第240話 忘れられない人
アレクはゆっくりと目を開いた
目の前ではボア肉の串焼きが香ばしい音を立てながら焼かれている
懐かしい香りが鼻をくすぐった
アレクは小さく笑う
「それから毎年だった 建国祭の日になる度に城を抜け出して王都の祭りへ行った……串焼きを食べながら また会えるんじゃないかって」
少し照れくさそうに笑う
「結局 一度も会えなかったが」
そう言って 串焼きを見つめるアレクの横顔はどこか寂しげだった
レオンは静かにその横顔を見つめる
ゲームでも二人が幼い時にアレクがエリシアへ
肉と野菜をパンに挟むレシピを教える場面はあった
だが どうしてアレクがそのレシピを知っていたのか
二人がいつ出会ったのか
その理由までは描かれていなかった
まさか七年前の建国祭で出会い
その日の何気ない会話から生まれたレシピだったとは
レオンも知らなかった
そして過去を懐かしそうに語るアレクを見て
レオンは一つの可能性に辿り着く
ゲームではアレクとクラリスの婚約は最後までどこか噛み合わなかった
その理由は王族同士の政略結婚だからだと思っていた
だが違うのかもしれない
アレクの心は"七年前"エリシアと出会ったあの日から
ずっと彼女へ向いていた
だからこそ クラリスとの関係も最後まで上手く築けなかったのではないか
レオンはそんな可能性を静かに考えていた
「お待たせしました!」
店主が焼きたての串焼きを差し出す
アレクは一本受け取ると
ゆっくりとかぶりついた
香ばしい香りと共に
肉の旨味が口いっぱいに広がる
思わず笑みが零れる
「やっぱり美味いな ノルディアのボア肉は」
レオンも一本受け取り笑った
「王都の串焼きと比べてどうですか?」
アレクは少し考え
静かに頷く
「確かに王都より確かに美味しいな……だが あの日に食べた串焼きは特別だったんだ」
ジークハルトは優しく微笑む
「味ではなく 思い出の味ということですね」
アレクも小さく笑う
「きっとそうなんだんでしょうね」
冬の澄んだ空へ白い息がゆっくりと溶けていった




