これならレオンも少しは意識してくれるはず!」


胸の前で拳を握る

何度も深呼吸を繰り返す


「落ち着け 私……大丈夫……ただ部屋へ行って話すだけ……うん……話すだけ」


そう自分に言い聞かせる

しかし頭の中では


『フローラ綺麗だよ』


とレオンに抱きしめられる姿を勝手に想像してしまう


「~~っ!」


また顔が熱くなる


「落ち着けってば!」


フローラは両手で頬を軽く叩く


「よし……行こう!」


静かに扉を開け 廊下へ出た

ノルディア邸の廊下は静まり返っている

使用人達もほとんど自室へ戻ったのだろう

暖炉の火だけが廊下を優しく照らしていた


「よし!誰もいない」


小さく笑みを浮かべる


「これは行けるかも」


足音を立てないようゆっくり歩き始める

レオンの部屋まであと少し

そう思った時だった


「こんばんは フローラ様」


「ひゃっ!」


突然後ろから声を掛けられ

肩が大きく跳ねる

恐る恐る振り返る

そこには執事のゼムが立っていた

背筋を真っ直ぐ伸ばし

いつもの穏やかな笑みを浮かべている


「ぜ ゼムさん……」


「このような時間にどうされましたか?」


「えっと……その……」


頭の中が真っ白になる

何か言い訳を考えようとするが 全く思い浮かばない


「あ……散歩……少し散歩でもしよう思いまして……」


苦し紛れに答える

ゼムは優しく微笑みながら頷いた


「そうでしたか……ですが 夜は冷え込みます 風邪を引かれますので あまり長く外へ出られませんよう」


「は はい」


フローラは内心ほっとした


(誤魔化せた……)


そう思った瞬間

ゼムは穏やかな笑顔のまま続けた


「それと……ぼっちゃまは本日も急遽フローラ様の迎え入れの準備や領地の仕事で大変お疲れでしたので すでにお休みになられました……どうかお休みの邪魔だけはなさいませんよう」


「…………」


フローラは固まった

全部読まれている

自分は何も言っていない

レオンの名前すら出していない

それなのに目的だけは完全に見抜かれていた

ゼムは最後まで穏やかな笑顔を崩さない


「それではフローラ様おやすみなさいませ」


一礼すると 静かにその場を離れていった

一人廊下へ取り残されるフローラ


「……」


数秒間そのまま立ち尽くす

そして肩を落とした


「……はい」


小さく呟くと とぼとぼと自室へ戻る

部屋へ入るなり勢いよく扉を閉めた


「なんでいるんだつーの! あのジジイ!」


フローラの素の口調が飛び出す


「執事だろ!?夜くらい寝ろつーの!」


枕を掴み 思い切りベッドへ投げる


「もう!」


そのままベッドへ倒れ込み足をばたばたさせる


「あと少しだったのに!」


悔しい

悔しすぎる

しばらく暴れたあと 力尽きたように仰向けになった


「でも……」


もしゼムがいなかったら

あのままレオンの部屋へ行って

扉をノックして

レオンが出てきて


『フローラ?』


驚いた顔で自分を見て

そこから二人きりで話をして

もし……レオンが自分を抱き寄せてくれたら


「~~~~っ!」


一気に顔が真っ赤になる


「何考えてるんだ 私!」


布団を頭まで被りベッドの上を転げ回る


「そんなことされたら 恥ずかしくて死ぬ!」


自分で想像しただけなのに心臓が激しく鳴り続けていた

しばらく布団の中で悶え続けたフローラは ゆっくりと顔だけを出した


「はぁ……」


まだ頬が熱い

心臓も少し早く鳴っている

天井を見つめながら小さく呟く


「駄目だ……いきなりは無理」


勢いだけで突っ走ろうとした自分が恥ずかしくなってきた

レオンは優しい だからきっと部屋へ行っても追い返したりはしない

でも そんな人だからこそ困らせたくなかった


「レオン様は悪くないもんね」


悪いのは全部 焦ってしまった自分だ

フローラはゆっくりと起き上がる

そしてベッドの上で足を抱えながら考え始めた


「まずは段階的に攻めよう」


いきなり二人きりになるんじゃない

もっと自然に もっと少しずつ


「まずは一緒にいる時間を増やそう」


明日の夜からは氷魔法を教えてもらえる

それなら分からないことをいっぱい聞こう

レオンと話す時間も増える


「朝も何か出来るかな」


そう呟いた瞬間 あることを思い出した


「そうだ 朝ご飯!」


思わず立ち上がる

レオンは毎朝訓練をしていると聞いていた

訓練が終わったらきっとお腹も空くはずだ


「朝ご飯を作って持っていけばいいんだ!」


その考えに一人で何度も頷く


「お父さんも朝 漁に行く前はお母さんのご飯を美味しそうに食べてたし 男の人って胃袋を掴めってお母さんも言ってた」


昼間に教えてもらった口説き方は失敗した

でも料理には少し自信がある

港町で育った魚料理なら誰にも負けない


「よし!……明日は朝早く起きよう」


パンも焼いて魚介のスープも作る

レオンが喜んでくれる顔を想像すると 自然と笑みが零れた


「お昼は一緒にお茶でも飲めたらいいな」


少しずつ 本当に少しずつ距離を縮めればいい 焦る必要はない


「恋愛も商売と同じ 信用を積み重ねるのが一番大事」


いつだったかレイモンドが言っていた言葉を思い出す


「うん 焦らない……絶対に振り向かせる」


小さく拳を握る

窓の外では冷たい風が静かに木々を揺らしていた

暖炉の火も少しずつ小さくなっていく

フローラは布団へ潜り込む


「おやすみ レオン様」


誰にも聞こえないほど小さく呟く

そして明日の作戦を思い浮かべながら 静かに目を閉じた





翌朝まだ空が白み始めたばかりの早朝

フローラは勢いよく目を覚ました


「よし!作戦開始!」


そう言うと 急いで着替えを始めた

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