第237話 優しい少女
「どうしたの?」
その声にアレクと店主は同時に振り向いた
そこには一人の少女が立っていた
年齢はアレクと同じくらい
明るい茶色の髪を肩まで伸ばし
大きな瞳で不思議そうにこちらを見つめている
整った顔立ちだが綺麗というよりも
可愛らしいという言葉がよく似合う少女だった
店主は苦笑しながら事情を話す
「この坊主がな 金貨しか持ってなくてよ 釣りが用意出来ねぇんだ」
少女はアレクと店主を交互に見つめた
「そっか……」
小さく呟くと財布を取り出す
中には今日貰ったばかりのお給金
銅貨五十枚が入っていた
少女はその銅貨を見つめる
初めて自分で働いて手にした大切なお金
少しだけ考え込む
やがて決心したように頷くと店主を見上げた
「おじさん!串焼き二本下さい!」
財布から銅貨二十枚を取り出し
店主へ差し出す
店主は少し驚いたように少女を見る
「本当にいいのか?」
少女はにっこりと笑った
その人懐っこい笑顔は見ているだけで心が温かくなるような笑顔だった
「うん!」
店主は笑顔で銅貨を受け取り
焼きたての串焼きを二本渡した
「毎度!」
少女は一本を受け取ると
もう一本をアレクへ差し出した
「はい!」
アレクは目を丸くする
「俺にか?」
少女は笑顔で頷く
「うん!一緒に食べよう!」
アレクは串焼きを受け取った
「ありがとう」
そう言うと財布から金貨を一枚取り出し
少女へ差し出す
「立て替えてくれた分だ」
少女は目を丸くした
「えっ?」
そして慌てて首を横に振る
「そんな大金受け取れないよ!私が勝手に買ったんだから」
「でも……」
「今日初めてパン屋のお給金が出たの!銅貨五十枚も貰えたんだよ!」
嬉しそうに財布を抱きしめる
「だから今日は私が奢ってあげる!」
アレクは差し出した金貨を見つめる
受け取る気はないらしい
初めて会った自分のために
初めてのお給金を使ってくれた
「……そうか」
アレクは金貨を財布へ戻す
そして少女を真っ直ぐ見つめた
「ありがとう」
少女は満面の笑みを浮かべた
「どういたしまして!」
二人は並んで串焼きを頬張る
炭火で焼かれたレッドボアは外は香ばしく
中から肉汁が溢れ出した
「美味いな」
思わず零れた一言に
少女は嬉しそうに笑う
「でしょ!」
初めて会ったはずなのに
二人の間には自然と笑顔が溢れていた




