第236話 建国祭
七年前 王都では年に一度の祭りの建国祭が開かれていた
建国を祝う王国最大の祭り
秋晴れの空の下
城下町には各地から訪れた人々が集まり
露店が通りを埋め尽くしていた
大道芸人の芸に歓声が上がり
子供達は笑顔で駆け回る
辺りには焼き立ての肉や甘い菓子の香りが漂い
街全体が活気に満ちていた
日が沈めば 王都の夜空には大輪の花火が打ち上がる
誰もがこの日を楽しみにしている
一年で最も賑わう特別な一日だった
だが 王城の中だけは違っていた
カンッ!
カンッ!
訓練場へ木剣の音が響く
「そこまでです」
レックスが木剣を下ろした
七歳になったアレクは肩で息をしながら木剣を握っている
「今日はここまでにしましょう」
アレクは木剣を置くと
遠くから聞こえてくる賑やかな声へ耳を傾けた
楽しそうな祭りの音だった
「いいなぁ……」
思わず本音が漏れる
レックスは苦笑した
「今日は建国祭ですからね 今年も大勢の人で賑わっているでしょう」
アレクはレックスを見上げる
「なぁ 少しだけ見に行っちゃ駄目か?」
レックスは即座に首を横へ振った
「駄目です」
「どうしてだ?!」
「殿下は王子です 何かあれば国中が大騒ぎになります」
アレクは頬を膨らませる
「少しだけ!すぐ戻るから!」
「駄目です」
「なら変装する!」
「それでも駄目です」
アレクは大きく頬を膨らませた
「レックスのいじわる」
レックスは困ったように笑う
「そう思われても構いません 殿下をお守りするのが私の役目です」
アレクは納得出来ないまま訓練場を飛び出した
向かった先は王城の執務室だった
アレクはコンコンと扉を叩く
「おじい様」
返事を聞いて扉を開ける
部屋では先代国王アルフレッド・エルグランドが書類へ目を通していた
孫の姿を見ると優しく微笑む
「どうした アレク」
アレクは机の前まで駆け寄る
「おじい様お願い!建国祭へ行きたいんだ!」
アルフレッドは苦笑した
「またレックスに止められたか?」
アレクは何度も頷く
「少しだけでいいのに 駄目だって」
アルフレッドは椅子から立ち上がる
「実はなワシが若い頃も似たようなものだった」
アレクは驚いた
「おじい様も?」
「ああ 腹違いの妹 ローランと一緒に城を抜け出して祭りへ遊びに行ったものだ 護衛にはよく叱られたがな」
アレクは思わず笑う
「おじい様も怒られたんだ」
「もちろんだ」
アルフレッドは棚から質素な服を取り出した
「これを着なさい 平民が着る服だ 新品だから安心しなさい」
アレクは嬉しそうに服を抱き締めた
「ありがとう!」
アルフレッドは頷くとアレクを子供部屋へ連れて行く
暖炉の横で足を止めた
「よく見ておきなさい」
そう言って 一つだけ色の違うレンガを手前へ引く
ゴゴゴ……
鈍い音と共に床がゆっくりと開き
地下へ続く石階段が姿を現した
「わぁ……」
アレクは目を輝かせる
アルフレッドは静かに話す
「王城が敵に攻め込まれた時のための避難用通路だ 代々王族しか知らぬ秘密の道でもある……だがこの通路を使うのは建国祭の日だけ 祭りの日だけは城下町へ行ってもよい ただし必ず帰ってくること……そして誰にも迷惑を掛けないこと」
アレクは満面の笑みで頷いた
「うん!約束する!」
着替えを済ませるとアレクは初めて秘密の通路を歩いた
長い石造りの通路を抜け出口を押し開ける
目の前には祭りで賑わう王都の城下町が広がっていた
「すごい……」
初めて見る祭りの光景
行き交う人々
露店の呼び込み
焼き立ての料理の香り
その全てが新鮮だった
アレクは胸を躍らせながら露店通りを歩いていく
すると香ばしい匂いが鼻をくすぐった
炭火の上では美味しそうな串焼きが焼かれている
アレクは思わず足を止めた
「これって何の肉?」
店主は串を返しながら笑う
「レッドボアだ!この時期に北の辺境伯のグラニウス様が氷を作ってくれるおかげで この時期だけ新鮮な肉が王都へ届くんだ 王都じゃ珍しいだろ?」
アレクは首を横に振る
「いや ステーキは何回か食べたことあるぞ」
店主は少し驚いたように目を丸くした
「……そうか……なら味は知ってるか……でも串焼きはまた格別だぞ?」
店主は焦りながら焼き上がった串焼きを持ち上げる
肉汁が炭へ落ち
香ばしい音と香りが辺りへ広がった
「一本食べてみるか?」
アレクは目を輝かせた
「あぁ頼む!」
そう言って財布を開く
だが入っているのは金貨だけだった
店主は困ったように頭を掻く
「すまねー 金貨だと悪いが釣りがねぇ」
アレクは困ってしまう
その時だった
「どうしたの?」
通りすがりの一人の少女が不思議そうに声を掛けた




