第232話 老執事の剣と天才の剣
レオンはゆっくりと右手を振り下ろした
「始め!」
その瞬間だった
バチッバチッとリックの全身から青白い雷が迸る
激しい雷光が身体へ絡みつき
乾いた雷鳴が訓練場へ響いた
「なっ!」
レックスが目を見開く
「雷属性……!」
エミルはリックを見つめ
小さく息を呑む
「凄い魔力の密度の身体強化……」
ジークハルトも驚きを隠せない
「雷属性とは……」
ルーカスは目を見開いた
「魔力量……俺より多いな」
アレクだけが言葉を失っていた
「…………」
ドンッ!! とリックが地面を蹴る
その姿が一瞬でゼムの懐へと消える
ガガガガガッ!!と雷を纏った木剣が凄まじい速度でゼムへ襲い掛かった
右 左 袈裟斬り 突き と常人なら目で追うことすら難しい連撃
カンッ!
カンッ!
カンッ!
と乾いた音だけが訓練場へ響く
ゼムは身体強化を使わない
木剣の軌道
足運び
肩の僅かな動き
その全てから次の一撃を読み
最小限の動きだけで受け流していく
「全部……読まれてる?」
リックは思わず距離を取った
「なら!」
リックは木剣を横へ払う
バチバチバチッ!!
雷の魔力が一気に収束する
「《雷撃》!」
放たれた雷は 発動とほぼ同時にゼムのいた場所へ到達する
「速い!」
レックスが叫ぶ
しかし その瞬間
ゼムの身体へ淡い緑色の魔力が纏った
「風属性の身体強化……!」
ルーカスが目を見開く
それは 自らが最も得意とする風の身体強化
ゼムの姿が掻き消える
「なっ!?」
次の瞬間には 数メートル横へ立っていた
ドォンッ!!と雷が地面を穿つ
リックは続けて雷撃を放つ
二発 三発 四発と轟音が訓練場へ響き渡る
だが ゼムは消えては現れ 消えては現れる
風そのもののような動きで全ての雷撃を躱していく
ルーカスは思わず息を呑んだ
「俺の身体強化と……同じ……いや……使い方は雲泥の差だ」
ジークハルトも静かに目を細める
「風をここまで扱える方が王国にいたとは……」
リックは額へ汗を浮かべ 苦笑した
「さすがゼムさん……当たらないなー」
ゼムは静かに木剣を下ろした
「準備運動はそろそろ終わりにいたしましょう」
その瞬間ゼムの姿が消えた
「へ?……」
リックから間の抜けた声が漏れる
次の瞬間だった
ドゴォンッ!と凄まじい衝撃音が訓練場へ響く
「がっ!?」
リックの身体が宙へ舞い
そのまま地面に叩きつけ 何度も転がった
そして 土煙が舞い上がる
誰一人何が起きたのか理解できなかった
レックスは目を見開いたまま呟く
「これが……英雄グラニウス様の右腕……噂には聞いていたが まさか本当だったとは……」
エミルも無言のままゼムを見つめる
ジークハルトも言葉を失っていた
ルーカスだけがニヤリと口角を上げる
土煙が晴れると そこには仰向けに倒れたリックと その首元へ木剣を突き付けるゼムの姿があった
レオンは静かに右手を上げる
「そこまで……勝者 ゼム」
その宣言と同時に訓練場は再び静寂に包まれた




