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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
帝国の頭脳と和平条約

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第242話 クロエの怒る理由

ジークハルト達が王国を去った翌日ノルディア邸の執務室には

レオンは机へ向かい積み上げられた書類へ目を通していた

コンコンと軽いノックが響く


「ああ いいぞ」


扉が開きクロエが大量の書類を抱えて入ってくる


「はい!追加だよ」


そう言って ドサッと机へ書類を置いた

レオンは思わず苦笑する


「また増えたのか」


「増えたよ」


クロエも苦笑しながら椅子へ腰掛けた


「大変だったよー 王子のアレクとは顔見知りだから会わないようにするの」


レオンは小さく笑う

確かに クロエは元ヴァイスフェルト公爵令嬢

王族とは何度も夜会で顔を合わせている

見つかれば 今まで隠してきた正体が露見する可能性もあった


「そのお陰で 僕は安心して商談へ行けたからね」


クロエは笑顔で一枚の書類を差し出す


「かなり纏まったよ」


レオンは受け取り

素早く内容へ目を通す

取引先の追加

冬季の食料契約

保温箱の注文

帝国との武具の価格交渉

どれも予想以上の成果だった

レオンは顔を上げ優しく笑った


「ありがとう 助かるよ」


その言葉にクロエは何も答えず

じっとレオンを見つめていた

その視線に耐えきれずレオンは苦笑する


「なんだ?俺の顔になんか付いてるか?」


クロエはゆっくり首を横へ振った

その表情は どこか怒っているようにも見える


「どうして……ノルディアが滅びる未来を見た事を黙ってたの?」


レオンの表情が止まる

しばらく沈黙が流れた

やがてレオンは真っ直ぐクロエを見つめ 静かに答えた


「……すまない」


その一言だけだった

クロエは机へ両手を置く


「僕は怒ってるんだ その事を黙っていた事も……あの魔眼に大量の魔力を使った事も」


レオンは何も言わない

クロエは続ける


「あの魔眼を使うたびにレオンが痛そうにしてるのは知っている それなのにありったけの魔力を流し込んだんでしょ?あれだけの未来を見るためにどれだけ痛かったの?」


レオンは視線を逸らした

クロエの脳裏にある日の出来事が浮かぶ

レオンが二日間寝込んだ日

原因も教えてくれず

ただ無理をしたと言って笑っていた

クロエは静かに問い掛ける


「あの日なんでしょ?魔眼で見たのは」


レオンは小さく頷いた


「……ああ」


その瞬間クロエは唇を強く噛んだ


「どうして……どうしてもっと頼ってくれないの?どうして一人で抱え込むの?どうして自分の身を危険に晒してまで……魔眼を使ったの?」


震える声だった

怒っている けれどその怒りは責めるためではない

大切な人が傷付いたことへの怒りだった


「レオンは いつも一人で全部背負おうとする……そんなの……僕は嫌だよ」


執務室は静まり返る

レオンは何も言えず

ただ静かにクロエの言葉を受け止めていた

レオンは小さく息を吐いた

そしてクロエを真っ直ぐ見つめる


「俺は……かなりクロエには頼ってたと思っていた」


クロエは静かにレオンを見る

レオンは苦笑しながら続けた


「現に目標の金貨二万枚もほぼ集まっている ここまで来られたのはクロエのお陰だ それ以上の事をクロエに頼むのは少し気が引けていた……すまん」


クロエは少し驚いたように目を瞬かせた

レオンが本気でそう思っていたことが伝わったからだ

怒っていた表情が少しだけ柔らかくなる


「レオン……もうレオンはノルディアの領主なんだよ?もしもレオンに何かあったら皆どうすればいいの?」


レオンは静かに聞いていた

クロエは続ける


「騎士団も領民もゼムさんも……僕も……みんなレオンがいるから頑張れるんだよ だからもっと自分を大事にして お願いだから一人で全部抱え込まないで」


レオンは静かに頷いた


「……ああ」


クロエは安心したように笑う

だが次の瞬間 ぽつりと呟いた


「まだ結婚だってしてない……」


その言葉にレオンは首を傾げる


「ん?」


クロエは自分が何を口にしたのか気付き

顔が一気に赤く染まった


「……それに 子供だって……」


言い終えた瞬間

クロエは両手で顔を押さえた


「~~~っ!」


「ぼ 僕 あとする事あったんだった!」


勢いよく立ち上がる


「無理だけはしちゃダメだよ!」


そう言い残すと顔を真っ赤にしたまま

慌てて執務室を飛び出していった


バタンッ


勢いよく扉が閉まる

静まり返った執務室

レオンは閉まった扉を見つめながら首を傾げた


「……子供?」


何が言いたかったのか分からず

不思議そうに呟くのだった



執務室に静寂が戻る

レオンは椅子へ深く腰掛け 小さく息を吐いた


「未来は……変わったのか」


ぽつりと呟く

ジークハルトとの和平条約

あれは王国と帝国の未来を大きく変える出来事だった

レオンは前世の記憶を思い返す


乙女ゲーム


『ノルドレア・ロワイヤル』


ルーカスルートでは帝国と王国は戦争を始める

その原因は帝国内部が二つに割れることを恐れたジークハルトが選んだ未来だった

第二皇子ルーカスを王国の学園へ留学させ

ルーカスと第一王子アレクは同じ学園そして同じ上位貴族クラスになる

交流が生まれることもジークハルトは最初から計算していたのではないか

戦争が始まった時ルーカスなら止めてくれる

そう信じていたのかもしれない

そして乙女ゲームでは主人公エリシアとルーカスは力を合わせ 王国と帝国の戦争を止める

英雄となるのはルーカスだが

その英雄譚の裏で討ち取られるのは第一皇子ジークハルトだった


「自分が悪役になって……弟を英雄にする……か」


レオンは静かに目を閉じる

帝国を守るため弟を守るため

自ら命を捨てる未来

そんな結末をジークハルトは受け入れていたのかもしれない

だが もうその未来は違う

王国と帝国は新たな和平条約を結んだ

アレクとジークハルトは笑い合い

ルーカスも未来を語っていた

誰一人 死ぬことを前提にはしていなかった

レオンはゆっくりと窓の外を見る

雪が静かに降り始めていた


「少しずつ……未来は変わってきている」


その言葉には確かな実感があった

悪役令嬢クラリスを救うために始めた行動

その一つ一つが世界そのものを変え始めている

レオンは静かに拳を握る


「このまま 誰も死なない未来へ必ず辿り着いてみせる」


静かな決意だけが執務室に響いていた

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