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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
帝国の頭脳と和平条約

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間章 白銀の聖剣と帝国の剣 後編

それから数日 朝になると

エミルは自然と訓練場へ足を運ぶようになった

そこにはいつもルーカスが待っていた


「おはようございます ルーカスさん」


「ああ」


いつもと変わらず 短いやり取り

二人にはそれだけで十分だった

二人は木剣を手に取り 静かに向かい合う


ガンッ!!


木剣がぶつかり合う

ルーカスの剣は鋭い そして踏み込みも速い

一瞬の隙を逃さず斬り込んでくる

対するエミルは 流れるような足運びでその一撃を受け流す

教国式と帝国式

異なる剣術だからこそ

互いに学ぶことは多かった

訓練が終わる度に自然と反省会が始まる


「今の踏み込みはどうでしたか?」


エミルがルーカスに尋ねる

ルーカスは少し考えて答えた


「悪くない……だが 最後に少し足の先が次の方へ向く そこを読まれる」


エミルは納得したように頷く


「なるほど ありがとうございます」


今度はルーカスが口を開く


「教国式は どうすればもっと殺気を隠せる?」


エミルは少し考えてから答えた


「無理に隠そうとしないことです 相手を倒そうと考えるほど 殺気は漏れます まず 心を落ち着かせ 自然に剣を振ることを意識してください」


ルーカスは静かに頷く


「……難しいな」


「はい ですが ルーカスさんなら必ずできるでしょう 筋はとても良いですから」


その言葉にルーカスは少しだけ口元を緩めた


「そうか」


二人は再び木剣を構える


ガンッ!!


何度も剣を交え

互いの長所を学び合う

いつしか「ルーカス様」という呼び方は「ルーカスさん」へ変わり

ルーカスも「白銀の聖剣」ではなく「エミル」と自然に呼ぶようになっていた

剣を通して二人の距離は少しずつ縮まっていった


訓練を終え 木陰で温かいお茶を飲みながら一息つく

静かな朝だった

ルーカスは湯気の立つ湯飲みを見つめながら

ふと口を開いた


「三年前の話だ」


エミルは静かに顔を上げる


「レオン君のお話ですか?」


ルーカスは小さく頷いた


「ああ アイツがまだ十二歳だった頃の話だ」


ルーカスは静かに話し始めた


「俺が勝手にボア狩りへ行った そして少し森の奥へ踏み込み過ぎた そこでグレイムベア二体に遭遇した」


エミルは目を見開く


「グレイムベア二体……ですか?」


一体だけでも騎士団が討伐隊を編成するほどの魔獣 それが二体

当時のルーカスでは命を落としていても不思議ではなかった

ルーカスは苦笑する


「完全に油断していた そこで助けに来たのがレオンだ」


エミルは静かに耳を傾ける

ルーカスはその時の光景を思い返すように目を細めた


「アイツは現場へ来た瞬間 状況を全部把握した」


ルーカスは短く言葉を切る


「迷い無く ガレス達三人に一体を任せ もう一体をリックとレオンの二人で相手をした」


エミルは静かに頷く

あの二人なら納得できる配置だった

だが 次の言葉に息を呑む


「そしてリックの牽制の矢を放ちグレイムベアの懐に入ると 一撃だった レオンは一太刀で首を落とした」


エミルは驚きを隠せなかった


「十二歳のレオン君が……」


ルーカスは静かに頷く


「ああ 剣術だけなら あの頃のアイツはまだイマイチだった 今の方が遥かに強い」


そう言って少し笑う


「だが 連携 指揮 状況判断 その三つだけは昔から完成されていた 誰に何を任せれば一番生き残れるか 誰が何をすれば一番早く終わるか 全部 一瞬で決めていた」


ルーカスは静かにお茶を口へ運ぶ


「あの時……俺の考えが変わった」


エミルは優しく微笑んだ


「レオン君らしいですね 自分が活躍することより 皆さんが無事に帰ることを優先したのですね」


ルーカスは小さく頷く


「ああ アイツは昔からそういう奴だ 剣で勝つことより 皆を生かして勝つことを考える」


その言葉を聞き

エミルは改めて納得した

レオンの本当の強さは剣だけではない

人を導き

仲間を信じ

最善の答えを選び続ける力

だからこそ これほど多くの人がレオンを信頼しているのだとエミルは静かに理解した




更に数日後 ルーカスが帝国へ帰る日の朝

訓練場にはいつものように木剣の音が響いていた


ガンッ!!


最後の一撃がぶつかり合い

二人は同時に木剣を下ろす

静かな冬の風が吹き抜けた

ルーカスは木剣を肩へ担ぎ小さく息を吐く


「今日で最後だな」


エミルも微笑みながら頷いた


「はい……少し寂しくなりますね」


ルーカスはエミルへ向き直る


「エミル 滞在中 訓練に付き合ってくれて感謝する おかげで良い勉強になった」


エミルは首を横に振る


「こちらこそです 私も帝国式の剣術を学ばせていただきました ありがとうございます」


ルーカスは静かに頷く


「教国の剣術は俺に合う 殺気を隠す戦い方は面白い 帝国へ戻ってからも教国式の訓練は続ける」


その言葉にエミルは嬉しそうに微笑んだ


「ルーカスさんなら すぐに使えるようになります 筋はかなり良いですので」


ルーカスは少しだけ目を細める


「そうか」


「はい ルーカスさんは飲み込みがとても早いです 教国でも間違いなく優秀だと評価されます」


ルーカスは小さく笑う


「白銀の聖剣にそう言われると悪い気はしない」


少しの沈黙が流れる

その後 ルーカスは何かを思い出したように口を開いた


「そういえば 昨日の夜に兄貴から聞いた話だ」


エミルは小さく首を傾げる


「何でしょうか?」


「レオンは婚約者候補にエミルの名前が挙がったらしい」


「えっ……」


思わず声が漏れる

ルーカスは気にした様子もなく続けた


「その時 あいつは『私には勿体ない女性です』と言ったそうだ」


その瞬間エミルの思考が止まった


(わ……私が……)


頬がみるみる赤く染まる

瞳が揺れ 視線が泳ぐ


「わ……私が……レオン君の……」


エミルは言葉にならない

胸の鼓動だけが大きく響く

そんなエミルを見ても

ルーカスは普段と変わらない表情だった


「俺はエミルならレオンとお似合いだと思うけどな」


帝国では優れた剣士同士が結ばれることは珍しくない

強者が強者と婚姻を結ぶ事は帝国ではごく普通の考え方だった

なのでルーカスも純粋にそう思っただけだった


「お……お似合い……」


エミルは耳まで真っ赤になる


「わ……私は……その……」


言葉にならず俯いてしまう

ルーカスは不思議そうに首を傾げた


「エミル 顔が赤いぞ?風邪か?」


恋愛には驚くほど鈍い第二皇子は本気で心配しているだけだった

エミルは慌てて何度も首を振る


「だ……大丈夫です!そ……それでは 私はこれで失礼いたします!」


深く一礼すると恥ずかしさに耐えられず足早にその場を後にした

その後ろ姿を見送りながら

ルーカスは小さく肩を竦める


「……変な奴だな」


そう呟くと木剣を肩へ担ぎ

帝国一行が滞在している宿場町の宿へ向かって歩き出した

冬の朝日が新たな友となった教国の聖騎士を優しく照らしていた


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