第234話 和平条約調停の一週間
三国の模擬戦から一週間が過ぎた
その間 レオンは毎日のようにジークハルトとアレクと共に執務室へ集まり 会議を重ねていた
議題は王国と帝国の今後について
和平を未来へ繋ぐための具体的な話し合いだった
まず決まったのはバルト山脈の調査である
王国と帝国は合同で調査隊を編成し 魔獣が活性化している原因を調査することとなった
発見した情報は互いに隠さず共有する
それが最初の取り決めだった
続いて決められたのは有事の対応である
魔獣氾濫が発生した場合
国境付近での軍の行動
情報伝達の方法
援軍要請の手順
避難民への対応
細かな部分まで三人で意見を出し合い 一つ一つ決めていった
さらに帝国は年に一度 ノルディア領へ視察団を派遣することとなる
隊長はルーカス
共同訓練と情報交換
そして両国の親睦を深めることが目的だった
最後に決まったのは月に一度の書状である
レオンとジークハルトが互いに書状を送り合い
王国と帝国の情勢
魔獣の情報
領地で起きた出来事
それらを共有する
こうして王国と帝国は 次の世代でも互いに協力し合う体制を築いていくこととなった
一方その頃 ルーカスは毎朝訓練場へ通っていた
「よろしく頼む 師匠」
「師匠と言われるのは少々小恥ずかしいですが……今日も始めましょう」
ゼムへ正式に弟子入りしたルーカスは 毎日剣を学んでいる
その隣ではリックが盛大にため息を吐いていた
「なんで俺が……」
朝早く寝ていたところをルーカスに叩き起こされ 半ば強引に訓練場まで連れて来られたのである
ルーカスは木剣を肩へ担ぎ 淡々と言った
「貴様は俺の相手に丁度いい だから連れて来た」
「いやいや……俺 ノルディアの騎士なんだけどなぁ……」
ぼやくリックへ ルーカスは即座に答える
「問題ない レオンから許可は下りてる」
「領主公認かよ!権力の乱用だ!」
リックは頭を抱えた
だがルーカスは首を傾げるだけだった
「何か問題があるのか?」
「問題しかねぇよ!」
そのやり取りを見て ゼムは思わず笑みを浮かべる
「今日も賑やかですね」
時間が合えばエミルも訓練へ加わり 四人で汗を流す日々が続いていた
クロエは宿場町へ足を運び
ボア肉事業
教国との取引
フェルナード領と教国との貿易
それぞれの状況を確認して回っていた
フローラもまた ジークハルトやアレクを招き お茶会を開くことが何度かあった
互いに王子という立場を忘れ 穏やかな時間が流れていく
そして一週間後
最後の会議が終わった
ジークハルトは静かに書類を閉じる
「これで全てですね」
レオンも頷く
「ええ……今決められることは全て決まりました」
アレクは大きく息を吐いた
「思っていた以上に話し合ったな ここまで具体的になるとは思わなかった」
ジークハルトは穏やかに微笑む
「和平とは結ぶだけでは意味がありません 続けてこそ価値があります」
その言葉に二人も頷いた
今回決まったことは全て
未来の王国と帝国を繋ぐための約束だった
重苦しかった空気も少し和らぐ
アレクは椅子へ深く腰掛けたまま口を開いた
「そういえば婚約者の話なんだが……俺には婚約者はいるが……」
そこで少し苦笑する
「まあ 色々あってな」
レオンは静かに頷いた
(まだ上手くいっていないか……)
前世でも二人の距離は縮まらなかった
そしてそれがクラリスの運命へと繋がっていく
(あと四年……必ず救う)
誰にも気付かれぬよう 心の中で改めて誓う
「ジークハルト殿下はどうなんですか?」
レオンが尋ねるとジークハルトは肩を竦めた
「私はまだ婚約者は居ないですが 恐らく将軍家の娘のどちらかになるでしょう 皇族ですから 政略結婚は避けられません」
「ルーカスはどうなんですか?」
その問いにジークハルトは少し笑う
「あれは父上にはっきり言っていました……『俺はまだ婚約はしない 』と 今は相手を探すつもりもないそうです」
レオンは思わず苦笑した
いかにもルーカスらしい
今度はアレクがレオンを見る
「そういうレオン殿はどうなんだ?辺境伯でありながら派閥に属していない だから皆様子見なんだろうが……」
するとジークハルトが静かに言った
「ですが教国は違うかもしれません あの白銀の聖剣エミル殿が来られた……その理由は監査だけではなく 将来を見据えた縁談という可能性もあります ノルディアとの繋がりを強くするために」
レオンはすぐに首を横へ振った
「それはありませんよ エミルさんは私には"勿体ない女性"です」
ジークハルトとアレクは顔を見合わせ 小さく笑う
「そうですか」
ジークハルトはそれ以上追及しなかった
代わりに静かに言う
「帝国もいずれ同じことを考えるでしょう 」
アレクも笑みを浮かべる
「王国なら多分だがフェルナードの聖女 フローラを推すだろうな」
レオンは苦笑するしかなかった
そんな話をしていると アレクが立ち上がる
「レオン殿一つお願いがある」
「何でしょう?」
「帰る前に少し街を見て回りたい 案内してもらえないだろうか」
レオンは微笑みながら頷く
「もちろんです」
するとジークハルトも静かに口を開く
「私もぜひご一緒したいですね ここ最近 急速に発展している街だと聞いています ぜひこの目で拝見したいです」
レオンは頷いた
「分かりました……それではご案内します」
三人は席を立ち 執務室を後にした




