第239話 忘れられない横顔
二人は噴水を後にすると再び祭りの通りを歩き始めた
西へ傾いていた夕日はいつの間にか地平線へ沈み
空は茜色から群青色へと変わっていく
露店の軒先には次々とランタンが灯され
温かな明かりが石畳を照らした
通りには昼間以上の人が集まり
家族連れ
恋人達
旅人
誰もが建国祭の夜を楽しんでいる
焼き鳥の香ばしい匂い
甘い菓子の香り
楽器を奏でる音色と
人々の笑い声が城下町に響いていた
「あっ!」
少女は気になる露店を見つけるたびに立ち止まる
「見て!あのお菓子美味しそう!」
無邪気にはしゃぐ姿を見て
アレクも自然と笑みを浮かべていた
祭りを歩いているだけなのに時間は驚くほど早く過ぎていく
やがて空はすっかり夜へ変わった
見上げれば無数の星が輝き始め
城下町を包むように
祭りの灯りがどこまでも続いている
その時だった
ドォンッ!!
と夜空へ大きな音が響き 一発の花火が打ち上がった
続いて 赤 青 黄色 と色鮮やかな花火が夜空いっぱいに咲き誇る
「わぁ……」
少女は足を止め
嬉しそうに夜空を見上げた
アレクも花火へ目を向ける
だが次の瞬間アレクの表情が変わる
「まずい!」
少女が振り返る
「どうしたの?」
アレクは慌てて答えた
「俺 帰らなくちゃ!帰る時間を過ぎてる!」
少女は少し寂しそうに笑う
「そっか……気を付けて帰ってね」
そう言うと再び夜空を見上げた
ドォンッ!!
夜空に大輪の花火が咲く
その光が少女を優しく照らす
夜風に揺れる明るい茶色の髪
夜空を見上げる茶色の瞳には
色鮮やかな花火が映り込んでいた
幻想的なその横顔にアレクは思わず見とれてしまう
帰らなくてはいけない
そう分かっているのに足が動かなかった
少女がゆっくりと振り返る
「またね!」
満面の笑みで大きく手を振る
アレクも我に返り
小さく手を振り返した
「ああ……またな!」
そう言い残しアレクは王城へ向かって駆け出した
それでも一度だけ振り返る
少女はまだ花火を見上げていた
茶色の瞳に色鮮やかな花火を映しながら




